悪意を植え付けられた者達12

 実際彼がアウルに勝てないのかというと、少し疑問があった

 結論は場合によるということだ

 確かにアウルは理不尽な悪意

 逆らう前に悪意に染め上げられ、戦う前に負けること前提の戦闘

 しかしアトラ・バレンティエンの力には特質すべき点があった

 悪意によって強化される前から彼の力は異質だったのだ

 誰も彼に逆らえなかった理由

 彼に攻撃を仕掛ける者はだれもかれもが同じ攻撃を喰らって倒れる

 理由が掴めず、不気味に思った人々は、彼と関わることを辞めた

 その結果彼は自分は何一つ悪いことをしていない。全てが他人のせい、誰も自分を愛さないなら、自分だけが自分を愛す

 そう考えるようになった

「ふひひ、ひひ、ふふふひひ、ね。だから言ったでしょう。僕は何もしてないんだ。全部君たちがやって、自分に帰って来てるんだ。因果応報。それが僕の力だよ」

 彼に関して行われた攻撃は、物理的にしろ精神的にしろ、全てが攻撃を加えた者に帰ってくる

 彼に敵意を向けることこそが敗因となるのだ

 何もできない

 何もしなければ彼の力は発動せず、彼も攻撃してくることはない

 まあ彼が普通に攻撃したとしても、普通の少年程度の力しかないためリルカたちに届くことは決してない

 しかし攻撃しなければ勝てない

 彼はどんどん増えていき、やがて数万人単位になった

「ほおら、攻撃していいよ。僕は何もしないんだ。何もしない。でも何もできない。ふふ、ふひひふふ」

 いやらしい笑いだ

 地面に転がり、息も絶え絶えの演技をするイツキを見て笑っているようだ

 イツキ自体は傷だらけで死にそうに見えるが、実際大したダメージなど負っていない

 彼もまた異質

 全力で攻撃したように見えたが、それはアトラの能力を測るためだった

「ふひ、どんどんどんどんどんどん増える」

「まいりましたね。攻撃できません」

「ミルカ、あなたはイツキを頼みます」

「え、でもお母様」

「大丈夫です。攻略の方法は彼自身が教えてくれましたから」

 リルカは笑っている本体に近づく

「無駄、ふひ」

 まだ負けないと思っているアトラは、直後ただ驚くだけだった

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