大勇者と従者1

 従者となったアンはうれしそうにアイシスの後をついていく

 話を聞くと、アンは生まれたころから一人だったらしい

 赤ん坊のころに孤児院に預けられ、そこでは壮絶ないじめを受けていた

 一番小さいため他の孤児たちに食べ物を奪われ、孤児院の教諭たちからは鞭うたれていた

 あるとき教員が放った鞭が彼女の背中から外れ、近くにあったロウソクを倒し、たまたま横にあった油にもあたって一気に引火

 不幸にも油が顔にかかったため彼女の顔も焼け、右半分がケロイド状になってしまったそうだ

 喉も焼けてしまったため、言葉も出なくなった

(それで仮面をつけているのか・・・。辛かっただろうに)

 もともとカワイイ顔立ちだったアンはそれによりさらにいじめが激しくなった

 ご飯も与えられず、街で残飯を漁る毎日

 街ではケロイドの顔を不気味に思われ追い払われ、時には殴る蹴るの暴行を受けていた

 それでも彼女は生きようと必死だった

 生きていればきっといいことがあると信じて

 そんなある日、街で残飯を探し歩いていた時に彼女はたまたま機嫌の悪かった貴族の目に触れ、その場で斬られた

 汚れて顔も醜いアンを助けようという者は誰もおらず、斬られた背中の傷から大量の出血

 かなり深く斬られ、脊椎も切断されたのか両足はまったく動かなくなった

 意識は薄れ、目の前が暗くなっていく

 それでも彼女は死にたくないと願った

 そのとたん街に大量の雷が起き、彼女を虐げた全ての人間を討ち滅ぼしてしまった

 そして最後の雷が彼女に落ちる

 もはや目も見えず、耳も聞こえなくなってきた彼女を優しく抱きかかえる誰か

 それは今まで感じたことのない愛溢れるものだった

「ごめんなさいアン、遅くなってごめんなさい」

 聞こえないはずの耳ではなく、心に響いてくる声

 優しくて暖かい女性の声

 流れていた血液が戻り、背中の傷が塞がり脊椎が繋がった

 切れていた内臓は再生し、目も耳も効くようになった

「アン、本当にごめんなさい。もっと早くに迎えに行くはずだったのに、邪魔されなければあなたをこんな目に・・・。ごめんなさい、ごめんなさい。顔、痛かったね。時間が経ってしまった傷は私には治せないの、ごめんなさい本当に、私の愛しい子」

 その女性の正体は雷の女神レライア

 上位の女神にしてアンの母親。そしてアンは、雷の女神と消滅の神シンガの娘だった

 それからアンはレライアの元で幸せに暮らし、ついに女神としての力を手に入れたのだった

 ただケロイドの傷は治らなかったため、レライアが作った仮面をつけていたというわけである

 どうやら心に深く刻み込まれたトラウマクラスの傷だったため、魂にまで刻まれてしまったらしい

 その傷を治すにはアンがあの時の炎を克服する必要がある


 話を聞いてアイシスはギュッとアンの手を握った

「安心しろアン。これからは俺と一緒に戦おう」

 アンは嬉しそうにまた手を叩く

「ところでさっきまでいた世界は大丈夫なのか?」

 アンはコクンとうなづく

 救世界の仲間も無事だそうだ

「ひとまずそこに戻る。救世界の皆にもアンのことを紹介したいしな」

 うんうんと首を縦に振るアン

 彼女は立ち上がるとアイシスと手を繋いで先ほどいた世界へと戻った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る