イーラとアインドーバ4

 ひとしきり泣き終えたイーラと共にアインドーバはウルの本拠地へと乗り込んだ

「なんてすごい・・・。これがウルの本拠地なの? なんて禍々しい世界」

「数多くの闇が蠢きただ悪意がはびこる。それがこの世界です。攫われ洗脳されたり、人質を取られたりした者も・・・。アインさん、どうか私から離れないで下さい」

「分かったわイーラちゃん。それで、まずは何をするの?」

「はい、とりあえずあの建物を目指します。あそこには洗脳されようとしている子供達が多く囚われています」

「なるほど、その子達を助け出すのね?」

「それは後です。あそこの子供達は洗脳されるのでまず殺される心配はありません。問題はあの建物の地下なのです」

「地下?」

「そこではプロフェッサーと呼ばれる大幹部の男が様々な実験を攫って来た人々で行なっています。あの男は、人間の皮を被った、バケモノ・・・」

 その男は本名不明、見た目は若く少年のようだが、かなり長い時代を生きていたと思われる

 通称プロフェッサー

 戦いこそはしないものの、探求と研究という能力を使って様々な兵器製造、能力者の改造を行っている

 改造された者は彼の忠実な兵士となり、死ぬまで戦いを続け、最後には自爆を命じられていた

 このウルの組織自体が出来たころからアウルと共にあり、その活動を手伝っていたと思われる

 アウルが信頼している大幹部の一人だ

「そいつを叩けば敵は洗脳やら改造ができなくなるってことかしら?」

「洗脳はアウルの力を分けてもらった者たちが行っています。ですが洗脳は私のように解くことができるので、まずは爆弾を埋め込んだり、非道な改造を行っているプロフェッサーを叩くのです」

「分かったわイーラちゃん。任せて頂戴な」

 炎を操るアインドーバ

 ウルの大幹部花のラナマーヤほどではないが、彼にも強力な火の力がある

「さぁ行きましょう」

 大幹部は大概どこの施設だろうと入ることが許されている

 多分に漏れずイーラも許可されていた

 あっさりと正面から入り、洗脳を行っている階層から地下へ

 下へ降りていくにつれて悲鳴が聞こえてきた

「キャアアアアア!! やめて! 痛い痛い痛い!!」

「グアアアア! 俺の腕がぁあ!」

「見えない、何も見えないよぉ、お母さん、お父さん、どこなの」

 悲痛な叫び

 イーラは下唇を血がにじむほど噛んだ

「急ぎましょ」

 アインはイーラを抱え、走った

 歩幅が小さなイーラと共に走るよりも、抱えて走った方が早いだろうとも考えで

「見えました。あの扉の先です」

 特に鍵もかけられていない扉

 そこから悲鳴は聞こえて来ていた

「開けるわよ」

 アインドーバが扉をゆっくりと開くと、数人の研究員の姿とプロフェッサーらしき少年の姿、手術台のようなものに縛り付けられ、両目をえぐり取られた少女、四肢を切り取られた男性、恐らく耐えられずに死んでしまったのであろう死体が目に入った

「何ですかあなた達は? ん? そのローブは私と同じ大幹部。なるほど、改造能力者が欲しいというわけですね」

 優しい声だがどこかねっとりとして不快感を与える

 プロフェッサーはどうぞとばかりに招き入れて自身の改造した能力者達を見せて行った

「こちらはまだ改造途中でしてねぇ、目を高性能カメラに入れ替えてこの娘の能力を底上げしようと思っていましてね。こいつの能力はビジョン。千里眼や未来視が合わさったような特殊能力ですねぇ」

「おと、う、さん、おか、あ、さ、ん、痛いよ、目、見えない、よ、お」

 えぐられた目からは血がドクドクと流れ出ている

 アインドーバはギュッと拳を握り、能力を使おうとした

「何をしているの? 早くこっちに来なさい」

 イーラに言われて我に返るアインドーバ

 まだ戦ってはいけない

 プロフェッサーはこう見えて隙が無い

 その隙をつかなければ自身の作り出した改造能力者の群れをけしかけられるだろう

 今は耐えるしかなかった

「こっちの男は面白い能力者でね。手足の材質を変化させれます。今その手足に様々なものを埋め込んで更なる形質変化を狙ってるんですよ」

「くそ、殺せ! 殺せぇ!!」

 男は吠えるが、両手両足の無い状態では身動き程度しかできなかった

「まぁこの辺りの未改造品は追々ですねぇ。それよりもこちらですかねぇ」

 奥にある扉、そこを開けるとたくさんの檻があり、改造された能力者達が並んでいる

 脳内改造もされているため、暴れる者は皆無だった

「どうですかぁ? こいつらは命令一つで命をなげうって戦いますよお。私のお勧めはあのあたりの子供ですかねぇ」

 指をさす方向にはたくさんの子供の能力者

 それを見てイーラは抑えられなくなった

 ガシッとプロフェッサーの手を掴むと消去した

「異界へ送りました。二度と抜け出せない牢獄へ」

「イーラちゃん・・・。さ、改造された子達を助ける手段、見つけるわよ!」

「そうはさせませんねぇ」

 空中からねっとりとした声

 見上げるとなんと消去したはずのプロフェッサーが空間を裂いて出てきていた

「んん、中々に面白い能力ですねぇ、空白のイーラ」

 プロフェッサーはするりと空間から抜け出すとイーラの頬を撫でるように指をはわせた

「くっ、この!」

 再び削除しようと手を伸ばすが、スルスルと軽く避けられた

「そんな、戦闘できないんじゃ」

「んんー? やらないだけで出来ないとは言ってませんねぇ。こう見えても大幹部ですので」

 そしてプロフェッサーは懐からスイッチを取り出し、ボタンを押した

「秘検体セブン、秘検体フィフティーン、二人を捕らえなさい」

 どこかの檻が開かれ、秘検体セブン、フィフティーンと呼ばれる改造能力者が目の前に現れた

 その一人、セブンの方を見たイーラは愕然とし、膝から崩れ落ちる

「どうしたのイーラちゃん!」

「うそよ、なんで? どうして? あんたは死んだはずじゃない! フレイナ!」

 秘検体セブン、その姿は紛れもなく、かつてイーラを救った勇者、フレイナだった

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