大勇者と救世者12

 炎が渦巻き、大量に焼死体が転がる街

 アイシスが駆け付けたときすでに街は悲惨なありさまだった

 仲間と共に街に生き残りがいないかを探すため一時的にバラバラになる

「それじゃあ生き残りを見つけたらこの広場へ集合ってことで」

「ああ分かった。セナはここで待っていてくれ。怪我人を見つけたら回復を頼む」

「はい! 任せてください!」

「それじゃあ僕はアイシスちゃんと一緒に行こうかな。えーっと風のバリアっと」

 少しでも触れようものならズタズタに切り裂かれる風の渦巻き

 それでセナを守るように囲った

「ありがとうデレッド」

「この焼き後、高熱で焼かれてるんだけど、この風のバリアなら大丈夫だと思うよ」

「俺は一人で大丈夫だ。炎程度にやられるような鍛え方はしてないからな」


 アイシスはデレッドと共に東へ、アーノルドは西へ向かう

「酷い有様だね。ところでアイシスちゃん、大勇者の調子はどう?」

「どうって? 俺は別に普通に・・・。いや、成すべくしてならなければならなかった。なんつーかうまく言えねぇけどよ、俺はただ守りたいと思っただけなんだ」

「そうか、僕もそうだ。僕も家族を守りたいからね」

 デレッドは自分の元居た世界では勇者だった

 自らの世界を平和に導いたのち、救世界にスカウトされた

 風の力、ありとあらゆる風を操る彼の力は強力、ゆえにウルにも何度か狙われたのだが、救世界の力を借りて撃退している

 今回のこの世界での任務は彼にとっても適任といえる

 何せこの世界に来ているウルの大幹部、花のラナマーヤは火を操る

 強大な炎だろうとデレッドの風の力ならば真空空間を発生させて対処可能だ

「アイシスちゃん、見てほら、あそこ」

 デレッドが何かを見つける

 その指示した方向には馬鹿笑いしながら人をゆっくりと焼き、苦しめている少女といってもいいほどの年齢の女が立っていた

「あのやろう!」

 すぐに出て行こうとするのをデレッドが止める

「待って、僕があいつを止めるからとどめを頼む」

「分かった」

 デレッドが風の力で焼かれている人を救出

 なんとその人はまだ幼い少年だった

「何、してんの? 私の玩具、返してよ」

「救いようがないね」

 周囲で燃えていた炎を風で消し飛ばすと風の牢獄でラナマーヤを捕まえた

「なによこれ! 出せ! 出せぇ!」

 風の牢獄を炎で壊そうとはするが、全ての炎が弾かれる

「この! 死ね!」

「無駄だよ。僕の風は頑強なんだ。アイシス、頼んだ」

「ああ!」

 風の牢獄の上から馬の黄金鎧を着たアイシスがレーザーのようなものを放とうと飛び上がる

「ひっ、やめ」

「人を殺しすぎたな。どこの言葉だったか、年貢の納め時ってやつだよ」

「この! 糞女ガァアア!!」

 上に向かって炎を放つがそれごとレーザーに飲み込まれるラナマーヤ

「アアアアアア!!!」

 ジュウと皮膚が焼ける音がしてラナマーヤは泣き叫んだ

「こんな子供が、人をたくさん殺しているなんて・・・」

「ああ、こいつに洗脳されたような痕跡は一切ない。自分から殺してたんだよこいつは! 楽しんでな!」

「グウウウアアア!! 熱いぃい!!! 痛い痛い痛い痛い痛い!!」

 体が焦げ、骨がむきだす

 悲鳴は辺り一帯に響いて断末魔としてアイシスたちの耳に残る

「ごんな! どごろで! じんでだまるがぁああ!!!」

 焦げた手を上に掲げるラナマーヤ

 その腕からは超高温、今までの比ではない温度の炎が吹きあがり、レーザーを飲み込んだ

「なんだと!」

 驚いた

 アイシスのレーザーは炎とは比べ物にならないほどの質量を持った超効能度エネルギーだ

 それを炎で包み込むなどあり得ないこと

「あああがああ、わだじのぉお、可愛い体がぁ、こんなにぃいい、ゆるざないぃい、ひひゃ、ひひひひひひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

 狂ったように笑うラナマーヤ

 可愛い顔だったが今や見るも無残に焼けただれ、ケロイドによって口半分も片目も塞がっている

 手は骨がむき出しに、ドロドロとした体によってまるでモンスターのようだ

 それが大笑いしながら滅茶苦茶に超高温の炎の塊を放つ

「くそ、何が起こったんだ」

「恐らく死への恐怖があいつの力を進化させたんだ。ごくまれにそう言うことが起こるんだ。正義だろうと悪だろうとね」

「く、これじゃ近づけねぇ」

 襲われていた子供は風で守られているとは言うものの、炎によって気圧が変化し、その結界も解けそうだ

「早急に倒すぞ!」

「ああ、カマイタチ!!」

 鋭い鎌鼬を作り出すとラナマーヤに撃つ

「あひゃひゃ、こんなあああものぉおお!! ぎゃががが」

 ライターの火程度の炎でそれらを簡単に吹き飛ばす

「わだじが! あんだらみだいなのにぃ! やられるはずがないの! 全部ゴロズ!ぐるじめでごろず!」

 小さな炎をマシンガンのように打ち出す

 一つ一つがロケット砲のような威力がある

「クソ! 大丈夫かデレッド!」

「僕は大丈夫だから君は自分の身を守るんだ!」

 黄金鎧を換装しつつ様々な攻撃でラナマーヤを攻めるが、進化した彼女の能力でそれらを防がれてしまう

「どうする、どうすりゃいい、考えるんだ」

 死の恐怖がラナマーヤを大幅に強化してしまい、二人は攻めあぐねていた

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