アモンの旅1

 仲間の手掛かりは水の入った袋とりえの持っていたキーホルダーのみ

 これから気配を辿って探すしかないのだが、そのようなことはやったことがないため、一回気配を辿って転移するのに相当な魔力を使うことになった

 魔力が生命力となる悪魔にとってこれは致命傷になる可能性がある

 もし転移した先でウルが待ち構えていればその場でやられてしまうだろう

 それでもアモンは躊躇なく力を使った

 それは心を許せる仲間たちを救うためだ

 自分はどうなってもいい、攫われた仲間たちを助けるためならどうなろうともかまわない

 アモンは焦る心を落ち着かせつつ魔力を全部集中させて転移した


「ゼハァ、ゼハァハァハァ、ぐ、うう、ここは?」

 どうやら待ち伏せなどもなく無事転移はできたようだが、しばらくこの場で休まなければ動けない

 ごろんと地面に転がりながら周りを見てみるとだだっ広い草原地帯のようで、野生の馬が走り回っているのが見える

「ハァハァ、絶対見つける。僕の大切な、友人達」

 ガクガクと震える手足を見る

 魔力欠乏症が起こっているようだ

 悪魔に限らず魔力を生命力とする種族は多数いる

 魔族もその一つだが、魔力を使いすぎると体内で生命力に変換している器官に支障をきたし、場合によっては死に至ることもある

 悪魔であるアモンは周囲に魔力があればしばらく休むだけで回復できるが、もし魔力の無い世界であれば回復までもっと時間がかかるだろう

 その点今回は一応周囲に魔力が漂っているため、回復までそこまで時間はかからなかった


 魔力も戻り立ち上がると近くで様子をうかがっている馬がいるのが見えた

「なんだい? あ、もしかしてお腹が減ってるのかな?」

 袋から野菜と角砂糖を取り出すと馬に与えてみた

 喜んでかぶりつく馬

 毛並みは白く手入れされているのか美しい

 その馬はアモンを背中に乗せようとしゃがみ込んだ

「僕を乗せたいのかい?」

 ブルルルルと鳴き、アモンはそれに従うように馬の背中に乗った

 馬は駆け出しどこかへと向かう

「疲れてたから助かるよ。でも僕をどこへ連れて行くつもりなんだ?」

 馬は何も言わずひたすらに草原を駆ける

 走ってから約三十分ほどが経った頃、小さな村が見えてきた

 小さいが馬が数多く飼われており、どうやらこの白馬もその村の馬のようだ

 白馬は村の入り口に止まると嘶く

「おお、戻ったかホワイト」

 この村の持ち主と思われる赤い帽子をかぶった男性

 種族はハーフリンクのようだ

 彼はホワイトの上に乗っているアモンを見て目を見開く

「ホワイト、もしや助けを連れて来てくれたのか?」

 ブルルと嬉しそうに泣くホワイト

「あの、何かあったのですか? 僕はアモン、何か困っているなら解決できるかは分かりませんが話を聞かせてください」

「え、ええ実はですね」

 男性の名前はエド

 彼らはこの村で馬や牛を育てて生計を立てているのだが、数日前から巨大な竜がこの周辺に現れ始め、牛や馬を攫っていくそうだ

 このままでは村は立ち行かなくなり滅んでしまう

 そんな時突然ホワイトが姿を消した

 ホワイトは馬たちの中でもちゃんと人の言葉を理解し、かなり頭のいい馬だったようで、竜からもうまく逃げる膂力を持っていたため、そう簡単に攫われるとは思えない

 心配していた所にホワイトがアモンを連れて帰って来たというわけだ

「なるほど、竜か。それなら役に立てるかもしれない」

 ウルの幹部や大幹部ならともかく、一世界の、それもただの竜程度ならアモンの敵ではない

 彼は歓迎されながら村で過ごすことが認められた

 竜は一週間に一度来るようで、二日後が次に来る日らしい

 仲間を探さなければならないが、困っている人を見過ごせない性格故に問題を解決するためとどまることにした

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