利善とレイドの異世界旅5

 リーダーらしき虎獣人はレイダスに任せておけばまず間違いないだろう

 何せあいつはSランクでも有数の力を持っているからな

 だが一番危険そうなのはこのナイフ男か

 目に殺意のみしか見て取れない

 こいつは殺人をすることで生の喜びを得るタイプだ

 今まで俺は数多くの殺人鬼を見てきたが、こいつはその中でも群を抜いて危険だと言っていい

 虎獣人ほどの力はないが、人の殺し方をよく心得ている

「心臓、目、えぐり出すなら目、しばらく生きてる。次は腸、ゆっくり引きずり出すとビクビク暴れて楽しい。お前はまず、手足から」

 ナイフをくるりと回して逆手に持つ

 こいつ、ナイフの扱いは達人級だな

「あいにくと俺をそんなちんけな武器で殺すことはできんぞ」

 俺は力を発揮した

 どんな得物も俺の体を傷つけることはできない

 超金剛の鎧

 たとえオリハルコンだろうとこの鎧を砕くことはできなず、相手はなすすべなく俺の防御の前に膝をつくのみだ

「へぇ、硬そうだけど」

 ナイフ男はシュッとナイフを突き立てた

「な、に? 関節を」

「可動域なら柔らかい。でしょ?」

「いやそこは俺の急所にはならないさ」

 鎧の関節部を狙うのは常識、しかしながらこれが俺を絶対的な鎧たらしめている理由だ

 可動域、間接部ですら硬いんだよ

 カキンと耳に響く金属音、そして男のナイフは折れた

「ハハ、ハハハ、これは斬りがいがあるね!」

 だが男は大笑いした

 何がそんなに嬉しいんだかわからないが、積みだ

「グランドナックル!」

 俺の拳は大地を揺るがす

 それほどに高圧縮した拳の塊を男に叩きつける

 ガキョンととんでもない音がした

 恐らく男は死んだだろう

 今は、この哀れな男のために神に祈るとしよう

「ハハ、ハハハ、ハハハハハ! 硬いねぇ硬い硬い。これはバラし甲斐がある!」

「ばかな、超高密度の金剛だぞ! オリハルコンを超えるほどの新たな金属と言ってもいい。なぜ潰れない!?」

「オリハルコンなら斬ったことがある。それよりも硬い金属も」

 男の手には小太刀が握られていた

 こんな小さな刃物に、俺の拳は止められたというのか?

「知ってるかい? どんなに硬いものでも、目さえ分かってれば」

 カツンと小太刀が胸部分にあたる

 小突かれたのもわからないほどの軽い突きだったが、それで俺の鎧は砕けた

「あ、ああ、嘘だ!」

「ああ嘘であってほしいよね? だってこれから生きたままばらされるんだからさ!」

 シュン

 音が聞こえた

 恐らく俺はこれで死ぬ

 今まで生きた俺の記憶が走馬灯となって一瞬で脳内を駆け巡る

「何で邪魔するんだ?」

 男の声がまだ聞こえる。俺は死んでいないのか?

「駄目、やらせない!」

 そこにいたのは首輪をつけられていた少女だ

「いつの間に! 危ないからこっちに戻るんだ!」

 利善が慌てて少女を連れ戻そうとする

「大丈夫、私の力なら」

 男が二撃目の小太刀攻撃を繰り出す

 速い、少女がやられる

 そう思ったが男の攻撃は空中で止まっていた

「エリア、無効!」

 少女を中心に何かが展開されているのが分かった

「この中ではどんな攻撃も無効化されます! おとなしく引いてください!」

「はん、首輪が取れて力が戻ったか。ちっ、相性が悪すぎるんだよお前と俺は」

 男は小太刀をしまうと一瞬で城の方へとあとずさり、そのまま転移で消えてしまった

「大丈夫、ですか?」

「ああ助かったよお嬢さん」

 まさかこの俺が少女に救われるとは思わなかった

 感謝しなければな

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