抗うイレギュラー1

 ウルの創設者にして悪意そのものであるアウルの後ろには一人の少女がずっとついて歩いていた

 仮面をつけているため誰なのかは分からない

 彼女の正体を知っているのはアウルとごく一部の幹部のみだ

 見ているだけでもビリビリと空気が震えるかのような威圧感があり、誰も彼女が何者なのかを詮索しようとはしない

 もし正体を知れば殺されそうな雰囲気があるからだ

 実力は恐らくアウルと同程度、世界一つを楽に滅ぼすほどの力を持っていると考えられる

「さぁ行こうイレギュラー、君にはずっと僕の傍にいてもらうよ」

 コクリとうなづいておとなしく従う少女

 アウルは満足そうにうなづいた

 そのまま別世界に通じている扉を開くとそのまま入る

「ああ、美しい、ここはいつ見ても美しいね」

 その世界はお世辞にも美しいとは言えない

 何もなく荒廃し、植物も水も何もない世界

 ただ無限に広がるかのような広大すぎる地平線

 ここは何もない世界、無の世界だった

「ここはね、僕が生まれた世界だったんだ」

 かつてただの有機生命体だったアウルはこの世界で人間達に実験体として飼われていた

 その人間達はアウルを愛し可愛がっていたのだが、異世界への門を開く力を得たことでアウルの思想は変化した

 異世界で多くの悪意に触れすぎた結果、彼は人間とは悪であるという思想を持ってしまったのだ

 その結果、この世界は滅んだ

 一番最初にアウルが滅ぼした世界であるため、全てを消し去ることはせずに土台だけは残していた

 アウルの後を少女が歩き始めると、なんとその足元に花が咲いた

「な、これはまさか君が?」

 少女は何も答えない

 だが少女の周りには草花がグングンと伸びて行き、なんと一瞬にして森が出来上がった

「ハハハ、さすが僕と正反対の性質を持つ子だね。イレギュラー、まさにイレギュラーだよ」

 森はどんどん広がり、無から生命体があふれ出していった

「これが抵抗なのか、君の力が強すぎてこうなっているのか。興味深いね。僕の父と母はいつも興味深いって言葉を使ってたっけ。もう殺しちゃったけど」

 彼の父と母と言うのは研究者のリーダーである男性とその助手だ

 一番最初にアウルの犠牲になったのはその二人だった

 悪意を広げられ、力を与えられ、世界を渡りそのまま悪意に完全に飲み込まれた

 もはや人としての意思はなくなっているだろう

 そのため彼は殺したという表現をしたのだった

「ま、これはこれでいいや。いずれ全ての世界が何も無くなるんだからさ、せめて僕の故郷はこんな感じにしておいてあげてもいいかな。気まぐれだけどね」

 感慨深げに目を閉じ思いにふけるアウル

 少女はその様子を見ているが感情はない

 ただボーっと世界を眺めているだけだ

「ま、君に何を言っても無駄だろうけどさ・・・。さて帰るか。いくよ」

 アウルは再び世界の扉を開くと、少女を連れて帰った


 暗闇がずっと続いてる

 何も見えず聞こえない場所で一体どれほどの時間が経ったのかもわからない

 私は一人で泣いていた

 ここには何もない

 今まで封印されていた時に戻ったみたいで怖い

 でもあの時に比べたら、まだまだ、私にはできることがある

 体育座りから立ち上がると拳に力を込める

「この、壊れろ!」

 何もない空間? それなら概念を壊しちゃえばいい

 私は今心の中に閉じ込められてる

 どれだけ頑強だろうと壊す。いつまでかかろうと壊す

 私の体は私のものだもの

 世界を壊すなんてことさせない!

 空間に拳を叩きいれるけどやっぱりかなり硬い

 でも時間はかかろうとも必ずやり遂げるわ!

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