利善とレイド6

 巨人ヒーロー、それがレイド

 見た目はボディスーツのようなものを着た仮面をつけたヒーローだが、体自体が完全に作り変わっている

 鋼鉄よりも硬く頑丈な肉体、様々な力を使いこなす能力、守りたいと願う強靭な心

 ただの少女が変身をしていっぱしのヒーローになるのだ

「ハァリャァ!!」

 竜の頭を掴んで投げ飛ばすレイド、竜は回転しながら転がるがすぐに立ち上がってレイドの腕に噛みついた

「ぐっ、デリャァ!」

 竜の首にチョップを入れて噛みつきを引きはがすと今度は翼を掴んで片方を引きちぎった

「グギャアアア!!」

 痛みで竜は叫び、口から業炎を吐き出した

 レイドの後ろには利善たちがいるため避けることはできない

 その高熱を自分の体で受けて後ろの仲間たちをかばった

「う、ああ!!」

 熱で胸を焼かれて苦しむレイド

 頑丈な体を持つとはいえ熱っせられれば当然火傷もする

 胸元が焼けこげ、レイドは膝をついた

「うっ、ハァアア!!」

 苦しみながらも立ち上がって今度は手に光を集め、両腕からビームのような光線を発する

 すると今度は竜の体が焼かれた

 肉の焦げる臭いが周囲に広がる

「グルルルル!」

 怒った竜はさらに噛みついて直接炎を吐いてきた

 あまりの熱さと痛みでレイドは叫ぶ

「アアアアアア!!」

 その攻撃でレイドの左腕は炭化して崩れ落ちた

「ぐっ、デリャアアアア!!」

 それでもレイドは諦めずにある方の腕で光線を放った

 竜は次第にその光線に押され始め、壁際まで追いやられる

 後ろの体育館は崩れ、竜はそこに倒れ込んだ

 それでも竜の目は怒り狂って赤く光り、涎を垂らしながら立ち上がった

 もはやボロボロの体を気にも留めずぎしぎしとなる骨が折れようとも、竜となった少女は立ち上がる

「もうやめろアリアンナ! 君の体が壊れてしまう!」

「グルル、あ、利善、たす」

 涙を流す竜アリアンナ

 彼女は自分の体を制御できず、無理やり動かされているに過ぎない

 彼女を止めるにはその洗脳を解かなければならない

 そのためにもまずは動きを止める必要があるのだ

「ディエア! ハァアアアア!!」

 レイドは雨を降らせるとその腕を再生させ、アリアンナを両腕でつかんだ

「ティアラァ!!」

 そのまま頭突きをかますと頭を竜の額に押し付けて更なる力を解放した

 マインドレイン

 心に降る雨、つまり涙を介して心に潜入する力

 水に潜るようにアリアンナの心に潜り込むと、泣いている彼女を探した

「アリアンナさん! どこですか!」

 名前を呼びながら心の中を泳ぎ探す

 するとどこからか少女の鳴き声がしくしくと聞こえてきた

「アリアンナさん!」

 ようやくアリアンナの心本体を見つけたレイドは彼女の傍に寄り添う

「ああ、私、もっと強くなりたくて、友達や家族を守れるくらい強くなりたくてウルに入った。間違ってたんだ私。だから家族が人質に取られた。お願い、このまま私を殺してくれないか? それと、利善に、迷惑をかけたと」

「まだあきらめちゃだめです!」

 レイドはアリアンナを立ち上がらせると無理矢理引っ張って心を泳いだ

 そんな二人の前に黒い何かが立ちふさがる

「なに、これ」

 レイドは悪意そのものと対峙している

 その悪意は人型になるとニタリと口が裂けんばかりに、実際裂けるほどに笑った

「気持ち悪いですね! この!」

 レイドは体から光を発し、その光を腕に集めて剣を作り出した

「レヴィテンソード!」

 剣で悪意を切り裂くが、すぐに悪意は再生した

「光が、足りない?」

 どんよりとした心の中では悪意の方に優位性があった

「アリアンナさん! 貴方ここで負けていいんですか!? 家族に、友達にもう一度会いたいとは思わないんですか!?」

「家族に・・・。姉さん、優しい姉さん。私は姉さんに憧れて・・・。そうだ、私はこんなところで負けてるわけにはいかないんだ!」

 アリアンナが決意するとパーっと光が差し、悪意の優位性が失われる

「今ね!」

 レイドは光の剣で悪意の体を貫いた

 それにより悪意は霧散して消える


 気が付くとレイドは元の体に戻ってびしょぬれになっていた

 変身が解かれるといつも彼女は水でびしょびしょに濡れる

 だがそんなことは些細な問題で、レイドはすぐに悪意に侵された竜のアリアンナを見た

 すぐ隣には少女が眠るように気絶している

 寝息をスースーと立てる姿は年相応の美しい少女だった

「よかった・・・。ありがとうレイド、これでアリアンナの洗脳も解けるだろうよ」

 アリアンナはそのまま自分の世界に返されることになり、家族の方はディスが調査を進め、助け出す手はずとなった

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