新世界より12

 男は相変わらず追ってくる

 冗談じゃない。女神たる私を滅ぼせるほどのエネルギー

 今は逃げるしかない

 転移するために神力を練ったけど、どういうわけか発動してくれない

 仕方なく身体強化を施してスピードをあげようとした。でもこれも無駄で発動しない

「ああすまないな、俺の周囲半径数百メートルは何もできなくなるんだ。いやぁ悪いね。悪い、本当に俺は悪いやつだよな、卑怯だよな。でも仕方ないんだ。アウルさんに逆らうやつは消さねぇとだめなんだわ」

 男は本当に謝っている。嘘偽りのない気持ちを私にぶつけて来てる

 その上で私を本気で殺そうとしているんだ

「あんた! 本当にそれでいいの!? 人を、殺してるのよ!? あんたの世界ではそれが当たり前なの!?」

「ん? そうだな・・・」

 男は動きを止めて考え始めた

「ああ、確かに俺の世界で殺すやつってのは外道と言われて罰せられてたな。すまない、だがここは俺の世界でもないし、アウルさんの新しいルールではオッケーだ。だから小さな女の子、すまないけど君も殺すぜ。殺したうえでちゃんと謝罪する。それが俺の誠意だ。ルールだ」

 話しは通じるけどこの男はルールに縛られてる。それが自分自身だと言わんばかりに

「すまない、すまない、すまない本当に!」

 周囲が爆発するほどの殴りつけに私は吹き飛んだ

 痛い、すごく痛い、涙が出るほどに

 でもここで死んでなんかあげないわ、私にはまだ奥の手ってものがあるもの

「転移装置!」

 ポケットから小さな転移装置を取り出した

 これは電池さえ入っていればちゃんと転移できる小型装置で、黒族という種族が作り出した特殊な機械

 それによって私はなんとか仲間たちの元へ戻れた

 天使二人はどうやら無事にウルのメンバーを倒せたようで、一人は無理やり従わされていたから連れてきたらしい

 この子も匿ってもらうとして、あの巨体の男をどうするか

 強すぎて私じゃどうにもならない

 悔しいけど、この世界の種は奪われたと見て間違いないわ

 どうやらそれが最優先だったのかマークしていたあいつの気配が完全に消えた

 恐ろしい相手・・・。鬼神にも匹敵するかもしれないわ

 険しい顔で考えていると天使二人が心配そうに見てた

「あ、ごめんね。こっちは失敗したわ。言い訳はしない。完全に私の力不足。ごめんなさいね」

「そんな、ルニア様ほどの女神様でも勝てない相手が?」

「ええ、あれは鬼神と互角かそれ以上。今のリディエラちゃんでも勝てないかも」

「それほどの相手が・・・」

 逆に考えるとこの二人をあいつに相手させなくてよかった

 恐らく一瞬で殺される

 それほどの実力差がある相手がウルにはいる

 そしてリーダーの名前が分かった

 アウル、それがウルのリーダーの名前

 聞いたこともない名前だけど、あれほどの実力者をかこっている辺りとんでもないやつって言うのは間違いない

 あの時の異放者にも匹敵するような

 かつて全ての世界を消そうとした世界の敵、異放者

 お姉ちゃんが一度犠牲になって何とか倒せたあいつ

 お姉ちゃんにはもうあの時程の力はない。それにイレギュラーメルカの居場所も分からない

 あの子がいればまだ何とかなったかもしれないのに・・・

 考えていても仕方ないわ

 この世界にはもうウルはいない

 次の世界に行かないと

「よし、次に行くわよ! 切り替えが大事、二人共、こんな私だけどまだついて来てくれる?」

「「はい!」」

「あの、私は?」

 あ、忘れてた

 とんでもない魔力を持つこの子、ラナも連れて行かなくちゃ

 この子を鍛えてまずは真人にする

 本人もやる気満々だし、それだけの実力もある

 そしていずれ女神に迎え入れるわ

 そうとなればやることはいっぱいある

 お姉ちゃんとも一度連絡を取らなくちゃね

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