新世界より13

「見つけました。これは、酷い、なんてことを」

 サニアさんが異変を見つけたらしい。でもなんだか様子が変だ

「酷い、本当に、なんでこんな」

 震えるサニアさんんを抱き寄せる

「サニアさん、一体どうしたんですか?」

「ここから南に七百キロ、そこにある王国のような場所で虐殺が、うぐ、すぐ向かいます」

 酷い光景を見たからかフラフラだけど、サニアさんは僕の腕に掴まってさらに鬼神に手を出した

「掴まって下さい、急ぎます」

 サニアさん、ものすごく怒ってる。比喩じゃなくて本当に頭から角がニョキリと生えて来ていた

「サニアさん角が」

「ええ、私の本来の姿です。醜いものでしょう? 私はかつて破壊神と呼ばれた邪悪な神でしたから」

 ビキビキと禍々しい角が生え、さらに悪魔のような翼がバサリと飛び出す

 手や足は鱗の生えたゴツくて硬い爪の生えた腕へと変化し、その姿はまるで悪魔だった

 でもどこか気品があって美しいと思える

「そんなことないですよ。サニアさんはサニアさんですもん。僕の大事な家族には間違いないんですから」

「リディエラちゃん・・・。ええ、ありがとう」

 サニアさんがにこりと笑い、僕らはその国へと一気に転移で移動した

 そこで見た光景はサニアさんが言っていた通りあまりにも悲惨だった

 ところどころに転がる死体死体、さらにはいたずらに拷問されて殺されたと思われる女性の死体や子供の死体など、精神体でなければ吐いているような光景が広がっていた

 ここに来ての僕らの感情はただ怒りだけだったと思う

 その元凶と見られるウルのメンバー

 そいつは馬鹿笑いしながら男性の遺体を切り刻んでいた

 死んだ人をさらに痛めつける人道に反する行為

 僕はその男の腕をつかむと思いっきりへし折った

「ありゃぁ? 折れたぁ。ひひゃひゃ、痛ぇえええひゃひゃひゃひゃひゃ」

 男は腕が折れたにもかかわらず大笑いしている

 何か様子が変だ

「ぐひゃひゃ、おまえも切り刻んで泣き叫ばせてからぁ、殺してやるぅあはははは!!」

 男は僕にナイフを振り下ろす

 でもたかだかただのナイフによる攻撃だったから僕の結界に弾かれた

「無駄だよ」

「ひゃ、あひゃひゃひゃ、ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

 何でずっと笑ってるんだこいつ。気持ち悪すぎる

「ひゃひゃひゃひゃ、ひゃひゃ、ああ、おかしい、おかしいねぇ。楽しい、楽しいねぇ」

 あれ? 声が変わった?

 その男はずるりと顔が崩れていく

「ひっ」

「ああああ、いい表情だぁああああん、気持ちいい、気持ちいいねぇ」

 その男のずるりと剥けた皮が下半身へと垂れ下がり、本来の姿らしき顔が現れた

 どうやら男の皮をかぶっていたらしい

「ひゃひゃひゃ、これ、この皮はねぇ、とある異世界人の皮なんだけどぉ。テレポートの能力を持ってたからかぶってたんだぁ。自分の見える範囲しかテレポートできないけどぉ、すぐに人間の前に移動できてぇ。気持ちいいことできるんだぁ」

 そいつの顔はかなり整った顔立ちの女で、唇の血のような赤さがその美しさを際立たせている

 でも僕はそいつを美しいなんて思えなかった

 そいつがかぶっていた皮の元の持ち主は恐らくこいつに殺されている

 その皮をかぶってたんだ

「あたしの力、教えといてあげるぅ。あたしはこのナイフで殺して皮をはぎ、それをかぶることでそいつの能力が使えるようになるんだぁ。いいだろう気持ちよさそうだろう? 実際気持ちいいんだよこれぇ。ああ、気持ちいい、気持ちいいなぁ」

 グジュグジュと皮をすべて脱ぎ捨てると真裸の女が現れた

 そいつは空間から別の皮を取り出し、それに潜り込むようにして皮をかぶった

「ふひゃひゃ、これでぇ、お前らもぐっちゃぐちゃぁ、でも皮は傷つけないよぉ。綺麗にハギハギしてあげるぅ」

 空間からもう一振りのナイフを取り出す

 そのナイフには何やら力が宿っているのが見えた

「デッドリーナイフ、これは少しでも傷がつけばそこから死の呪いが流れ込むんだぁ。確実に死ぬよぉ」

 女、今は男の姿になったけど、そいつはナイフを構えて突進。そして素早く舞いながら斬りつけてきた

「精霊神刀、アストラヴェイン!」

 精霊刀アストラからさらに僕の神力を得て進化した僕専用の刀

 まさか鬼ヶ島でもらった刀がここまでになるとは思わなかったけど、一応刀での戦い方も教わってる

 そこいらの達人と互角に戦えるくらいにはね!

 キィン

 ナイフを受け止めそのまま押し切り回転して切りつける

 相手もなかなかの手練れで僕の斬撃をすべて受け切っていた

「リディエラちゃん! 加勢します!」

 ハクラちゃんが白刀をうまく僕に合わせながら敵を斬りつける

 さらにそれに合わせるようにしてクロハさんが追撃した

 まさしく三位一体のように見事な連携を繰り出せている気がする

 それなのに敵はその攻撃をいなし、受け、さらには反撃までしてきた

 どうやら相当の手練れみたいだ

 いや、手練れの皮をかぶっているのかな?

「あひゃひゃひゃひゅあああああああ!!」

 この状況でも大笑いしている

 でもやっぱりどこかおかしい、こいつ、なんで泣きながら笑ってるんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る