勇者の苦悩7

 ポコから与えられた力は変化の術で、黄金の葉っぱを額にかざすと様々なものに変化できた

 例えば可愛らしい動物、魔物、老若男女、さらには体の一部分だけを変質させることもできるようで、アイシスはかねてよりコンプレックスだった胸を大きくしてホクホクしていた

 しかしそれで動こうとするとどうやら胸が邪魔になるようですぐに元に戻す

「なかなか一朝一夕にはいかないもんだな。胸が大きい人には大きい人の戦い方があるってことか。俺じゃあ向いてない、向いてないんだ・・・」

「ア、アイシス、元気出して」

 胸が小さい者同士キーラとアイシスはお互いをひしと抱きしめた

 そしてリドリリを二人で見る

「な、なんですか二人して」

 おどおどするリドリリの胸元にはたゆんとはずむ大きな果実

 二人ではぁとため息をついてまた力のコントロールをするための練習に励む

「少し休憩してはどうですか?」

 リドリリは紅茶とお菓子を持ってきてそう言った

「うん、そうさせてもらうかな。キーラも休むだろう?」

「うん!」

 リドリリがセッティングしたテーブルにつき、リドリリが丁寧に入れた紅茶と特製のケーキで二人は疲れを癒した

 

 翌日

 朝から力を馴染ませ、変化もスムーズにできるようになったころに突如アイシスは倒れた

 特に苦しむでもなくただ眠りについたと言った感じだったが、キーラもリドリリも当然驚き慌てふためいた

 アイシスを必死に運び、病室のベッドへと寝かせる

 医者が言うには疲れがたまってたから電池切れのように眠っただけとの診断だった

 ほっと胸をなでおろす二人

 ひとまずアイシスが目覚めるまで看病することにした


 夢の中、アイシスは目の前にいる龍の尾と角を持った少女とにらみ合っていた

「だーかーらー! 何でいきなり眠らせるんですか!」

「うるさい! 我の勝手であろうが! お前にせっかく力をやろうと思ったのにああもうやめたぞ! お前になんか絶対力なんてやらない! あとで謝っても遅いからな!」

「上等だこのチビ! お前なんかから絶対力なんてもらわねぇ! 二度と顔見せんな!」

「あー言ったな! 我のことチビって言ったな! 絶対後悔するからな! 我もう怒ったかんな!」

 二人が言い争っているとその二つの頭に突如拳骨が振り下ろされた

「イタイ!」

「痛ぇ!」

 二人がそろってその拳の持ち主を見ると、驚くほど美しい顔立ちの女性が立っていた

「何やってるんだリュコ」

「ひっ、ア、アコ、これはだなその、スキンシップ、そう! スキンシップなのだ! なぁ!」

「そ、そうそう、そうですよスキンシップです」

 リュコは彼女に怯え、アイシスは感覚で逆らっては駄目だと分かった

 それから二人はお互いに肩を組み合い、いかにも仲がいいですよとアコに見せつけた

 目くばせしつつすぐにうなづきそう言った行動をとる辺り二人は似たもの同士で、それゆえの同族嫌悪だったのかもしれない

 だがこれをきっかけに二人のわだかまりは直ぐに解けた

「まったく、すまなかったな大勇者、こいつは気難しいんだ。俺かアマテラス様にしか懐いていない。だが実力はあるし、何より本当は優しい。きっといい関係を築けると思うんだ」

「はい、こちらこそ頭に血が上りすぎました。すみませんリュコ様」

「む、うむ、我も悪かったのだ。力を与えるから手を出せ」

「はい」

 二人が手をつなぎ、力の受け渡しが始まる

 しかし力がアイシスへと流れた瞬間、アイシスはガクリと膝を地面につけ苦しみ始めた

 必死で力を受け取ろうとしているのか手は離さないが、見ているだけでも苦しくなるほどの痛がり方

 その様子を見てリュコは手を離そうとしたが、アイシスはそれを止めた

「だい、じょうぶ、です。このくらいこなさなきゃ、大勇者になんて、なれない。でしょうアコ様!」

「ああ、いいぞアイシス、その意気だ」

 本当はアコも心配していたが、彼女はいずれ世界を救うために旅立たなければならない

 そうなればこんな苦しみよりもつらいことがあるかもしれない

 そう思いアコもアイシスを振るい建てた

「く、うおおおおお!」

 時間にしては数分だったが、アイシスにとっては何時間にも感じられただろう

 激痛を耐え、彼女は見事リュコの力を受け取り切った

「よく頑張ったなアイシス。リュコ、お前もな」

 二人を激励し、アコもホッとした

 今アイシスには物凄い力の流動があり、今にも爆発しそうなほどの力強さを感じていた

 アイシスは立ち上がると手のひらをグッと握る

「ありがとございますリュコ様。この力、必ずやみなのために役立てます!」

「うむ、頑張るのだ!」

 二人は再び握手を交わし、リュコはアコと共に消えた

 そこでアイシスは目を覚ましたのだった

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