無能の異世界人1
異世界には力ある者が数多くいる
勇者、賢者、英雄、剣聖、魔導士、良き魔王、能力者、異能者、転移者、転生者
その世界で生まれ、その世界のルールの中力を得る者、努力で壁を破る者、圧倒的力を持った者、転生や転移によって力を解放された者、神に気に入られた者
どのような力であってもそれは使う者次第で悪にも善にもなる
要は力とはその人の在り方でいいことにも悪いことにも使えるエネルギーだ
自分の世界以外にいる者を異世界人と言うが、彼らは時として自分の世界から別の世界へと呼ばれたり、偶然扉が開いてそこをくぐったり、次元の穴や裂け目に落ちたりと様々な方法で世界を渡ることがある
それが力ある者ならばそのままたどり着いた世界で英雄や勇者と呼ばれることもあるが、何の力も持たない者は悲惨だった
全く知らない世界で独りぼっち、言葉も通じず野垂れ死にする者も少なくない
だが彼らに手を差し伸べる者がいた
彼は世界から見ればただの悪、悪そのもの、世界の癌であった
だが悲運を受け絶望していた者にとって彼から差し出された手は救いそのものだ
「僕と一緒に行こう。理不尽な世界に復讐したいと思わない? 思うよね。僕が力をあげる」
その言葉は彼らにしみこみ、それは狂信的な信者を作り出すには十分な影響力があった
だがそんな彼らの中にも手を取らない者たちがいた
何の力も持たず、どうすればいいのか分からない絶望の中でも希望を忘れず、優しさを忘れず、人の心を失わずに耐え抜き、立ち上がってきた者たち
世界の癌は彼らをとことんまで嫌った
自分とは違い悪そのものを否定する善なる者たち
「君たちみたいなのは僕が話しかける価値もなかったね。一生そこではいつくばって生きてるといいよ」
彼らに更なる絶望を味合わせるため、悪は悪たる悪を成した
無能力だが光を失わなかった彼らに対し、悪は種を植え付ける
「これは世界の種、本来はヒトに使うものじゃないんだけど、君らは良い実験材料になりそうだ。それが育ったとき世界は塗り替えられる。しかもね、その種には僕の悪意をたっぷり込めておいたんだ。これでも気が狂わずその種に耐えきれるかな? 無理だろうけどね。さて、僕はもう行くよ。悪意が花開いて世界を塗り替えたとき、また来てあげるよ。世界の基盤になった君たちを笑いに」
悪意が去った時、そこには更なる絶望を負った光だけが残った
その数五人
五つの世界を塗り替える種
彼らはだがそれでも、それでもまだ希望という光を胸に秘め立ち上がる
それが彼らに力を与えた
世界の種は彼らを選んだ
悪意も知らなかったことだが、世界の種が生み出すのは世界だけではない
込められた悪意も悪いものも、その全てを種は吸収して新たなる力を産んだ
その力は五人に正しく根付き、芽を出し葉を広げ、やがて大きな実りとなった
世界が反撃するときだ
大きな悪意を、癌を打ち倒す白血球のように彼らは世界に立った
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