新世界より8

 話を聞くに彼女は突如世界に飛来してきた訳の分からない異世界人たちと戦っていたらしい

 仲間たちは次々とその強さに倒れ、彼女自身も殺される。そう思った時に意識がなくなった

 次に気づくと私達が目の前にいたってわけね

 名前はラナ、能力は圧倒的魔力

 そう、魔力だけ

 恐らくこの子は私が見た誰よりも、どんなものよりも魔力が高い

 ここにいる天使二人よりも魔力が高いのは驚いたけど、それがこの子の性質で能力だった

 それをウルに利用されたわけね

 高すぎる魔力、恐らくこの子は自分の世界ではそこそこの魔法使いだった

 それがウルによってタガを外されて本来の魔力を得た

 今のこの子はその魔力のみで真人や仙人と呼ばれる人族に進化している

 いったいウルにはどれほどの手ごまがそろっているって言うの?

「私、仲間を助けられなかった。もっと私が強かったら」

「・・・。ひとまず、あなた私達と一緒に来る?」

 この世界にいても彼女は自分を攻めて心が荒んじゃうだけ

 なら一緒に行って私達と話して心を解放してもらうわ

 自らの力で真人へと至ることができたならその先への見込みもあるってこと

 天使、あるいは神人に

 神人になれる器はそうはいないわ

 かつての私の友達であるリゼラスという神聖騎士なんかは、自らその道を切り開いて至ったけど、それこそただの人に普通出来るようなことじゃない

 この子には今その道筋が示されている

「私が、あなた達とですか?」

 ラナは考え込んで動きが止まる

 そして頭を掻きむしって立ち上がった

「よし! 考えててもしょうがないもんね! あなた達と一緒に行くわ!」

「あの、その前に言葉遣いを治してください。こちらのお方は女神様にあらせられるので」

「え?」

 もう、リィリアちゃんは余計なことを

 そんなしがらみあったら仲良くなれないでしょうに

「そそそそそそそれは失礼をいたしました! えええっと、この不始末はこの身をもって」

「ああいいっていいっていそう言うのは。私そういう感じ嫌いだし」

「あ、そうなの? じゃあ普通に」

 あっさりしすぎね。嫌いじゃないわ

「はぁ、いいのですかルニア様、女神様にこのような態度を」

「いいってのに。私まだ新米女神だし、別に他の女神も敬ってほしいなんて女神もいないし」

「そう、なのですか?」

 実際上位の神々は人間達を見守り、その信仰心で力を得ているけど、本来の力があるから問題はないのよね

 まあ信仰心が強ければそれだけ力に上乗せされるんだけどね

「ひとまずこの世界、まだウルのメンバーが来てそうだからそいつらを叩きのめしてからかしら」

「いやあの操られたりしてる人もいるのでお手柔らかに」

 そうだったわ。アスティラちゃんに諭されてしまった

 まあとりあえずはウルを探さないことには何もできないんだけど、どうしたもんかなぁ

 全く見つけにくいったらありゃしないんだから

「もう一度聞くけど、あなたウルに関する記憶はないのよね?」

「はい、えーっと全くないかな」

 ううん、まあ世界を見て回って異変を探すしかないかな

 異変とは言ってもこの世界にないとんでもない異変を探さないと

「私これから感知に全力を向けるからあなた達二人、ラナを守りつつもし何か襲ってきたら対策お願いね」

「「はい!」」

 お堅い二人のいい返事が響く

 ラナはよろしくお願いしますと二人に挨拶していた

 

 しばらく感知に集中していると、数百キロ先で人の悲鳴が響いてるのが聞こえてきた

 たくさんの人達の悲鳴。急がないとまずいかも

「西に五百キロ! すぐ向かうわよ!」

 天使二人にラナを抱えさせて街へと飛ぶ

 二人の飛ぶ速度はマッハなんてもんじゃない。天使になってからもきっと飛ぶ練習やらしてたのね。真面目だから

 真面目は良いことだけど、たまには羽目を外すってことも覚えないと視野が狭まるわ

 うーん、もっと遊ばせるか

 そんなことを考えているともう件の場所が見えてきた

 人々が倒れてる。ただ死んでもいないし傷一つない

 昏倒させられてるだけみたい

「はふぅ、ごめんよぉ、皆を傷つけたくないから眠っててもらうだけなんだぁ。本当にごめんよぉ」

 嫌に太った男性がどしどしと走り回りながら人々を眠らせていた

 この男まったく敵意がないけど、街の冒険者や警備に攻撃されても全く意に介していない

 攻撃が全て弾かれていた

 男の顔は泣きだしそうで本当に仕方なくと言った感じ

「やめなさい! なんで街の人達を眠らせて回るの!」

「んあああ、しょうがないんだぁ。従わないと家族がぁ」

 どうやら彼も人質を取られてるみたいね

 下手に説得してやめさせるのもウルに何かされるかもしれない

 だから一瞬で彼を眠らせて上げた

「こいつの身柄はこの女神ルニアが預からせてもらいます!」

 女神としての本来の姿を見せ、街の住人に有無を言わせない

 正体を明かしたくはなかったけど、彼を救うためには必要なことだったから仕方ないわね

 とにかくこの滅茶苦茶に重い男性を連れて行かないとって抱え上げたら、思った以上に軽かった

 そのまま転移すると驚くべきことが起こった

 ポンと煙が出て彼の体が縮んで一般的な少年のような姿に

 それもかなり可愛らしい顔してるわね

 とりあえず寝かしておいて話を聞かなきゃ

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