新世界より9

 森の中をいくら彷徨ってもジャバウォックの姿は見つからない

 それどころか他の魔物までもが全く見つからなくなってしまった

 これって本格的にかなり危険な魔物が住みついてる可能性が高い

 何故って? 奥に進むにつれてその魔物らしき気配がどんどん大きくなってるんだ

 しかも一体じゃなくて数体

 まあジャバウォックの数って結構多かったらしいから、一体だけならこんなに早く数が減るはずないもんね

 そしてそいつらは恐らく肉食だ

 圧倒的捕食者にジャバウォックたちは喰われたんだ

 サニアさんも白黒姉妹も奥に行くにつれて顔が険しくなってる

 神様をもってしても苦戦しそうな何からしくて、こっちまで不安になってくる

 まあ鬼神二人もいることだし、僕だって弱くないはずだ。きっと大丈夫。大丈夫だと言い聞かせるんだ

 ドキドキしながら歩いていると急に気配が変わった

 今までは気づかれていなかったからなのか大きな力の気配程度だったけど、明らかに今敵意を向けられているのが分かる

 しかもこれもう取り囲まれてるよ

「どうしましょうサニア様・・・」

 ハクラちゃんは怯え始めた

 普通の魔物ならハクラちゃんはここまで怯えないだろう

 でも今敵意を向けている奴らは見なくても分かる。明らかな腐臭と死の気配

 奴らはアンデッドなんだ

 アンデッドが大の苦手なハクラちゃんは少しの物音にもひぃと声を出して、可愛そうなほど怯えていた

「大丈夫ですよハクラちゃん、アンデッドなら私が浄化できますし、リディエラちゃんもいるのですから、万が一にもアンデッドなどに負けることはありません」

 サニアさんの心強い言葉にハクラちゃんの震えも少し落ち着いた

 クロハさんがしっかりとハクラちゃんの肩を抱き寄せてるし、まあ問題ないと思う

 肝心の戦いはできるかどうかわかんないけど

「姿を現しました。強力な呪力と魔力、明らかにこの世界の魔物とは違うようですね」

 クロハさんが呪力感知によって相手の位置と姿を特定した

 やはりアンデッドだったらしく、その種族名はリッチブランドーという見たことも聞いたこともないアンデッド

 僕の世界にもいなかった魔物だ

 まあ僕の世界にいたアンデッドはエルナリア姫みたいな気さくなアンデッドがほとんどなんだけどね

 あの世界でのアンデッドは魔物じゃなくて一種族として確立されてたしね

「恐らく新種の魔物です。ここまで呪力が強いと周りに影響を及ぼして、ほら、ジャバウォックのゾンビやスケルトンたちが現れましたよ」

 どうやらこいつらにこの辺りの魔物は生気を吸われてゾンビ化させられたみたいだ

 冷静なサニア様が、地面からボコボコと這い出してきたゾンビやスケルトンを一瞬で浄化していく

 さすが強力な女神だけあって浄化のスピードが半端じゃない

 クロハさんもハクラちゃんのサポートを受けながらアンデッドを倒していってる

 これは僕も負けられないと古代魔法の最大浄化呪文を解き放った

「ホーリーエレド!」

 半径五十メートルを一気に浄化できる範囲魔法で、大量に出てきていたゾンビたちを浄化、そのまま火魔法で死体を焼いて行く

 たとえ浄化したとしても死体が残ってれば新たにアンデッド化する可能性もあるからね

 ハクラちゃんが凍らせる能力で動きを止め、クロハさんが呪力を込めた刀で切り刻む

 こうすることでアンデッドは残った死体を使うことができなくなるらしい

 呪力の本来の使い方ってやつだね

 謎の魔物によってどんどんアンデッドが投入されるけど、このメンツならいくら来ても物の数じゃない

 簡単に倒せるからあまり疲弊もしていない

 そしてついにしびれを切らしたのか、謎の魔物数体が僕らの前に姿を現した

 リッチブランドー

 その顔は怨念に満ちたおどろおどろしい顔で、僕の友達のアンデッドたちとは似ても似つかないほどの怖さ

 ハクラちゃんなんて見た瞬間魔力をお漏らししながらがたがた震えている

 あのクロハさんですらその呪いの強さに少したじろいでいた

「サニア様、リディエラちゃん、下がっていてください。ここは私が」

 クロハさんは自らの呪力と神力を全開放する

 本気で戦わなければ勝てないと思ったんだろう

 僕達の浄化も効かないあいつらには、呪力で直接攻撃するしかない

 でも女神である僕とサニアさんだと大した呪力は練れない

 そこで呪力のエキスパートである鬼神クロハさんの出番ってわけだ

「ハクラを頼みます」

 震えるハクラちゃんを僕に渡すとクロハさんは刀を構えて呪力と神力を込めた

「一刀、鬼神剣術秘技、大呪力、怨娑一閃おんさいっせん!」

 ヒュンという風が吹くような音がしてリッチブランドーの一帯がその体を掻き消された

 呪力を最大出力でぶつけることで相手の呪いそのものを相殺したんだ

「ハアアア!!」

 息を吐きだしつつ次のリッチに呪力をぶつけ、切り返しざまにもう一体を掻き消す

 さらにグッと足を踏み込ませると最後の一体を切り刻んで消し去った

 それはあっという間の出来事

 クロハさんはそのまま地面に倒れ込み、体がハクラちゃんと同じく子供サイズにまで縮んでしまった

「もうしわけ、ありません、この力を使う、と、力が抜けて、動けなく・・・」

 クロハさんの体が薄くなってきた

「まずい! リディエラちゃん!すぐに魔力をこの子に! 私の手を取って!」

「は、はい!」

 どうやらかなり危険な状態らしい

 サニアさんの手を取ると僕の魔力を受け取ってもらった

 そのままクロハさんに魔力が充填されていき、クロハさんの消滅は何とか治まった

 後ろでハクラちゃんがかなり心配そうに泣きながら魔力をこっちに渡そうとしてたけど、今のハクラちゃんから下手に魔力をもらっちゃうと彼女まで消滅しちゃう危険性があるからね

 ここは魔力が豊富な僕とサニアさんでやった方がいい

「お、お姉ちゃん」

 とりあえず消滅は免れた

 それにしてもこんな危険な技も持ってたのか

 これからはなるべく使うのを制御させないと、ハクラちゃんを守ろうとまた無茶をしかねないからね

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