勇者の苦悩5

 夢の中で一人の巫女服を着た少女がくるくると回りながら箒で床を掃いている

 時折箒もくるくるとまわし、まるで踊るかのようだ

 少女はアイシスに気づくと箒を一瞬で消してぺこりと頭を下げた

「初めまして、わちきはレコ、勇者アイシスに新しい力を与えるために遣わされた十二獣神が一人です」

 レコという少女は狐耳をピコピコと動かし、人懐っこい目でアイシスを見つめる

 動物的愛らしさにアイシスも思わず顔がほころんだ

「何笑っているのですか? まあいいですけどとりあえずこの力を受け取りなさいな」

 レコは手を伸ばすとアイシスの手を掴み、そこに力を流し込んだ

「今から力を流し込むから気を楽にしてくださいね」

 レコの手は柔らかく小さいため、アイシスの庇護欲が高まる

「レコ、様とおっしゃいましたね。あの、俺はなぜ突如としてこのような力を授かることになったのでしょうか?」

「あれま、聞いてないのですか? まったくトコもエコも何をやっているのでしょう。きっとリディエラに力を与えたことで気を抜いて忘れてるのね。全くしょうがないですね」

 先だって力を与えた二人に呆れつつレコは敬意を語りだした

「リディエラが力を得て精霊神になったのは知っていますか?」

「いや俺は、知らないです・・・。そうなのですか?」

「はい、彼女は今別の世界で戦っていると思います。それでですね、あなたには私達の力を受け取ってもらって、さらに別世界で活躍してもらいます! その名も大勇者育成計画!」

「大勇者?」

「そうですそうなのです! 大勇者とは世界をまたにかける最強最高の勇者! アイシス、あなたにはそれだけの力があるのです!」

 アイシスは驚きで何も言えなくなってしまった

 そのまま息を整えて頭を整理する

「それで、俺もリディエラと同じように、旅立って世界を救える、皆の役に立てるのか?」

「それはあなた次第ですね」

 レコは指をピンと立てて説明する

「まずは私達の力をしっかりと受け取ってもらって、それを体になじませるところから始めてくださいな。リディエラは迷宮でその力を急いで身に着けてもらいましたが、あなたの場合はゆっくりとなじませる必要があります。でないと力に耐えきれずに精神が崩壊する可能性があります」

「ゴクリ」

 生唾を飲み込んで緊張が走る

 しかしアイシスの心は決まっていた

(この力でみんなを、キーラを守れるなら、やるしかねぇな)

「大丈夫です。俺やってみせますよ。だからこれからもご享受お願いします!」

 アイシスはこれからも力を身につけていくだろう

 そして力を受け取るアイシス

 その体に金色の狐がスリスリとまとわりつき、体の中へと消えて行った

「これで終わり、もしまた会えたら、その時はお話しましょうね」

 レコの笑顔を見ながら夢は覚めて行った


 目を覚ますとキーラが横で寝息を立てている

 自分の手を見てにぎにぎと開いて閉じる

「うん、力はしっかり受け取れたか」

 アイシスは起きあがると朝風呂に入るためにキーラを起こさないよう立ち上がる

 朝に風呂に入るのはアイシスとリドリリくらいで、浴場には誰もいなかった

「リドリリの奴もう入ったのか」

 すでに使った痕跡があることでリドリリは既に起きていることが分かった

 魔王の秘書官でもあるため朝起きからの書類整理などがあるのだろう

「ふぅ、少し汗もかいたようだな」

 湿った肌を撫でつつアイシスは服を脱いで浴場へと歩く

 体にかけ湯をした後は石鹸でしっかりと体を磨き、髪を洗って整え、石鹸を流した後はゆっくりと湯船につかる

 少年のような性格と体つきだが女磨きを忘れない、それがアイシスだった


 風呂を出てすぐに鍛錬を始めしばらくするとキーラが起きてきて食事に誘ってきた

 アイシスは鍛錬を終え、キーラと共に和気あいあいと話しながら食堂へと足を速めた

 魔王城の食堂は様々なメニューに溢れ、しかも非常においしい

 キーラとアイシスは毎日その料理を堪能していた

 二人は日替わりの定食を頼むと目を輝かせた

 今日の定食は二人の好きなカレーだったからだ

 キーラは異世界人が広めたカレーが大好物で、それをアイシスに教えたことでアイシスまでもがカレーの虜になっている

 そんなカレーをかき込んでお替りを頼み、それもすぐに平らげて二人そろって修行に戻った

 アイシスはもちろんのことキーラも強くなろうと日々努力している

 そんな二人を書類整理の終わったリドリリは微笑ましく眺めていた

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