帝国3

 巨大な魔物、仮称としてスルトと呼ぶことにした

 ところどころが燃え盛る巨人、北欧神話の巨人の名前だ

 スルトはグッと手を振り上げるとこちらに向けて振り下ろした

 敵も味方も関係なく打ち付ける手によって残っていた魔物もつぶされてしまった

 こちらの被害は精霊たちが一斉に動いて人間達を助けたため軽微

 それでも衝撃波だけで辺り一帯が隕石が落下したかのようにめちゃくちゃになってる

「こんなの一撃でも喰らったら死んじゃうよ・・・」

「リディエラ様は私達が守ります!」

 テュネ含め四大精霊が僕の周りを囲んで強力な結界を張った

 それを合図に僕は四柱と共にスルトの頭まで飛んだ

 なんて巨大な頭なんだろう

 目玉一つで人間五人分くらいはあろうかという大きさ

 その目玉が僕をしっかりとロックオンしてるのが恐ろしい

「僕らのことを敵としても見てない感じだね。まるで羽虫を見るような目・・・」

 とにかくこのまま暴れさせるわけにはいかない

 僕は自分のもてる最大威力の魔法、根源魔法を叩き込むことにした

 と言っても僕の根源魔法がどのようなものなのか全くの未知で、分かってるのは名前だけ

 生魔法、その名前だけだと治癒系の魔法に見えるけど、以前ちょっと使ってみた時治癒には使えなかった

 それなら一体どんな魔法なんだろう?

 何はともあれ現状を打破できるのはこの魔法だと思う

「生魔法、第一章、破壊」

 魔法に描かれる言葉を紡いで形にする。それが根源魔法だ

 世界の根源から引き出される魔法は強力無比

 生魔法なのに始まりが破壊ってのはよくわからないけど、突如渦巻き始めた強大な魔力に意識を持って行かれてそれ以上は考えれなかった

 スルトの顔めがけて放たれた魔力は形になってその顔を覆う

「グガアアアアアアアアアアアアア!!」

 地響きを起こすほどの咆哮に思わず姿勢が崩れたけど、それをテュネたちが支えてくれた

 見るとスルトの顔が崩壊し始めていた

 そして破壊の魔法はスルトを少しずつ覆っていく

 その痛みから逃れるためかスルトは滅茶苦茶に暴れ始めた

 振り回した腕が僕めがけて迫ってきたけど、それをハクラちゃんとクロハさんが受け止める

 さらにその腕を切り刻んでなんと落としてしまった

「精霊様! ご無事ですか?!」

 二人のおかげで傷一つないから僕はうなづいた

「それにしてもすさまじい魔法ですね。根源魔法・・・」

 どうやらあの破壊という魔法はその体を徹底的に破壊する魔法みたいだ

 まるでスルトが魔法に喰われているような感じがする

 段々と体が崩れて行って、やがてスルトは跡形もなく消えてしまった

「一番弱い根源魔法でこの威力・・・。これは使うべき時を見極めないとだめだね」

 ともかくあれだけ大量にいた魔物も残り少し

 人間の軍が一気に魔物を殲滅し始めた

 まぁあのくらいなら彼らに任せても大丈夫だね

「精霊様! おかげで助かりました。あとは我々が処理しますので精霊様は城でお待ちください」

「うん、アークロンさんもお疲れ様」

 あとを任せて僕らは城へと戻った

 既に伝令が行ったみたいで僕らの帰りを今か今かと待ちわびていたらしい帝国の住人

 一気に歓迎されてもみくちゃになった

「うう、人が多いのは苦手です」

 ハクラちゃんもたくさんの男性に囲まれ求愛までされてるけど、クロハさんが人睨みしただけで蜘蛛の子を散らすように逃げて行った

 ハクラちゃん、胸はあれだけど相当美人だから人気者になるべくしてなったって感じだね


 それから事後処理を終えたアークロンさんを城で待って、数時間くらいして帰って来たアークロンさんをねぎらった

 王自ら戦場で指示を飛ばし大活躍だった彼に僕は更なる加護を与えた

「これは・・・。よいのですか精霊様?」

「うん、あなたならちゃんと役立ててくれそうだし」

「ありがとうございます! 必ずや期待に応えて見せますとも!」

 僕が与える加護は精霊の加護よりも強力な女神の加護になっている

 これならアークロンさんもそんじょそこらの魔物にやられる心配もない

 ちなみに正しい心の持ち主じゃないと加護は働かないと念のため釘も差しておいた

「心に留めておきます」

 うんうん、民のために頑張ってほしい

 こうして帝国で起きていた問題は何とか片付いたんだけど、問題はこの騒動を引き起こした人物がまだ見つかってないってことなんだよね

 それとスルトのことなんだけど、あの後とんでもないことが起こった

 崩れ去ったスルトの塵の中から小さな燃え盛る女の子が出てきた

 その子は未だ目が覚めないけど、今は同じく炎そのものであるエンシュが面倒を見てるんだ

 多分だけど、これが僕の根源魔法なんだと思う

 破壊の後の再生というのがこの魔法の根源なんだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る