帝国2

 カリュバート帝国

 かつてたくさんの国を傘下に収め、精霊の言葉を無視して開拓を続けていた国

 一時期は精霊に見放され、土地土地は枯れて滅びる一歩手前まで行った国だ

 そんな帝国も今では数か国の傘下がある穏やかな国となっていた

 その皇帝であるアークロンさんは民のことを思いやれる優れた皇帝で、精霊の加護まで受けた素晴らしい人だ

 この人なくしては帝国はもたなかっただろうね

「よく来てくださいました精霊様!」

 久しぶりに会うけど、優しい顔つきのナイスミドルなおじ様だね。女性人気も高いんだとか

「こんにちはアークロンさん。それで例の件なんだけど、この国の周辺で大量の魔物が目撃されたってホント?」

「はい、恥ずかしながら我々だけでは対処しきれないかもしれないのです。何せ魔物の数は目撃されているだけでも数万を超えます」

「数万!?そんなにいるの!?」

 千体くらいなら帝国の軍事力でも十分対応できるだろうけど、数万ともなると確実に無理だ。魔物って言うのは弱い魔物一体でも強めの人間三人分くらいに相当する。この帝国の兵はおよそ十万人くらいかな?

 平和に伴ってそれも縮小してきているからね

 確かに帝国にも強い人はいるけど、それでも冒険者のAランクくらいかな?

「何とか食い止めようと周辺国に呼びかけたのですが、実は・・・」

 アークロンさんの話によると、周辺国付近でも数万体もの魔物が蠢きひしめきあっているのが確認されたらしい

 一体なぜこれほどの魔物が集まったのか原因はまったくの不明とのこと

 これじゃあ周辺国も一緒に滅ぼされかねない

「ハクラちゃん、急いで鬼神たちを集めて。僕は精霊と妖精を召喚する」

「は、はい!」

 これだけの数がいるとなると鬼神たちに手伝ってもらうしかない

 彼女たちは一人一人が神の如き強さを誇っているからね

 それに僕の方も精霊達を呼び出して魔物退治にあたってもらう予定だ

 星詠み族の国で復興支援をしている精霊以外全てを外に呼び出しておいた

 もちろんテュネたち四大精霊もね

「リディエラ様! お話は聞きました。帝国は既に精霊が守護する国です。我々で守りましょう」

 エンシュ、張り切ってるな。すごく頼もしいよ

 それにしても僕、これだけの数の精霊を召喚しても全然疲れなくなってる

 成長したなぁ、なんてしみじみ思いつつもすぐに精霊達を各国に配置して、魔物たちとの戦いに備えた


 二日後のこと

 ついに魔物たちが動き始めた

 精霊達に調査をさせていたけど、その動きがようやくあった

「リディエラ様、一斉に動き出しました。目標はやはり帝国とその周辺国のようです」

「了解。ハクラちゃん、鬼神たちに指示をお願い」

「はい!」

 僕はここに集まってくれた全ての精霊と妖精たちに指示を飛ばし、ハクラちゃんは少し慌てつつもアカネさんたち鬼神に指示を飛ばした

 アークロンさんも兵士を率いて一気に魔物たちとぶつかり混戦が始まった

「行くよ四大精霊! 合成魔法、エレメントアルカナ!」

 光と闇、それに四大精霊のエレメントが合わさった精霊魔法でも最大威力を誇る魔法を魔物の中心に落とした

 それにより一気に数千もの魔物が消滅する

 それでも全然数が減ってるように見えないから、続けて僕らは個別に精霊魔法を放っていった

 僕らの魔法から逃れた魔物の残りを帝国兵や周辺国の兵たちが倒していく

 いい連携だ。それに鬼神たちがびっくりするほど強い

 一度の攻撃で千体以上は確実に屠って行く姿は正に鬼神の名に恥じない強さだよ

 あとクロハさんがすごい

 呪力が高まっているのか敵と認識した相手のみを着実に排除してる

 その様子は僕にすら恐怖を覚えさせるようなものだったよ

 なにせ怨念のような物が見えるんだもん。背筋が凍りそう

 一緒にいるハクラちゃんが平気そうなのはずっと一緒にいて慣れてるからだね

「ハクラ、合わせて」

「うんお姉ちゃん!」

 二人は手をつなぐと白と黒の力が混ざり合うように光を放った

 その光に包まれる魔物たちは一斉に逃げ出そうとするけど、絶対零度の氷結と黄泉の風によってパタパタと死に絶え、あるいは凍って行った

 

 それから二時間ほど戦った頃だろうか? あらかた魔物を倒し終えたところで突如空間が裂けるピキッという音が響いて、そこから巨大な腕が出てきた

 その腕は空間をさらに裂き開くと顔がぬっと飛び出した

「なに、あれ・・・」

「分かりません。あんな魔物は見たことがありません」

 テュネでも知らない魔物だから十中八九この世界の魔物じゃない

 異世界から流入した魔物だろうけど、ゲート付近にはカイトさんという見張りがいるはず

 それに始まりの鬼神も一緒にいるはずだからそこから来た可能性は限りなくゼロに近い

 じゃあこいつは直接ここに来たってことか

 かなり大きな力を感じる。このままじゃまずいと思って僕は人間である帝国の人間やその周辺国の人達をすぐに逃がした

 一斉に撤退を始める人間達を見てその魔物はグッと手を伸ばして危害を加えようとしてる

 その手をハクラちゃんが刀で弾いて押し返した

 あれほど巨大な腕を押し返すなんてどんな腕力してるんだ君は・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る