桃源郷13

 節目の十階層に着いた

 ようやく半分ってことで少し休憩することにした

 ここは渦潮がぐるぐると渦巻く海に囲まれた小さな小さな島で、照り付ける太陽がまぶしい

 僕は大丈夫だけど、マコさんは太陽に照らされることで汗をかいていた

「はいマコさん、これ持ってて」

「あ、ありがとうございます」

 僕は魔法の袋から日傘を取り出してマコさんに渡した

 こんなこともあろうかと一応買っておいたんだ

 それにしてもここでは何をすればいいんだろうか?

 渦潮だけで他に何も見当たらないし・・・

 そうやって辺りを見回していると、渦の中から黒いものが浮かび上がってくるのが見えた

「あれ、何だろう?」

「どれですか?」

「ほらあそこ、ちょっと大きめの渦のとこだよ」

「ひっ、何かいますね!」

「魚かな?」

「いくら魚でもこの渦の速さでは泳げないかと・・・。魔物かもしれません」

「一応警戒しよう」

 その影はどんどん大きくなり、やがてその頭が水面から飛び出した

「うっわこわ! え、なに、こわっ!」

「ひっ、お、男、ですか?」

 目が血走り、つるんとした巨大な顔の男がこちらをジッと見ている

 この激流の渦潮の中平然としてただ僕らを見てるんだ

 それがなんとも気色悪くて、得体のしれない恐怖を感じる

 しばらくそいつと見つめ合っていると、急にその男は水に浸かっていた手を伸ばして僕を掴んだ

「うっ、な、なに? 苦しい・・・」

「精霊様!」

 大きな手にギュッと握りつぶされるようにして掴まれたため、自分の体に流れる魔力が阻害されてうっ血のような状態になる

 このまま魔力がちゃんと流れなきゃ僕は、消滅する

「精霊様を放しなさい!」

 マコさんが振りかぶった蹴りを男の手に当てる

 でも男は何の反応もなく相変わらず僕を締め付け続けた

「う、意識、が」

 そのまま段々と意識が遠のいていく

 このまま死んだら、外に排出されるんだけど、それはニャコ様からの課題の失敗を示してる

 それはやだなぁ

「精霊様ぁあああ!」

 マコさんの叫び声を聞きながら僕は海の中へ引きずり込まれ、そこで意識を失った

 気が付くと暗い洞穴みたいな場所で僕は鎖に繋がれていた

 その僕の前にはさっきの大男がこちらに背を向けていびきを立てている

 鎖を外そうとしてみたけど、なんだか力が入んないんだ

 魔法も使えないし、もしかしてこの鎖が僕の魔力を阻害してるのかもしれない

 力もどうやら見た目相当の女の子くらいしか出なくて、鎖は全然ちぎれない

 仕方なく座っていると、しばらくして男が突然むくりと起きあがった

 げっ! 裸だ!

「ぐげげげ、いい拾い物、した。女、久しぶりにみた。げへ、げへへ」

「その、鎖を解いてもらえませんか?」

「だめ、おまえ、俺の嫁になる」

「はい?!」

「お前、俺とここで暮らす。俺と子を作れ」

「ちょ、何言ってるんですか! 僕は精霊ですよ!?」

「大丈夫、その鎖、精霊でも、人間変えれる」

 そっか、だから力が出ないんだ

 にしてもだよ。人間になってるってことは、僕は今見た目相応の歳の子ってことになるんじゃ?

 だとしたら犯罪もいいとこじゃないか! いやまぁ犯罪なのは地球だけの話かもしれないけど、それにしたって十歳の子と結婚したいとか、この人、ヤバい・・・

 二十代前半に見えるマコさんだっていたのにも関わらず僕を選んだんだよ?

 変態だぁああああ!

「待ってろ、今子作りの用意、する」

「ヒッ! ちょ、ちょっと!」

 まずいぞ、このままだと本当に・・・

 どうにか逃げないと

 とにかく鎖を壊そうとその辺りに落ちていた石で穿ってみるけど、硬すぎる、傷一つつかない

「ぐげへへ、無駄、無駄だ。そんなもので、壊れない」

「こ、こっちに来るなぁああ!」

 持っていた石を投げたけど、男の頭にヒットしたにも関わらず何も感じていないようだ

 段々と近づいてくる裸の大男は僕に手を伸ばしてきて、精衣をはぎ取った

 この精衣は僕ら精霊にとって体の一部。それを千切られるのは結構な痛みを伴った

「アアアアア! あぐっ、痛い、痛いよぉ」

「ぐぎゃぎゃ、そうか、精霊は、これも体、だったなあ」

 自分の意志で着たり脱いだりはできるけど、無理やり引っぺがされたり、破かれたりするのはとにかく痛かった

 涙がこみあげて来るのを見た男はげらげら笑っている

「ぐひゃひゃ、ひゃはぁ」

 男は笑いながら僕の体を嘗め上げる

 うう、気持ち悪い

 その時上からマコさんの声が響いてきた

「精霊様ぁ!! おのれ! 精霊様になんてことを!」

 突然声が響いてマコさんが空間を裂いて現れたんだ

「仙力大解放! 永久の終わり」

 怒りに顔が歪むマコさんは爪でスッと空間を裂くと男はあっさりとそれに吸い込まれて消えた

「精霊様! ご無事ですか!? な、なんとまぁ惨たらしい姿に」

「い、いや、服を破かれて舐められただけなんだけど。うう、水浴びがしたいよ」

「と、とりあえずその鎖を壊します!」

 マコさんは爪で鎖を切り裂いた。いとも簡単に

「ああ、精霊様、私が不甲斐ないばかりに」

「だ、大丈夫だよ、助けに来てくれたじゃない。でもちょっと、なんだか、眠く、て」

 精霊は眠らない。でも僕は再び意識を失った

 きっと魔力を大量に失ったからだと思う

 そして数日後、僕は目を覚ました

 そこはあの小さな島で、扉が目の前にあいていたけど、マコさんが僕をずっと介抱してくれていたみたいだ

 もう体に異常はない。すっかり調子もいいし精衣も戻ってる

 体はマコさんが海の水を沸かして塩を分離させてから洗ってくれたみたい

 次の階層への扉が開いてるってことは、あの大男を倒すのがここでの目的だったのかな?

 それにしても、僕のような精霊にとっては天敵みたいなやつだった

 まさかあそこまで力を封じられるとは思ってもみなかったから、本当に怖かった

 思い出すと怖くてまた泣いてしまった

 そんな僕をマコさんは優しく慰めてくれる

 そうだ、こんなとこで情けなく泣いてちゃだめだ

 気を取り直して先に進まないと

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