三獣鬼と三妖鬼16

 何と言いましょうか、タイコウボウ様の修行は想像を絶するほどにハードでしたわ

 もう身も心もボロボロと言ったところでしょうか。可哀そうに、ミドリコはこんなにやせ細ってしまって・・・。あ、この子は元々やせ型でしたわ

 それにしても、もう一歩も動けませんわ

「うん、今日まで本当によく頑張ったね。仙力も体に充実してるんじゃないかな?」

「た、確かに、ハァハァ、仙力の、流れを、感じますわ」

 呼吸も整わないまま内なる力に気をやってみますと、確かな流れを感じますの

 元からわたくしたち鬼仙には仙力は備わっていますけど、ここまで力強く感じたのは初めてですの

「それを忘れないように何度も繰り返すんだよ。明日からはジョカの修行になる。僕よりも厳しいから覚悟して、しっかりと頑張るんだよ」

 タイコウボウ様はそういうと桃を剥いて切り分けて出してくれましたわ

 ああ、ここの桃はなんて美味しいのでしょうか。タイコウボウ様が向いてくださったことでその美味しさはとどまるところを知りませんわ

 ああ、五劫のすり切れとはこの事ですわね

 そんな幸せを感じているのもつかの間、なんだか急に胸が締め付けられるかのような・・・。いえ、別に胸が大きいからとかそういうわけではなくてですね。胸騒ぎがし始めましたの

 なんだか、大切なものを失ったかのような、どうにもやるせない気持ちになって来まして、わたくしたちは慌ててタイコウボウ様に申し出ましたの

「なるほど、胸騒ぎ、ね。確かにそれは気になるね。一人ならまだしも三人ともなんでしょう? それなら早く帰ってあげなさい。君たちはもうすでに十二分に力はついているんだ。あとはきっかけがあれば進化できる。ジョカの修行ならものすごくきついかわりにすぐなんだけどね」

「はい、でも友人が、大切なお友達が何かに巻き込まれていないか心配なのです」

「うん、そうだね、早く帰ってあげなさい」

 タイコウボウ様はそう言ってわたくしの頭をポンポンと撫でて下さりましたの

 それで元気も出ましたわ、まぁ仙桃果の力かもしれませんけど、それでもやる気は満ちましたの!

 わたくし達三人は習った仙力を発動し、空を飛んで急いで鬼ヶ島に帰りました

「ただいま戻りましたわ! アカネ! アカネはどこですの!?」

「あ、お帰りなさいませシエノ様。アカネ様なら先ほど港の方へ出かけられました。何やら物々しい様子でして、三妖鬼のシエノ様方以外の三鬼仙の方々は出払われました」

「何ですって!? 三鬼仙が全員出払うほどの事態が起こったというんですの!?」

 三妖鬼、三獣鬼、三幽鬼はまとめて三鬼仙と呼ばれていますの

 この九人はこの国を建国なさった祖先様に血が近いんですのよ

 そんな話はどうでもいいですわね。今は、その事態が何なのかを確かめる必要がありますわ

「あ、そう言えば、キキ様のお姿が見えないと騒いでおられましたよ」

「キキが?」

 姿が見えない・・・。あの子に限って家出はないとは思いますけど、この胸騒ぎはもしかして

 三人で顔を見合わせると今度は港へ向かって飛びましたわ

 ここは子供の頃三鬼仙九人とクロハ様、ハクラ様でよく遊んでいた港街

 朝遊びに出かけて、夕方になるとみんなで帰りましたわ

 その時港町のリーダーのおじさんにお魚をもらったりして

 森の方ではよくかくれんぼを・・・

 思い出しましたわ。あの森には祠が確かありましたの

 その祠には伝承も何も残っていなくて、ただ存在するだけのよく分からない祠でしたわね

 もしかしてそれに関係しているのではないのでしょうか?

 アカネがここ最近世界各地で封印が解けたり、異世界から信じられないような化け物が来ていると言っていましたわ

 もしその祠に、何か封印されていたとしたら?

 キキの不可思議な失踪、それに三鬼仙の出動

 最悪の展開を予想してしまいました・・・

「あれ、あそこ、アカネ見えた」

 ミドリコが指さす方向に、アカネの特徴的な真っ赤な髪が見えましたわ

 彼女に追いつくように飛んで、わたくしはアカネの前に降り立ちましたの

「シエノ!? どうしたっすか? 修行してたんじゃ」

「それどころじゃないでしょうアカネ! お友達の危機に駆け付けないなんて、お友達失格でしょう!?」

「あ、ありがとうっすシエノ。実は・・・」


 アカネに話は聞きましたの

 キキは、祠から復活した何かに取り憑かれ、アカネたちに攻撃を加えて逃げたんだそうですの

 それを聞いてわたくしは心臓の鼓動が速くなっていくのを感じましたわ

 キキが、キキにもしものことがあったら。そう思うと胸が痛くなってきましたの

「とにかく今追跡中っす! シエノも手伝ってほしいっすよ!」

「そう、追跡はアカネのお得意でしたわね。一緒に行きますわ!」

 合流したわたくしたちは八人でキキの痕跡を辿って走りましたの

 キキを絶対に救って、皆で帰りますの!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る