桃源郷12

 というわけでその祠に来てみたものの、特に神様らしい神聖な雰囲気はなくて、やっぱりかって感じだった

 そこに祠から声が響き始め、何かの気配がし始めた

「ほぉ、これはこれはなかなかの麗しい娘を連れて来たではないか。これなら地震を治めてやらんこともないぞ。さあ近う参れ、娘たちよ」

「はい」

 一応僕らは生贄のていだから顔以外を白い布で覆っている

 祠に近づくとそこから世にもおぞましい姿をした化け物が這いずり出て来た

 一体この小さな祠のどこにこれほどの大きさが詰め込まれていたんだろうってくらい大きい

 その化け物は顔がぐちゃぐちゃで、目も鼻も口もてんでバラバラについていて見ているだけで気持ち悪くなる

 ぬめる手を伸ばしその化け物は僕を掴んだ

「う、くう」

「ぐひへへへ、いのぉ愛いのぉ、顔をもっとよう見せてみい。ほぉほぉ、まだ小さいが食べごろじゃの。それに、こちらもなかなか」

 もう一方の手でマコさんを掴むと化け物は自分の住処へ僕達を運んでいった

 祠が住処じゃなかったのか

 そこは地下で、かなり奥深い場所にあったんだけど、なぜか光が付いていて明るい

「ほれほれ、座りなさい。ふひょひょ、見れば見るほどほんに愛いやつじゃて。どれ、今茶を入れてやろう」

 すると化け物はグネグネと自分の形状を変化させていった

 うわ気持ち悪い

 グチャグチャという音が響いて、化け物の姿が人型に変わった

「ふぅ、やはり本来の姿が一番動きやすいわなぁ。さてお嬢さん方、これからわしとここで暮らすのじゃからして、名前を教えてもらおうかな?」

 開いた口が塞がらないとはこの事だった

 姿が変わったと思ったら化け物、いや、お姉さんだな、このお姉さんから突然神聖な気配がし始めた

 恐らくは神獣。それも結構高位の神獣に違いない

 彼女はニコリと微笑むと先ほどの化け物の姿からは想像もつかないほどの優雅な動きでお茶を入れ始めた

「あ、あの、貴方は?」

「おお、怖がらせてすまなんだな。一応村人にこの場所を知られとうないんであの姿でおったのよ。わしはカイナ。この土地を守る神獣であるぞ。で、お嬢さん方の名は?」

「えっと、僕がリディエラでこっちがマコさんです。その、村では二人とも身寄りが無くて」

「そうかえそうかえ、ならここでわしと一緒に暮らすがええ、何不自由ない生活をさせてやろう。永遠の命もくれてやる」

「永遠の命?」

「ああそうじゃ。わしにはそれができる。どうじゃ?」

「えっと・・・」

「い、いやか? な、ならほれ、こんなにたくさんの宝石がある。それに食べ物も。遊ぶにも困らんぞ? ダイスにカード、ボードゲームもある! 楽しいぞぉ」

 そっか、僕はなんだかわかった気がした

 この人、寂しいんだ

 もしかしてずっとここで、一人で・・・。だから歪んじゃったんだ

「カイナさん。ずっと、一人でいたんですね。寂しかったんですよね?」

「ななな何を言っておる! わ、わしはそのようなことは! そのようなことは断じてないぞ! 何故ならわしは神獣じゃ! この土地を守るがわしの使命。星の女神ピシカ様から授かった使命なのじゃ」

 遠い目でそのピシカ様のことを思い出しているんだろう

「ピシカ様はそれはそれは美しい女神様で、わしは一目で好きになってしもうたのじゃ。当時まだただの鷲のアヤカシに過ぎなかったわしは必死で修業をこなし、神獣となった暁にここを任されたのじゃ。今でも鮮明に思い出すぞ、ピシカ様のお優しい笑顔を」

「そのピシカ様とはいつから会ってないの?」

「む、なぜお前がそのようなことを聞く?」

「いえ、気になっただけです」

「ふむ、まぁいい、聞いてもらおうかの・・・。わしが神獣になってからあの方はしょっちゅう降臨してはわしと語らってくれておった。わしはそれだけでうれしかったのじゃが、ここ数百年突如として降臨してくださらなくなった。わしに至らぬところがあったのかもしれぬ。愛想をつかされたともう理解しておる。そうじゃ、わしは、寂しい。寂しい・・・」

 悲しそうな顔で目に涙を浮かべるカイナさん

 それを見て思った

 彼女は神獣である前に一人の女性で、人と同じに寂しさを感じるんだ

「ねぇカイナさん、一回僕らと村に行きませんか? そこの人達と話し合ってみてもいいんじゃ?」

「わ、わしが人間とか? わしは誇り高き神獣、そうやすやすと人前に姿を見せるものでは。だが、いや、本当にいいのか?」

「はい、生贄を求めて地震を起こすよりはよいかと」

「そ、そうか。だが怖がられたりは? わしは相当奴らを怖がらせておるぞ?」

「その姿で行けば大丈夫だと思うよ」

 それから今の人型のカイナさんを連れて村に戻ってみた

 無事戻って来た僕らを見た村人たちは安心半面と、知らない女性がいることに不安半面って顔だ

「あの、そちらの方は?」

「神獣のカイナさん。この土地を守ってるらしいよ」

「そ、そんな恐れ多い! なぜ神獣様が!?」

「その、なんだ、今まで怖がらせてすまなかった。わしはただ、ただ・・・。その、ゴニョゴニョ」

「え? 神獣様今なんと?」

「寂しかったんだよカイナさんは」

「さ、寂しかったですと?」

「そ、そう、じゃ。騒がせてすまんかった。これからはおとなしくする」

「それならそうと言ってくだされば、わしらの村でおもてなしをしましたのに。この土地を守ってくださっていたのじゃ。わしらの方が感謝せねばならないですのに。これからはこの村で好きに暮らして下され」

「よ、よいのか本当に!?」

「もちろんですよ!」

 ふぅ、なんとか解決、かな?

 それにしてもニャコ様も体よく問題解決したって感じじゃないかな?

 まぁいいけど

 ところで星の女神ピシカ様はなんで降臨しなくなったんだろう

 そんなことを思いながら、村人や神獣カイナさんにお礼を言われつつ僕らは次の階層への扉をゆっくりくぐった

 あ、そうそう、他の生贄となった村人数人は無事戻って来たよ

 普通にあそこで暮らしてたらしくて、あそこでの生活がすごく快適だったから、今後もカイナさんのお付きとして暮らすみたいだ

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