竜人族の国15
雲はますます黒くなり、まるでブラックホールが開いたかのような光景だ
違いはそこから大量の雷が降り注いでいることかな
雷はどうやら人々を狙い撃っているみたいで、たまたま観光に来ていた冒険者たちが一般観光客を守ってくれている
おかげで今のところ被害を受けた人たちは軽症者ばかりだ
冒険者たちの対応が素早くて助かったよ
とにかくこの雷を止めないことには怪我人は増えるばかり
スピードを上げて雲に突っ込んだ
「うわっぷ! この雲、なんか硬いよ」
突っ込んだとたんにまるでがちがちにかためられた綿のような感触がした
フワフワじゃなくて、ギュッと圧縮したような硬さなんだ
「これ、雲じゃないですね。何らかの生物が作り出したものだと思われます。生命力を感じます」
確かにこの雲からは生命が発する特有の力を感じる
多分魔物か何かがこの雲を操っているんだと思う
「取りあえずこの雲の上へ出ましょう」
「テュネ、こういうのを作り出す魔物に心当たりはある?」
「申し訳ありません、それが全く分からないのです。封印されている魔物などにもこのような雲を作り出すモノはおりません」
テュネが知らないってことは、異世界から流入してきたんだ
異世界とこの世界は意外とつながりやすい。でも魔物が入ってくることはめったにない
それは異世界間を無理に通ろうとすると体がバラバラ、いや、粉々になるからだ
分子レベルで破壊されちゃうみたい
ただ、それを渡ってこれる存在がいる。それが神話級と呼ばれる強力な個体だ
普通なら異世界と繋がっている扉の前で最強であるカイトさんが防いでくれるんだけど、ごくまれに別の場所で扉が開くこともあるらしい
多分今回のこの魔物は、竜人族の国の近くに開いた扉から出て来たんだろう
そう言った扉を通ってこれる特別な者は他にもいる
それが異世界人と呼ばれる人たち
彼らはそこを通る際に体の構造を大きく変えるらしい
潜在的に内包している力に適した姿に変化するんだ
もしその自分が持つ力に女性の体が適していた場合、自分の姿は女性に転換してしまうんだとか
転生とは違う変化、この世界にもそう言った人々はたくさんいる
僕も色々なところをまだまだ回るつもりだから、そのうち会えるはずだね
それはさておき僕たちは雲をかき分けて上に飛び出すと、その上に人型の魔物が立っていた
ただ人型と言っても、知性のありそうな顔はしていない
こちらを見て威嚇をするかのような唸り声をあげて、雲の上を走ってこちらに向かってきた
「あの力、やはり神話級です!」
神話級、前に対峙したときは負けを確信した
戦わずして僕じゃ勝てないことがはっきりとわかったんだ
その時はハクラちゃんたちが助けてくれたからよかったけど、今彼女たちはいない
自分でやるしかないんだ
「僕だって成長してるんだ。今度は負けないよ」
そうだ、今相手から感じる力は確かに強力。でも成長した僕の力なら、勝てる!
「合成魔法、テレアフレジア! 変質しろ!」
炎と光の属性を帯びた魔法をさらに変質させる
これが僕が迷宮で培った力だ
変質したこの魔法は、元来燃やし尽くすはずの魔法だったものが焼きながら腐食させていくという強力な魔法になった
敵にぶつかったとたん、燃え上がって包み込み、その身を腐らせながら焼いて行く
「やった!」
敵は僕の魔法に驚いたのか、こちらをじっと見つめている
その間も燃え、腐っていくのに、ただじっとこちらをみているだけ
それが何だか不気味だった
「ジョジュル。ぐぎゃぎゃが」
うわ、不気味な笑い方。笑ってるんだよね?
顔が凶悪すぎていまいち感情がわからない
そいつは笑いながら長い舌で炎を舐めとっている
すると腐食と火傷で酷い状態になっていた皮膚がグジュグジュと崩れ落ちて、その下からすぐに新しい皮膚が再生した
「ジュララ、ゲゲシュロウ!」
四つん這いになった敵はさっきよりも速く動き始めた
動きがゴキブリみたいでかなり不気味だ
「変質魔法、コールドレイン!」
今までできなかった魔法。この変質魔法というのは、既存の魔法を僕の思うように変化させて全く新しい魔法を作り出せてしまう
今放った魔法は雨のような魔法で、これの一粒一粒に力が込められている
雨の当たった場所から絶対零度の凍結が始まり、最終的に完全に凍らせて体が砕け散ってしまう
もちろん下にいる人たちに当たらないよう最大限に配慮しているよ
「これでどう?」
降りしきる魔法は敵に確実に当たっている。その個所から段々と凍ってきているのが分かる
でも、相手はそんなこと位にも介さずに笑いながらこっちにどんどん近づいてきて、気づいたら目の前に迫られていた
「リディエラ様、危ない!」
隣にいたエンシュが僕をかばって敵の攻撃をまともに受けてしまった
「エンシュ!」
倒れ込むエンシュを抱きかかえて後ろに飛び下がった
エンシュを見ると、胸元に大きな切傷ができていた
敵の爪に切り裂かれたんだろう
急いで回復魔法をかけて傷を塞がないと
テュネに警戒を任せてエンシュの傷に魔法をかけたけど、一向に傷が塞がらない
それどころか傷口からエンシュの魔力が漏れ出していた
このままじゃエンシュが危ない!
「そうだ! 合成魔法、変質、パーフェクトヒール!」
これこそ異世界にあるという完全回復魔法だ
この世界では命に直結するような傷を回復させる手段がない
ないって言うと嘘になるけど、使えるのは元神の母さんくらいだ
僕は、残念ながらまだ使えなかった
でも、パーフェクトヒールに匹敵する力を合成魔法で引き出して、変質させて僕でも扱えるようにしたんだ
すると、エンシュの傷はみるみるうちに塞がっていき、傷跡一つ残らなかった
「あ、ありがとうございますリディエラ様」
「エンシュは休んでて、僕があいつを倒すから」
僕の大切な家族を傷つけた。絶対に許せない
奴は下品に笑っている。エンシュをやれたと勘違いしてるんだろう
怒りがこみあげてくるのを抑えて、魔力を練った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます