竜人族の国16

 怒りで我を忘れないように僕は深呼吸する

 この怒りは静かに抑え込んで、相手にぶつけるんだ

 魔力がいい感じに溜まって敵を十分に倒せそうなほどの力が僕の魔法に集まる

 周囲の魔力を大量に取り込んだんだ

 本当なら体内の魔力と性質の違う自然界の魔力、体に取り込めばそのままだと害になることがあって危ない

 でも、今の僕には変化魔法がある

 魔力を僕専用に変化させた

「テュネ、エンシュ、アスラム、フーレン、僕の合図で後ろに下がって」

 四柱は分かったとうなずいて僕の合図を待つ体制になった

 その間も魔物は笑いながら迫ってくる。速いけど、目で追えないほどじゃない

「3・2・1・今だ!」

 敵が僕の魔法の有効射程範囲に入ったときを見計らって、溜まり切った魔力を変化させて強力な魔法を作り上げた

 かつて死してすぐの魂をも蘇生させる力を持っていたと言われる古代魔法、それに近づくほどの力

 変化魔法はその制御すらも可能にしてくれた

「古史魔法、エレアラルファム!」

 古史魔法は僕が前に読んだ昔の魔法図鑑、その魔法を再現した

 今では使われなくなった強力な魔法の数々。古代魔法と違う点は、古代魔法ほどの魔力消費がなく、威力も古代魔法より低いという点だ

 この魔力消費量でまだ古代魔法の消費量に及ばないというのも凄いけど、威力は弱いとは言え申し分ないと思う

 空中に風が渦巻き、それがゆっくりと魔物に当たる

 魔物は危険視していないのか、避けもせずにその風をまともに食らった

 するとその当たった部分から風に包まれ、少しずつ風に覆われていく

 魔物はそこで気づいたようだ。最初に当たった部分が破砕されていることに

「なんと、あのような小規模でここまでの威力を出せるとは、流石ですリディエラ様」

 褒めてくれてありがとうテュネ。でも、魔力消費が多すぎて、僕は眠気に襲われていた

 体内魔力の回復のため強制的にスリープモードになるんだよね

「ゆっくりお休みくださいリディエラ様」

 テュネに抱きかかえられたのを確認して、僕は眠りについた

 これは後から聞いた話だけど、僕が眠った後あの魔物は風に侵食され続けて、体がどんどん削られて行って、最後には塵のようなものだけが残ったらしい

 そしてその魔物が消滅したとたん、雲はポンと弾けて消えてしまった

 異世界から来た神話級の魔物に僕は勝つことができたんだ

 目を覚ますとラキアさんがハァハァと鼻息荒くのぞき込んでいたので風魔法で吹っ飛ばす

 天井にぶつかって僕の寝ているベッドの真横に落ちてきたラキアさんの顔は、なぜか幸せそうだった

「もう、びっくりしたじゃない。新手の魔物かと思っちゃったでしょう」

 ラキアさんはすぐに立ち上がると僕に抱き着いた

「リディエラ様ー、ご無事でよかったですー!」

 涙を流してくれている辺り本当に心配してくれていたんだね

「リディエラ様、おはようございます」

「あ、テュネ、ごめんね。僕どれくらい寝てた?」

「一週間ほどですね」

「そんなに!?」

 驚いた。今までは一日眠ればすぐ回復で来てたのに一週間か、やっぱり僕の魔力が上がってきているのと、あの時使った魔法が強力すぎたことが関係しているんだね

 とりあえずみんなが無事でよかった。エンシュもすっかり元気になってるし

 あとラキアさんはいい加減離れてくれないかな

「リディエラ様、そう邪険にしないで上げてください。この一週間ラキアはずっとリディエラ様の看病をしていたのです。ほとんど眠りもせずにですよ?」

「そう、だったんだ。ありがとうラキアさん」

「いえ、私は当然のことをしたまでです。お役に立てなかったぶんそのくらいはさせてください」

 これはラキアさんに借りができてしまった

 彼女は看病できたのがご褒美ですと言っていたけど、僕は加護をあげることにした

 女性の守護者たるラキアさんにふさわしい加護をね

「ラキアさん、手を出してくれる?」

「も、もしや、婚約指輪ですか!? そ、それはまだ早いのでは!? いえ、私達出会ってから何度も愛を交わしましたものね! そうですよね、私がリディエラ様の旦那さんに! なんと幸せなことなのでしょうか! では覚悟も決まりましたのでいざ!」

 いやいざ!じゃなくてね・・・

「そうじゃないよ。加護をあげるから手を出してってことで」

「ハッ!も、申し訳ありません! 私早とちりを! しかしリディエラ様がいいというのならば、私はいつでもあなたのものになります。いえ、ならせてください!」

「あ、うん、ちょっと落ち着いて。じゃぁ、加護を」

 僕はラキアさんの手を握る

 剣士にしてはとても柔らかくて女性らしい綺麗な手だ。きっちりと手入れしているのが見受けられる

 その手から僕は自分の力を流し込んだ

 これはいつもやっている土地への加護とは違って、個人から個人へ受け渡される加護

 僕の与えた加護はグレートシールドと言って、自分から半径十メートル以内に強力な結界を張る加護

 戦闘中に発揮できて、一日の使用回数は三回までだけど、かなりの攻撃や魔法を防いでくれる

 きっとラキアさんなら役立ててくれるはずだ

「こ、このような素晴らしい加護を私のような者にありがとうございます! 必ずこの力で多くの人々を救って見せます!」

 こういうところだよ。僕がラキアさんを嫌いになれない理由

 本当に人々を守ることに関しては尊敬できる

 これからもラキアさんには頑張ってもらいたいね

 それはそうと、僕らはまだ全然温泉を回れていないのですよ

 体ももう大丈夫だから明日からまた温泉巡りに興じるとしよう!

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