竜人族の国14

 迷宮から出るとラキアさんに別れを告げて歩き出した

「いつかもっと精霊様にふさわしい騎士となって帰ってきます!」

 そう言って彼女は手を振る

 女性を見る目は怖いけど、人々を守る意思は強くて立派な騎士だと思った


 さて迷宮温泉も素晴らしかったけど、やっぱり天然温泉だよね

 そう思って地図を広げる

「ここなんていかがですか? 女性専用露天風呂! ラドン系の天然温泉で、疲れを癒す他に美肌と保湿、体内魔力の流れの改善などなど! ぜひとも!」

 あれ? ラキアさん、ここで別れたはずなのについて来てるんだけど

 まあいいけど、一緒にお風呂に入ると瞬きもせずにこちらを見て来るからなぁ

「じゃぁそこに行ってみよっか」

 次の温泉は決まった。露天風呂だから空を見上げれる作りになってるらしくて、今丁度日も暮れてきている

 きっと満点の星々が見れるはずだ

「そういえば、一昨日あたりから流星群が流れていますね。もしかしたら本日も見れるかもしれませんよ」

 テュネ、ナイス情報!

 この世界で流星を見れるなんて素晴らしい

 星に願いって言うけど、何かお願いしてみようかな?

 とりあえず今の願いは平和が続いてほしいくらいだね

 今原因不明の事件が各地で起きてるから、早く解決しないとだ

「リディエラ様、着きましたよ」

 考え事をしているといつの間にか露天風呂のある建物についていた

 辺りは薄暗くなっていて、空を見上げるとうっすら星が出始めている

「さぁ入りましょう! さあさあ!」

 ラキアさんに引っ張られながら僕らは建物に入った

「リディエラ様! 脱がせて差し上げましょうか!?」

「いえいいです、自分でやります」

 いやらしい手つきで迫ってくるラキアさんを押し返して僕は露天風呂前の脱衣所へ入った

 たくさんの女性がいる中、ラキアさんが入ると一気に取り囲まれていた

 そう言えばラキアさんって有名人だったね。まぁこれで僕も安心して服を脱げるよ。とはいっても僕らの服は霊衣だから出し入れ自由なんだけどね

 服をしまって裸になって露天風呂へ向かう

 ラキアさんは女性たちにもみくちゃにされてるからほっといても大丈夫でしょ

 テュネたちと水入らずで中に入り、体を清めてから湯船に浸かる

 ちょっと硫黄の臭いがするけど、そこまでは気にならないかな

 温度はちょうどよくて、魔力が洗練されていくのを感じる

 それにお肌、もといアストラルボディがつやつやに。これには四大精霊達も大喜びしている

「ちょっとちょっとお姉さんたち、もう流星が見えてますよ」

 僕はそう言って空を見上げると、ちょうど満点の星々が輝き、さらにたくさんの流れ星が流れていた

「流星群、綺麗です~。ここに落ちてこないですかね~」

「え、縁起でもないこと言わないでよ」

 こんなところに流星が落ちてきたら僕らが止めるしかないだろうけど、大きいと止められない可能性がある

 結界も万能じゃないからね

「あ、また流れましたよ!」

「みんなは何かお願いしたの?」

 そう聞くと四柱ともキョトンとした顔をする

「お願いですか? 神様にでしょうか?」

「え、えっとね、聞いた話なんだけどね、異世界では流れ星が流れきる前に三回願い事を唱えると叶うって信じられてるらしいんだ」

「それは面白い考えですね。では私達も」

 テュネもエンシュもアスラムもフーレンも空を仰ぎ見てブツブツと願い事をし始めた

 はたから見れば何かのあやしい宗教みたいに見える

「やった! できましたよ!」

「ふえ~、全然唱えれないです~」

 フーレン以外は成功したみたいだ。何を願ったのかは本人たちのみぞ知る。聞くのも野暮だからね

「り、リディエラ様、ようやく私も、入れます」

 揉まれまくってすでに満身創痍のラキアさんがようやくお風呂に入って来た

 それでもまだ女性たちがラキアさんと同じ湯船に浸かろうと見ている

 ただ僕達精霊がいるのに気が付いてうかつに入ってこれないみたいだ

 あんまり怖がっては欲しくないけど、今はその状況がありがたい。ゆっくり浸かれるからね

「いい湯でした」

 ぽかぽかにあったまってすっかりいい気分の僕たちは夜空を眺めつつ旅館へと戻った

 ラキアさんとは本当にここでお別れだね。と思っていたら、実はラキアさん、泊っている旅館が一緒だったんだよね

 まだしばらく僕らについて温泉を回ると言ってきかないので、仕方なく明日以降も一緒に温泉巡りをすることになった

 悪い人じゃないんだけどなぁ、悪い人じゃないんだけど度を過ぎた女性好きだからちょっと困った人なんだよね

 まぁ今のところ手は出してこないからまだ大丈夫だと思おう

 仮にも精霊の加護を受けてる人なんだから信頼はしてるんだけどね


 そして翌朝、再び問題が起こってしまった

 外に出ると雲がどす黒い

 その雲がどんどんと広がって行って、ついには大量の雷が落ち始めた

 ゆっくり休む暇がないけど、そうも言ってられない

 雷は確実に人々を撃ち抜こうとしているのが見える

 みんなを守るのが僕らの役目だ

 僕たちは急いで雲に向かって飛んだ

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