竜人族の国13

 いよいよ最後の第十階層へと降りてきた僕達。そこにはただ一体の魔導人形が立っていた

 一体だけとは言っても、風格が前階層までとは段違いだった

 地の奥底から湧き出るかのような重圧感とうっすら輝く鎧

 テュネの話だと、魔導人形の装備している鎧はファンタズマ級というかなり強力な鎧なんだとか

 やっぱりBランクが当たるような相手じゃないんだって

「あの魔導人形、騎士を模しているようですがこの魔力、まさか神聖騎士!?」

 何やら驚いているテュネに話を聞いてみると、神聖騎士というのは神様に選ばれた特別な人間が成れる騎士なんだそうで、人間がこれに選ばれると、神様を守るために不老長寿になるみたい

 まぁ目の前にいるのは魔導人形だから、そこまでの強さはないとのこと

 でも気を引き締めてかかった方だいいよね

「精霊様、動き出しました!」

 騎士の動きはそこまで速くないみたい。でも剣による攻撃は途轍もなかった

 一振りが音速を超えている上に、斬撃が飛んできたり、色々なエレメントを纏ったりと多彩

 さらに盾で攻撃を防ぐからこっちの攻撃が全く通らない

 魔法は歯牙にもかけられないし、物理的な攻撃は避けられるか盾で簡単に防がれてしまう

 六階層で手に入れたスキルは使う前に中断させられるし、連携すらも軽々と防がれちゃって打つ手なし

「あわわわわわ、どうしよう。合成魔法、はさっき防がれたし、僕の体術じゃ全然だろうし、全員で連携しても」

「リディエラ様! 悩んでいる暇があるなら攻撃です! 何も考えずにやる方がベストを尽くせるときだってあるんですよ!」

 迫ってくる騎士の剣を水の結界で防いだテュネの怒号で僕はハッとした

「う、うん、そうだよね!」

 何も考えずに、僕はとにかく魔力を練り上げて練り上げて、とにかく今自分の出来る最大限のことを

 僕が魔力を練っている間、皆が僕を守ってくれている

「エンドアルカナ、フィン!」

 エンドアルカナをさらに強力な魔法に昇華させたフィン。まさに終局の魔法だ

 二十一の大アルカナに加え、五十四の小アルカナが星々となって堕ちる

 七十五もの強力なメテオ魔法は相手をどこまでも追跡し、その全てが撃墜されるか相手に当たるまで止まることはない

「まだまだ!」

 メテオを剣や盾で撃墜している騎士を見てさらに追い打ちをかける

「リィルファスアルカナム! 出でよ空想の戦士たち!」

 今度はエンドアルカナを自分流に変質させて、大アルカナにちなんだ戦士たちを召喚した

 二十一人の空想戦士たちは僕の想像から生まれた。実態を得たことでそれぞれの特性を持った攻撃を繰り出していく

 メテオに追われながらその攻撃をかわすのは至難も至難だろうね

 騎士は最初のうちこそメテオの処理をしながらも戦士たちの攻撃を受け流していた

 でも多勢に無勢、もはや避けることもできなくなって、段々とメテオが体をかすめ、戦士たちの攻撃がその体を打ち据え、騎士は無残にもその身を砕かれて沈黙した

「はあはあ、こんな魔法、普段に使ってたら、死んでるよ」

 この魔法、魔力消費が半端じゃなくてやばい

 物の数秒で普段の僕の魔力が一気に無くなったよ。“最大限”のスキルで魔力が何倍にも引き上げられていたからこそできた芸当だよ

「リディエラ様、滅茶苦茶にすごかったですよ。さすが我が君、私もリディエラ様に見合う騎士として精進したいと思います!」

 ラキアさんが張り切ってる。ちょっと目が怖いけどそこはもう気にしないようにしよう

 魔導騎士を倒したことで温泉が湧き、それに浸かって体の疲れをすっかり癒していると何やら声が階層に響いた


 そして最後の階層

「よく我が試練の迷宮を突破したな! リディエラ、お前の実力、しかと見届けたぞ!」

 可愛い声。幼女のようなキャッキャとした声だ

 多分この迷宮を作った神様だと思うんだけど、どの神様なんだろう?

「ちょっと待て、そっちに行くぞ」

 あ、降臨なさるんですね

 温泉に浸かったままだと失礼だと思って上がろうとすると「そのままでよい」という声がした

 言われた通りそのまま浸かっていると、目の前に突如龍の翼や尻尾、角の生えた美少女が裸で飛び出してきた

「我も温泉に入るのだ! 一緒に入った方が楽しいではないか!」

 ちっちゃい、可愛い

 龍の神様なのかな?

「お、自己紹介がまだじゃったな。我はリュコ! 元神獣にして現龍の神だぞ! エッヘン、敬うがいい!」

 お、おお、失礼だけど、威厳はないかな

 でもすっごく可愛らしいなぁ

「さて、此度の試練、よくぞ遂げた。我は嬉しく思う。実はの、我らアマテラス様に仕えた元神獣たちがお前に対しての試練を言い遣っておる。まずは我の試練だったわけだが、お前は見事成し遂げた。魔法の変質、それはこれからのお前にとって大きな力となるだろう。じゃが練習は必要じゃ、しっかりと精進せいよ」

 ニッコリと満面の笑みを浮かべるリュコ様はすっごく可愛くて、抱き着きそうになるのをグッとこらえた

 それから他愛のない話をして、リュコ様は神界へ帰って行った

 この迷宮で僕は魔法を変質させるという力を手に入れることができたんだ

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