妖怪族の国73

 相当範囲を広げて、たくさんの人々に協力してもらって探しているけど、一向に見つからない

 全然、何も、痕跡すら見つからない

 どういうこと!? まるでこの世界から消えちゃったみたいにどこにもいないんだ

「あれから三週間たったけど何もないね。リディエラちゃん、何かわかった?」

「ん~、全然だよ。精霊達と毎日連絡を取り合ってるけど、皆何も見つけれなくて焦ってるみたい」

 別に僕が急かしているわけじゃないけど、みんな僕のためにとかなり必死に探してくれてるみたいだ

 これだけの数の精霊と人々が協力してくれていると言うのに、何一つ見つからないなんてどうにもおかしい

 そんなことを考えていた時、僕に一つの連絡が入った

 相手は一度だけあったことのある、植物の精霊ティアンヌだ

 アスラムの妹で、人が良すぎるような精霊

 一度会っただけでもその優しさがにじみ出てるのがよく分かる

「リディエラ様、お久しぶりです。ティアンヌです」

 テュネにも負けず劣らずの美しい声だね

「ティアンヌ、どうしたの? もしかして何か見つかった?」

「いえその、その件とは違うのですが、変な子供を保護してしまいまして。それが、その、新種、とでも言いましょうか。見たことがない種族なのです。妖怪族であることは間違いないのですが、青銀の毛並みをして、途轍もない力を秘めているようです」

 なんだろ、新種族? 妖怪族の新種族ってことかな?

 でもここ何万年も新種族なんて見つかっていないらしいし、もしかして異世界から来た種族かな?と思って聞いてみたけど、その子は明らかにこの世界の匂い?を纏っているらしい

 つまりこの世界の妖怪族なのに、一度も確認されていない種族だと言うことだ

「その子、今どんな様子?」

「えーっと、いっぱい果物を食べてます。それはもう食欲旺盛で。まぁここにはたくさんの果物が実っているのでなくなることはないでしょうが、ただ一番の問題が、彼女に全く記憶がないことなのです。名前すらも覚えていないようなのでとりあえず私が名前を付けておきました」

 その子の名前はティアンヌによってアオイちゃんと名付けられた

 健康状態は、見つかった時は栄養失調気味でやせ細っていたけど、今は果物を食べてかなり元気だそうだ

 とりあえず僕は今やれることもないから会いに行ってみることにした

 幸いティアンヌのいる場所はここからそんなに遠くない

 飛んで行けば一時間とかからずに着くかな

「ちょっと僕行ってくるね。新種の妖怪族が見つかったかもしれないって」

「「え!?」」

 タマモさんとクノエちゃんが綺麗にはもった

 事情を話して僕とアスラムで出かけることに

 久しぶりに妹に会っておきたかったらしい

「ティアンヌに会うのも数ヵ月ぶりです。あの子、人がいいから心配なんですよね」

 まぁ確かに心配になるのもわかるけどね

 僕とアスラムは空を飛んでいっきにティアンヌを目指す

「新しい種族、にしてもその子一人だけとはどういう事情なのでしょうか? 新種族なら親がいても・・・。それ以前に今までどこに隠れていたのでしょうか?」

 アスラムの疑問ももっともだけど、記憶をなくしちゃってるから聞きようがないな

 まぁとにかく会ってみるしかない

「ようこそリディエラ様、お姉ちゃん!」

 ティアンヌは僕とアスラムに抱き着いて挨拶をしてきた

 むぐぐ、すごい胸の圧迫感が

 羨ましい、じゃなくて、やっぱりすごい包容力だ

「ティア、それでその子はどこに?」

「こっちよお姉ちゃん」

 ティアンヌが案内したのは彼女が様々な森の中に築いている私室の一つ

 この森はフルーツフォレストと呼ばれるほどに果物が多い

 それ故にアオイちゃんもばっちり栄養が取れたってわけだ

「この子がアオイちゃんです」

 アオイちゃんはこっちを見向きもせず一心不乱に果物をかき込んでいる

 モグモグと必死に食べてる様子がすごく可愛い。それにちっちゃーい

 見た目は人間で言うところの五歳くらいかな? 足の上にのせて頭を撫でてあげたい

 母性本能をくすぐるような子だ

「ね、君がアオイちゃん?」

「むぐ? んむむむ、ゴクン。ひゃい! アオイだよ!」

 小っちゃな手をあげて返事してくれる! 可愛い!

「アオイちゃん、何か少しでも覚えてることないかな?」

 アオイちゃんは再び食べ始めてる

 でもちょっと考えてるみたいだ

「えっとねー、アオイは何も覚えてないよー。気づいたらねー、お姉ちゃんがねー、抱っこしてくれてたの」

 お姉ちゃんというのはティアンヌのことだろう

 でもやっぱり何も覚えてないのか

「アオイね、ここの果物大好きー。美味しいよー、お姉ちゃんも食べてみる?」

「あ、うん、ありがとう」

 いい子! この子すっごくいい子だよ!

 僕はアオイちゃんの頭をポンポンしてリンゴを一つもらった

 ひとまずこの子はティアンヌに懐いてるみたいだし、任せることにしてみた

 まぁこんなにいい子だから問題ないとは思うけど、親が探していないかは調べてもらうことにしよう

「じゃぁティアンヌ、よろしくね」

「はい、お任せください!」

 アスラムとティアンヌはしばらく話し込んでいるので僕はアオイちゃんと遊んだ

 結果どこをとってもいい子だった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る