妖怪族の国72

 妖怪族の国を無事、とは言えないけど、それなりに色々あって楽しく観光できた

 これから一旦妖狐族の里に戻ってタマモさんやクノエちゃんに報告しようと思ってる

 クノエちゃん、タマモさんに呼ばれて帰ってから連絡がなかったけど、どうしてるんだろう?

 まぁ行けば分かるかな

「リディエラ様、クノエのことが心配なのですね?」

「うん、クノエちゃんなら心配ないと思うけど、慌てて帰ったってことは何かあったのかも」

 とりあえず僕らは空を飛んで一気に妖狐族の里まで戻った

 転送装置もあるからそっちを使ってもよかったんだけど、ちょっとそれぞれの里の様子を上から見たかったんだ

 今までのことを思い出しながらこの国に加護を与えててよかったと思う

 美しい自然と妖怪族の共存は素晴らしいね

 一時間ほど飛んで妖狐族の国に到着すると、慌ただしく妖狐たちが走り回っているのが見えた

 その中にクノエちゃんの付き人、カンナさんが走っている

「カンナさん! どうしたんですか?」

 呼びかけてみるとカンナさんは泣きそうな顔でこっちに走って来た

「せ、精霊様! 大変な事態が起こりまして、今里はてんやわんやなのです。“凶妖獣海狼”が復活したのです」

「うみおおかみ?」

 カンナさんの説明によると、海狼というのは数千年前に妖狐族を大量に喰らった化け物で、喰らうごとにその妖力を増していくと言う恐ろしい妖魔だ

 足には大きな水かきと何でも切り裂く爪、強靭なあごは鉄の塊すら噛み砕いてしまうらしい

 さらにその大きさは推定十メートルとかなり大きくて、凶悪指定妖獣としてSランク相当か、それ以上の強さを誇っている

 あまりにも強すぎたため当時の妖狐族含め、たくさんの妖怪たちが協力してなんとか封印できたらしいけど、被害は甚大で、精霊や妖精の協力でようやく復興できたそうだ

 それが復活したとなると、とんでもないことになるじゃないか!

「もっと早く教えてくれればよかったのに」

「申し訳ありません。クノエ様に戻ってもらったのはそのためだったのですが、その時にはまだ確認がとれていなかったのです。まさか海狼が復活して逃げ出したなどと誰も思わなかったもので・・・。この前のウワバミ事件にしろ、このところ各地の凶悪妖獣、魔獣、魔物、妖魔の封印が立て続けに解けているようでして、何かが起こり始めているのかもしれません。タマモ陛下もそれを案じ、精霊様に報告をと思っていた矢先に来ていただけたので、内心ほっとしております」

 どうやら緊急事態だったみたい

 今はまだ海狼は復活したばかりで力が出ず、どこかに隠れているらしい

 それならまだ対策がとれるかもしれない

 精霊達を、招集しよう

「タマモさんのところへ案内してください。僕も精霊達を召びます」

 僕は様々な精霊を召んで里の周囲に配置した

 海狼は妖狐族をかなり恨んでいるらしいから、真っ先に襲われる危険がある

 何故恨んでいるのかは分からないんだけど、とにかくみんなを守らないと

 タマモさんの私室に案内されると、たくさんの書類の束に囲まれたタマモさんとクノエちゃんがひょっこりと顔を出した

 やっぱり親子だけあってそっくりだ

「リディエラちゃん! この前は大した挨拶もできずに戻ってごめんね」

「いいよいいよ、緊急事態なんだし。それでタマモさん、状況はどうですか?」

 タマモさんは眉をひそめて首を横に振る

「依然海狼の行方はつかめていません。追跡部隊に妖力の痕跡を辿らせましたが、わずかな痕跡は見つかったものの、本体を発見するには至りませんでした」

 今も継続して探しているみたいだけど、封印されていた社の周りに海狼の毛が落ちていたくらいで、その痕跡はぱったりと途絶えてしまったらしい

 一体どこに言ったんだろう? もしほかの国に言って暴れでもしたら大変なことになっちゃう

 僕はすぐに精霊達に指示を出して世界中の国々を監視してもらった

 え? タマモさんの部屋からどうやって指示を出したかって?

 僕と精霊たちは繋がってるからね

 だから召喚できるし、遠くからでも会話ができるんだ

「今精霊達に探してもらうよう指示を出しました。発見し次第その国の人達と協力して討伐します」

 当然様々な国にそのことを通達して協力を要請した

 ひとまずはこれで海狼が網にかかるのを待つしかない

「タマモさん、クノエちゃん、少し休んで。目の下のクマがすごいよ」

「しかし、海狼を討伐するまでは寝てなどいられません」

「うんうん、私もお母さまと一緒に頑張る」

 確かにそれはそうかもしれないけど、今無理をして肝心の海狼との戦いでフラフラだと死んでしまうかもしれない

 だから僕は無理やりに二人を休ませた


 それから数日が経過した

 それでも一向に海狼の足取りは掴めなかった


 とある場所

 そこに一人の獣人のような少女が裸で倒れていた

 毛の色は薄く光る青

 辺りに妖力が漂うことから妖犬族であると思われるが、どの種族なのかは分からない

 妖犬族には青い毛の者がいないからだ

 少女は痩せ、息も絶え絶えである

 そこに精霊が一柱通りかかる

「まぁ! なんてこと、まだ幼い少女がこんなに飢えて・・・。可哀そうに」

 彼女は植物の精霊ティアンヌ

 四大精霊に次ぐ実力の持ち主で、世界中の植物の管理をアスラムから任されていたアスラムの妹である

「さぁ、おいで、私があなたを保護するわ」

 弱弱しく呼吸をする少女を抱え、ティアンヌはその場を去った

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