妖怪族の国71

 目が覚めるとシオリさんが僕の顔をのぞき込んでいた

「目が覚めたのですねリディエラ様! ああなんと可愛らしい寝顔なのでしょうか。永遠に見ていられますよ。それにしてもアマテラス様に仕える神獣様と戦えるなんて光栄の極みでしたよ。でも私達はやはり相性がいいみたいですね。体も」

「はえ?」

 もしかしてシオリさん、僕に何かを!?と思ったけどするわけないか。考えすぎだね

「わたくしの膝枕、リディエラ様の頭にぴったりでしょう? だからわたくしを枕として使っていただいても良いのですよ? わたくしこれ以上の幸せはありません。 ぜひぜひ!」

 それは遠慮しておくよ

 確かにシオリさんの膝枕は僕と相性がいい(これが体もって言ってた理由)んだけど、そんなことのためだけにシオリさんに迷惑はかけれない

「わたくしはそれでいいですのに」

「シオリさんにはこの里を守る大事な役目があるでしょう?」

「そう、ですね。わたくし精霊様に恥じないようにもっとこの里を発展させて民を喜ばせたいと思います。楽しいのが一番ですから!」

 この里ならきっとどんどん発展していくと思う

 ただ問題が一つある

 長老たちが新しい風を入れるのを嫌がっている

 どうにか彼らにこの改革のいい面を受け入れてもらうことができれば

「ねぇ、長老たちに会わせてくれない?」

「え? おじいちゃんたちにですか?」

 渋っている長老たち、そのリーダー格なのがシオリさんのおじいちゃんだった

 若いころは腕っぷしでのし上がっていき、妖怪族の国でも一二を争うような剛力で名をはせていたらしい

 古くからのしきたりを守り、本来なら妖怪族間での同盟も反対していたそうだ

 “我らはその腕だけでのし上がるべきだ。何が国を作るだ! 俺はそんな国に属す気はない。俺たち妖蜘蛛族は離反させてもらう”

 そう言ってタマモさんの前の陛下、クシノ陛下に反旗を翻したらしい

 ただ相手が悪く、クシノさんによってその反乱は止められたらしいんだけど、以来いまだにこの国に属していることが気に食わないらしい

「おじいちゃんに会うのは構いませんけど、あの人頑固だから」

「ま、会うだけ会わせてよ。悪いようにはしないから」

 迷宮を出るとテュネたちと合流してシオリさんのおじいちゃんの元へ向かった

 里の一番奥、さびれたと言ってもいいような場所にシオリさんのおじいちゃん、そしてクシノさんに反乱した長老たちがいるらしい

 シオリさんは一緒に住もうと言ったらしいけど、変わりゆく里を見たくないとここに引きこもったんだ

「ここです。あの、本当に大丈夫ですか? おじいちゃんはかなり頑固で気難しくて怒りっぽくて剥げてて口が臭い人ですよ?」

 そ、そこまで言わなくても

 とにかく会ってみないと人柄は分からないからね

「おじいちゃん、精霊様がお会いしたいそうですよ」

 扉を叩いて開けると、こちらを一斉にギロリと睨む十人ほどの人影が見えた

 こんな暗いとこで何してんだろう

「精霊様? こんな子供がか?」

「おじいちゃん! 失礼ですよ! こちらは精霊の王女様なんですから」

 シオリさんのその言葉に長老たちは一気に目の色が変わった

「なななななんでこんなところに王女様が!? し、シオリちゃん、どういうことなんだい!」

 長老の一人、凛々しい顔のおばあちゃんが慌てふためいて僕に座布団とお茶を用意してくれた

「いや、リディエラ様が会いたいって言うから」

「どうも、僕、リディエラと言います。あの、里のこれからについてお話したいのですが」

「あ、ああ、はい、どうぞ座ってください。何のお構いもできませんが、平にご容赦のほどを」

「そんなかしこまらないで下さい。別に取って喰うわけじゃないんですから」

 長老たちはすっかり委縮してるけど、僕はなるべく怖がらせないように優しく話しかけた

 すると彼らも段々と心を開いてくれたようで、自分たちの言い分を語ってくれた

「我々は我々だけでも十分やれているのです。今からでも同盟から抜け、我々だけでやっていくべきなのです。タマモ陛下は確かに我らをも気にかけて下さった。だが、我らの伝統やしきたりは今はもう若い者達にとって疎ましい存在になってきているのです。彼らからすれば確かに古臭く、陰気なものなのかもしれない。ですがそれこそが我々の・・・」

 相当溜まっていたのか、シオリさんにも負けず劣らずシオリさんのおじいちゃんは話し続けた

 そこから日が暮れるまで僕は真剣に話を聞き続ける

「確かに、伝統やしきたりも大切です」

「おお、やはり精霊様は分かってくださる」

「ですが、それを押し付けていませんでしたか? やらなくてはいけない、改革なんてくだらないと」

 僕の言葉におじいさんはぎょっとする

「押さえつけたら反発する。それはあなたたちもわかっているでしょう? だって、自分たちがやって来たんですから」

 長老たちからは“確かに”という声も聞こえてきた

「ですが、そうでもしなければ若者は誰も見向きもしないのです」

「じゃぁ若者に合わせてやってみたらどうですか? しきたりとか内容は変えずに、若者が興味をひくように工夫するんです」

 シオリさんのおじいちゃんは眼を見開いた

「工夫、ですか? 考えもしませんでした。これこそが我らの芯だと、子供達に押し付けていた。我々は、愚かなのかもしれません」

 しょげるおじいさんの肩にシオリさんが手を添えた

「大丈夫よおじいちゃん。私が一緒に考えるから。おじいちゃんには孫がいっぱいいるんだから、もっと頼ってよ」

「シオリ、お前は本当に優しい子だ。分かった。一緒に里をより良く発展させる道を考えよう」

 おじいさんはシオリさんのしようとしていることを理解してくれたみたいだ

 僕は長老たちに感謝されながら、シオリさんに別れを告げて妖蜘蛛族の里を後にした

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