妖怪族の国63

 空の宝箱、何も入ってなかったけど底に何か書かれていた

 “この空箱を持って行ってくだサーイ”

 なんだこれ

 よく分からないけど持っていけばいいのかな?

「それでいいと思うんだよ。でも何で空箱なんか?」

 とりあえず出口が開いたからそこから外に出る

 明るい陽射しに少し目がくらんだけど、その先にはテュネたちが待っていた

「お疲れ様です」

 テュネはそう言って冷たい紅茶をくれた。いい香りだね

「あ、王女様、宝箱が」

 タカラちゃんの指摘で宝箱が光っているのに気が付いた

 床において開けてみると中からは木の葉が一枚出て来た

「これ、何だろう」

 触ってみると金属質な手触りで、それなのに葉っぱと同じくらいの重さ

 つついたり仰いだり透かして見たりと色々やってみたけど、何も起こらない

「タカラちゃん、これなんだかわかる?」

「見せて欲しいんだよ」

 葉っぱをタカラちゃんに渡すとクンクンと嗅いでいる。鼻をひくひくさせてるのがやっぱりかわいい

「むむむ、この臭い、神暦しんれきの木と同じ香りがするんだよ」

「神暦の木?」

「神暦の木とは、この世界が始まった時に最初に芽吹いたと言われる、世界樹に似た木です。まあ世界樹ほど大きくはないですが、世界樹と違うのはこの妖怪族の里に唯一一本を残してその全てが死に絶えたことですね」

 世界樹はエルフの国で大切に守られている巨大な樹なんだけど、実は世界各地、自然豊かな場所に必ず一本そびえ立っている

 というより世界樹がある場所が自然豊かになる感じかな

 それとは違って神暦の木は世界が始まった時に生まれ、そこからさまざまな植物が生まれたと言われている

 詳しくは神様しか知らないんだけど、そこからは神力が溢れて、周囲には魔物が寄ってこないそうだ

 唯一残っている神暦の木はこの妖怪族の国の中心に立っている

 大きさは十二メートルほどで、太さは人間十人が手を広げて囲えるくらい

 古来から神聖な御神木としてあがめられてるみたいだね

「確かに神暦の木の葉と形も香りも似ていますが、これはまったくの別物と思われます。通常の神暦の葉はこのように金属質ではないですね。私にもこれが何なのかわかりかねます」

 そっか、テュネにも分からないのか

「その葉っぱはきっと王女様が持っていた方がいいんだよ。多分王女様のためのものなんだよ」

 タカラちゃんがそう言うのなら、僕が持っていた方がいいのかも

「うん、じゃぁ僕持っておくよ。代わりにタカラちゃんにはこれあげるね」

 僕はテュネに袋を出してもらうとそこから短杖を取り出した

 これは魔法の発動を早くしてくれる上に消費魔力を周りから補ってくれるから、自分の込める魔力が少なくて済むと言う優れもの

 名前はたしか

「エルダータクトだよ」

 実はエルフの国でも色々と買ってて、その中にこのエルダータクトもあった

 精霊様にはお世話になっているからと、半ば強引に持たされたような形なんだけど、タカラちゃんみたいな将来有望な魔導士の資質を秘めてる子に使ってもらえるなら、きっと作ってくれたエルフも喜んでくれると思う

「いいんですかよ!? 大切にするんだよ!」

「それと、テュネ。時々タカラちゃんに魔法を教えて欲しいんだ」

「魔法を、ですか? 妖術ではなく?」

 妖術は専門外のテュネに妖術の修行何て頼まないよ

「うん、タカラちゃん、凄い魔法の才能を持ってるんだ」

 僕がタカラちゃんに魔法をテュネに見せてあげて欲しいと言うと、張り切ってやってくれた

「これはなんとも。こんなところに逸材がいるとは思いませんでした」

 タカラちゃんが放ったのは独自の組成からの全く新しい魔法

 テュネはこれを古代の魔法だと驚いた

「この魔法は既に今は無くなった魔法です。タカラちゃんはどうやら古代魔法を使えた者達の血筋、先祖返りなのかもしれません」

 先祖返りは時折生まれる特異点で、遥か昔の強大な力を持っていた種族たちの力を持った子孫がごくまれに生まれることがある

 それがタカラちゃんだったということだ

「僕、そんなすごかったんだよ? 嬉しいんだよ!」

「恐らくですが、かつての妖怪族、その中の今は滅んでしまった種族、天狸てんり族。 タカラちゃんはその先祖返りと言ったところですね」

 天狸族はもういない

 かつての強力な種族たちは、大昔にこの地に降り立った邪神によってその全てが消え去っている

 でもその血はたまたま他の種族と交わった人々がいたことで途絶えることなく、先祖返りという形で再び現れることとなった

 つまりタカラちゃんは天狸族だったというわけだ

「先祖返りは私も今まで数例しか確認できていません。タカラちゃんはそれほどに珍しいのです」

「ほわわ、僕、なんだか怖いんだよ。みんなに怖がられないのか、心配なんだよ」

 タカラちゃんは確かにみんなと違うけど

「タカラを怖がる人なんているわけないじゃないか」

 そこには族長のキチヨシさんが立っていた

 ニコニコとした笑顔が周りをほんわかさせてくれる

「兄ちゃん!」

 タカラちゃんはキチヨシさんに抱き着く

「お前はみんなのアイドルなんだから、誰も怖がったりしないよ。兄ちゃんが保証する」

 キチヨシさんがタカラちゃんの頭をヨシヨシする。それだけでタカラちゃんは安心したみたいだ

「それにしてもうちの妹が先祖返りだったとは、これは一応タマモ陛下に報告しておかないとですね」

「報告? 僕、どうなるの?」

「あ、心配ないない。うちの妹はすごいだろって自慢するだけだから」

 本当にそうつもりなのがありありと顔に出てる。まぁお手柔らかにね

 タカラちゃんのすごいところが分かり、妖狸族の里を後にした

 最後にもう一度タカラちゃんを抱っこさせてもらったよ。やっぱりフワフワモフモフで柔らかくて、良い匂い

 変態じゃないよ

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