妖怪族の国62
第五階層への階段を降りると大広間になっていて、その中央に宝箱がぽつんと置かれていた
これはあれだね。いわゆるボス部屋ってやつかな?
さっきの妖狸忍者マスターが落とした鍵を使うんだろう。ってことはこの迷宮には鍵の守護者と宝箱の守護者がいるってことか
意を決して前に進む僕とタカラちゃん
「王女様、強い気配がビンビンとするんだよ。きっとさっきよりも強い魔物がいるんだよ」
「うん、気を引き締めて行こう」
宝箱の前まで来ると、案の定この部屋に仕掛けられた装置が作動した
宝箱は周囲の床ごとくるりと回転して地面に隠れてしまった
やや後に轟音が響いておくの大きな扉から大きな六本の尾を持つ狸が現れる
「あれは
タカラちゃんの説明によると、この幻六狸は幻術を使っていつの間にか忍び寄り、その鋭い爪や牙で相手の急所を突いてくるらしい
また、尻尾が六本あり、それぞれが魔獣となって襲って来るそうだ
「早速狙ってるんだよ。王女様、気を付けるんだよ」
「何言ってるのタカラちゃん! そこには何もいないよ!」
どうやらタカラちゃんは既に相手の術中のようで、あらぬ方向を向いてそこに攻撃態勢を取っている
しかし幻六狸はまるでタカラちゃんの方を見ていない。僕ばかりをじっと見つめ、ときおり恥ずかしそうに身もだえしていた
幻六狸の行動はよく分からないけど、ひとまずタカラちゃんにかかった幻術を解いた
「パチッと来たんだよ!」
いまだ襲ってこない幻六狸を見ながらゆっくりと後ろに下がる
僕は魔法を練って撃ってみた
「フレイファル!」
鳥の形をした燃え盛る炎をぶつける。直撃だ
中位魔法だから少しは威力がある。 直撃すれば火傷くらいでは済まないはずだ
でも上がった煙が引き、幻六狸の様子を見るとまるで無傷
涼しい顔をしている。ていうか僕をじっと見つめてとにかく顔を赤らめて恥ずかしがっている
これはちょっとかわいいかもしれない
「何で攻撃してこないんだよ? この妖魔獣は結構攻撃的だったはずなんだよ?」
確かにこれまでの魔物や魔獣はこちらに敵意を向けて、僕らを見るや否やすぐに襲ってきた
それなのに幻六狸は未だに攻撃するそぶりどころか、敵意すら向けてこない
それどころか幻六狸からは僕に対する好意が感じられるんだよね
しばらく無言の時間が続いたけど、意を決したのか幻六狸の方が先に動いた
幻六狸は妖術で変化する。その体を白い煙が包み込んだ
「ゲホゲホ、煙たいんだよ」
タカラちゃんは煙を少し吸い込んでむせている
「すいません、煙かったですか?」
煙が晴れてそこにはふさふさの丸い尻尾を六本携えた、少しぽっちゃりした可愛らしい垂れ目の女性が立っていた
「え? 幻六狸が人型に化けるなんて聞いたことないんだよ」
「そりゃそうですよ~。私は幻六狸じゃないですもの」
どういうことなのか話を聞いてみると、彼女は今回ここの守護を任された
六尾狸はこの世界にはいない妖怪族で、タカラちゃんが知らないのも無理はなかった
迷宮は異世界と通じているって確か聞いたような。それでフウカさんがここの守護者になったのかな?
「いやね、私の世界には貴方みたいに強い精霊はいないのよね。しかも、こ~んなに可愛い子もいないのよ」
フウカさんは僕を抱き上げると頬ずりしてきた。大きな胸が僕を包み込んでいる
「ふへぇ、なんて良い匂い。それに柔らか~い。ねーねーお嬢ちゃん、私の世界に来る気はな~い?」
僕をガッチリと抱きしめて放さないフウカさんはそう言った
でも僕はこの世界を守る使命がある。それは聞けない相談だった
「そっかぁ、まぁそのうちってことかな?」
「それは、どういうこと」
あれ? 僕が抱きかかえられたまま振り向くとフウカさんは消えていた
「私、もとの世界に戻るね~。守護者の役目、果たしてない気がするけど、まぁいっかぁ。またいつか会おうねリディエラちゃん」
声だけが聞こえる。フウカさんの金木犀きんもくせいのような香りだけがそこには残っていた
「何だったんだろうね今の」
「分からないんだよ。でも、この世界にはたくさんの異世界から来た人がいるんだよ。きっとあの人もいった人達と同じような人だったんだよ。迷宮と次元扉、異世界門、転移ゲート。本で読んだ知識だけど、いろんな方法で世界どうしは繋がっているんだよ」
うー、なんだか頭が混乱してきたけど、要は異世界とこの世界は繋がってて、そこから人が行ったり来たりってことかな?
じゃぁ、この世界から別世界へ行った人もいるってこと?
分からないけどもしそうだとしたら、異世界旅行もありじゃない!?
そう思うとワクワクしてきた。もしそのことを知っている人がいたら詳しく話を聞いてみよっと
あ、母さんに聞けばいいんだ。そうだそうしよう!
僕は次に帰った時にそのことを聞いてみることにして、鍵を使って宝箱を開けた
・・・
空箱でした
はい、狸の宝箱は空箱です
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