妖怪族の国61

 第五階層への階段へ向かっていると突然辺りが暗くなった

 何事かと思って見渡すとタカラちゃんが叫んだ

「王女様! 上なんだよ!」

 見上げるととんでもなく大きな信楽焼の狸が落ちてきた

「な、なななな、なにこれ! おっきいね~」

 混乱しすぎて変なこと言っちゃった

「王女様!感心してる場合じゃないんだよ! 避けないと潰されちゃ、きゃあああ!」

 慌ててタカラちゃんを抱えると大きく飛びのいてその信楽焼狸を避けた

「ふぅ、危なかった。ありがとうタカラちゃん」

 ふと傍らのタカラちゃんを見ると、目を回して泡を吹いていた

「ご、ごめんね」

 タカラちゃんをそっと寝かせると僕は再び信楽焼狸を見た

 それはゆっくりとこちらを向くとニタリと不気味に笑ってパーンと弾けて真っ白な煙が立ちあがった

「風船!? いや、何かいる」

 煙の中に人影が見える

 その煙が引いて行くとそこには忍び装束を着た狸が二足歩行で立っていた

「パチクリッ! ちょっと気絶してたんだよ。王女様、あれは妖狸忍者マスターという妖魔獣なんだよ。妖術と忍術を使う知能が高い魔物なんだよ」

 なるほど、そう言えば三階層で出た魔物も妖狸忍者だった。あれの親玉みたいなものかな?

「結構強いんだよ。でも僕と王女様ならきっと倒せるんだよ」

 すっかり自信がつき、魔法も使いこなせるようになったタカラちゃんはすでに妖力と魔力を練り始めている

 魔法の組成術式を独自に組み上げてそれに妖力を練り込んでいるみたいだ

「妖魔術、大狸の奏焔!」

 先手必勝とばかりに忍者狸にむけて巨大な炎の塊を投げつける

 でもその炎を相殺するように水遁の忍術で受け止めている。なんて素早さなんだろう

「妖術ポンッ! 大岩剛力丸!」

 タカラちゃんは妖術で身の丈三メートルはありそうな、岩の刀のようなものを出現させた。 驚くべきはその大きさを軽々と持つタカラちゃんの腕力だ

「妖狸抜刀術、巌窟大回転!」

 腰に刀をすげて抜刀するように回転しながら振りぬく

 早すぎてその太刀筋は普通の人には見えないと思う

 それなのに忍者狸は軽く体をひねりながら飛んで避け、そこを狙って斬りつけて来る追撃を少し足で逸らして躱した

「ぐぬぬ、なかなか素早いんだよ」

「援護するよ! 合成魔法、トライアロー!」

 燃え盛る炎、揺蕩う流水、激動する雷光の三属性を合成した光の矢を連続して射出していく

 当然のように忍者狸はそれを避けて走り抜けるけど、タカラちゃんが逃げた先を塞ぐように大岩刀を振りぬいた

「手応えありだよ!」

 喜ぶタカラちゃんの刀の先を見るとそこには藁で出来た人型が転がっているだけだった

 どうやら変わり身の術で逃げたらしい

「危ないんだよ!」

 油断していると今度は天井から岩礫が襲ってきた

 僕は冷静に魔法で結界を張ると岩礫を防ぎ切ってすぐに反撃に転じる

「合成魔法、ウオラエレキラ!」

 周辺に水の網を張り巡らせて忍者狸の足を捕捉。そこに電気ショックが走る

 バチバチと激しい音が響いて痺れた忍者狸が落ちて来る

「よし! タカラちゃん!」

「はい! とどめなんだよ! 妖狸剣術奥義、古手刺猛ふるてしも!」

 一撃必殺の突きが忍者狸を襲う

 慌てた忍者狸は逃げようともがくが、痺れによってうまく動けないでいた

 タカラちゃんの突きが突き刺さり、土煙をあげる

 まるで隕石が落ちたかのような衝撃とクレーター

 これは忍者狸も倒せたに違いない

 ところがそのクレーターにあったのは忍び装束の一部とやつの腕だけだった

「いないんだよ! 一体どこ」

 タカラちゃんがキョロキョロと周囲を見渡しているとき突然タカラちゃんが地面に引きずり込まれた

「ぴゃぇ!」

 変な声をあげてたからちゃんは首元まで地面にめり込んでいる

「動けないんだよぉ・・・」

 そこにモグラのように地面が盛り上がりながらタカラちゃんに何かが近づいてくる。十中八九忍者狸だ。タカラちゃんが危ない!

 僕は地面に手をついた

「アースコントロール!」

 これはアスラム直伝の大地を操作する最上位魔法

 地面を吹き飛ばしてタカラちゃんを空中に吹き上げた

「いよっと!」

 空中を飛んで行くタカラちゃんをキャッチして地面に着地

「ありがとうなんだよ王女様」

「強いね、あいつ」

 ニタニタと笑う忍者狸。さっきのタカラちゃんの攻撃で左手を失ったもののまだまだ余裕そうだ

「よし、一気に二人で決めよう。左手がないってことはバランスが悪くなってるはず。バランスを崩してそこを突こう」

「はいなんだよ!」

 今度はタカラちゃんにつぶてを飛ばしてもらう

 妖術と魔法で脅威の連射力を見せるタカラちゃん。まるでガトリングのようだ

 逃げ惑う忍者狸は焦っているように見える

 忍術で応戦してくるけど、明らかに先ほどから精度が落ちていた

「合成魔法、ウィルガファルバス!」

 風によって大きく威力を増した炎の槍

 それを七本召喚して操作し、忍者狸にぶつけた

「今度こそ! 捕らえたぞ!」

 体勢を崩して滑った忍者狸に炎の槍が降り注ぐ

「ギュィイイイ!!」

 忍者狸の悲鳴が聞こえる。どうやら直撃したみたいだ

 黒焦げになった忍者狸が消えていく。その跡に鍵が一本転がっていた

「やったんだよ! 僕達であんなに強い魔物をたおせたんだよ!」

 実はこの妖狸忍者マスターという魔物、強い個体だとSランク相当だったみたい

 僕がこれだけ苦戦するってことはSランクでも上位の方、災害級だったのかもしれない

 でもとにかく僕らは勝ったんだ

 その場でゆっくり休んでから五階層へと降りて行った

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