妖怪族の国43

 大喜びのマンゲツちゃんにまた会おうと告げて次に向かうは九十九族の里だ

 この里にいるのは付喪神と呼ばれる物に魂が宿って命を得た妖怪族で、有名なのはガラクタ祭という、いかにいい音を自分の体で奏でられるかを競う祭りだ

 優勝者には族長のセトダイショウさんから商品も出るらしい

 もちろん外部の人達も参加可能で、音楽を奏でてもいい。ただ、九十九族の奏でる音はちゃんと音楽になっている上にとてつもなく美しい旋律なんだそうだ

 果たしてテュネの歌とどちらがすごいのか、一聞いちぶんの価値ありだね

「ここからが九十九族の里のようですね。なるほど確かに付喪神が見えます。彼らは私達と近しい種族です。リディエラ様も感じるでしょう?」

「あ、ほんとだ。僕たちと同じような気配だね。自然と共にあるような、ゆったりとした気配」

 テュネの話だと付喪神は物を大切にする人の気持ちが生んだもので、それは精神生命体として物に宿るのだ

 それはつまり体を持たない僕たちと同じで、彼ら付喪神も実はその体を離れて行動することができる。ただあまり遠くまで離れることはできないみたいで、そこは僕らと違うかな

 彼らはあくまで本体はその大切にされた道具なのだ

「ハロっほー! 拙者案内を務めさせていただきまする。セトダイショウが娘、セトカにござる!」

 突然僕に抱き着いて挨拶をぶちかましてきたのはセトダイショウさんの娘さんで、セトカちゃん

 小さな体にお鍋を被り、食器の鎧を着た可愛らしい子だ。ただ元気すぎて今のタックルは痛かったよ。アハハ

「これ! 突撃はやめよと申したであろうが!」

 ゴチンと鍋を被った頭を叩かれるセトカちゃん

 叩いたのはセトダイショウさんだ

「精霊様! 申し訳ないでござる!」

「いえ、可愛いから大丈夫ですよ」

 ちょっと痛かったけど元気なセトカちゃんは可愛かったから別にいいのだ

「ありがたいお言葉、胸に染み入りまする。さぁセトカ、精霊様の寛大な心に感謝してきちんと案内するのだぞ!」

「わ、わかってるよ父ちゃん~」

 この二人が本当はござる口調じゃないことは知ってたけど、お父さんのことを父ちゃんって呼んでるセトカちゃんが可愛すぎてもうね・・・

「では拙者がこの国を案内するでござるよ! 最後にはお祭りもあるので楽しんで欲しいでござる!」

 丁度この時期が祭の時期で、それに合わせて僕達の日程も組まれてたらしい

 日程は確かクノエちゃんがたてたって言ってたな

 クノエちゃんは本当によくできた子です

「まずは陶芸体験をしていただくでござるよ。ここでは瀬戸物という陶器を作れるでござる。異世界の技術で素晴らしい陶器になるのでござるよ。しかもここの陶器は付喪神化しやすいのでござる。大切に使えば一年ほどで付喪神になるのでござる!」

 ふむふむ、でも付喪神化したその陶器たちはどうなるんだろう? もしかして持ち主だった人の所を離れてここに帰ってきちゃうのかな?

「そこは大丈夫でござる。彼らは持ち主が天寿を全うするまで友達としてそばに寄りそうでござる。中にはそこを離れたくなくなる付喪神もいるのですよ」

 ふむふむ、色々聞いてみると付喪神は様々な場所で生まれているらしい。そしてここに来るか持ち主とのかけがえのない時間を大切にするかは彼らの判断に任されているらしい

 当然それは持ち主も了承しているのだとか

 まぁ大抵の付喪神は持ち主に大切にされて生まれるから持ち主のことが大好きで、持ち主が死ぬまでは離れないみたいだね

「ついたでござるよ。ここがその陶芸教室ござる。先生はかの有名なビゼンさんでござる」

 ビゼンさんと言うのは九十九族の陶芸家で、その作品は世界中にファンがいるほどだ

 特に釉薬ゆうやくという、陶器に色や模様を付ける薬品にかけては右に出る者がいないほどで、弟子の数も数百人を超えているそうだ

 それだけ聞くともしかしたら頑固で厳しい人なのかもって思うけど、気のいいおじいちゃんらしい

「おお、セトカちゃんか。そちらの方が精霊様だね?」

「そうでござる! 先生、今日はよろしくお願いするでござるよ!」

「はいはい、では、まずは土をこねるところから始めてもらおうかねぇ」

 先生のビゼンさんは大昔この世界に流れ着いた備前焼の壺が付喪神化した人らしい

 持ち主は相当大切にしていたらしいんだけど、その人が亡くなった時に一緒に埋められていたはずが、気づいたらこの世界に来ていたのだとか。そしてこの世界ですぐに付喪神化

 きっと持ち主の愛情が飛び切りに強かったんだろうね

「これは裏山で取れた土なんだけどね、いい土だよこれは。わしが作られた時の土にも引けを取らないよ」

 まずビゼンさんによる土の説明が三十分ほど続き、そこから土のこね方に関するレクチャーが三十分、さらに雑学が一時間入って、計二時間土に触れなかった

 おかげで目の前にあった土は乾燥してひび割れてしまった

「すまないねぇ、つい夢中で話してしまって。わしの悪い癖じゃ」

 いかんいかんといった具合で自分の頭をペチペチと叩くビゼンさんはおじいちゃん特有のかわいらしさがあってちょっときゅんとしてしまった

 そのあと新しい土をもらい、それをこねてこねて、陶芸に適した柔らかさに変えていく

「ふむ、いい出来ですな。さすがは土の四大精霊様じゃ」

 アスラムの土、なんだか輝いてる。僕も負けてられないね

「ほほぉ、いいですぞリディエラ様、素晴らしいこね具合ですじゃ」

 やった、僕も褒められたよ!

 そのあとはビゼンさんに教えてもらいながらろくろを回して、僕は皿、テュネとアスラムは壺、クノエちゃんはトックリ、フーレンとエンシュは湯呑を形作った

 これが乾かされ、焼かれて、数週間後には出来上がるそうだ

 完成品は転移装置で母さんのところに送ってくれるらしい

 母さんへのいいお土産ができたな

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