白黒 鬼姉妹の冒険9

 次の気配は公園から南に少し行った場所にある崖

 見上げるとはるか上の方に木々の枝葉が伸びているのが見えた

 そこまで上がろうと崖に手をかけた瞬間に大きな岩が転がり落ちてきた

「うわ、危ないっすね!」

 岩はアカネの横をすれすれで落ちた

 当たっていれば死んでいたかもしれない

「おやおや、はずしてしまいましたな。ほっほ、私も耄碌したものですな」

 崖の上からコヅチ先生の声がする

 アカネたち、あんな先生に習ってたのね・・・

 確かに逃げ出したくなるのもわかる

「ここまで登ってくるですな。私にタッチできれば終わりですな」

 コヅチ先生の手にはすでに巨大な岩が持たれている

 それを振りかぶって、投げてきた

「ひぃ!」

 今度はキキの真横に落ちた

 なるほど、確かにぶっ飛んだ先生みたい

 でも、よけながら崖を登るだけなら

「行くよみんな!」

 私は妖力を手足にこめて崖を登りやすくした

 これによって岩肌に手足が張り付くようになる

 登り始めるとさっそく岩が転がり落ちて来る

 さっきみたいに振りかぶって投げて来ないあたりコヅチ先生も手加減してるのかな?

 岩を避けながらどんどん上がって、半分近くまで登ると、今度は丸太や木槌が落ちてきた

 木槌は先生のお手製なのか、堕ちてきた一つを掴んで見てみると、コヅチと名前が彫ってあった

 転がってくる分にはいくらでもよけようがあるからクミズ先生よりも安心かも

 と、思ってたんだけど、三分の二ほど登ったところで壮絶な攻撃が始まったのです

「これなら楽勝っすよ! だてにあのおっさんの攻撃受けてないっす!」

 私はアカネのこの発言のせいだと思ってるんだよね

 グシャという嫌な音がした

 アカネが肩に木槌の直撃を受けた

 落ちてきていた木槌の軌道が急に変わって直角に曲がり、アカネに直撃した

「ぐぅ、痛いっす、すいませんハクラ様、ちょっと、自分リタイアっす」

 アカネは落ちていき、地面に激突したけど、赤鬼特有の頑丈さがあるからこのくらいの高さなら落ちても大丈夫

 むしろ地面の方が抉れてるよ

 アカネはそのままミズキ先生の治療を受けている

「ほっほ、まず赤いのがリタイアですな。次は誰ですかな?」

 先生はまだ妖力を纏っているだけで妖術は使っていない

 つまりこれでもかなり手加減してるってことなんだよね

「私が結界を張ります! 姫様たちは私の後ろからついてきてください!」

 キキが王守盾によって私たちを先生の攻撃から守ってくれる

 この能力、本当に全方位の攻撃を防いでくれる

「ほほぉ、やりますな。では少し力を開放しますかな」

 先生がついに妖術を解放した

「絶技」

 先生は崖を駆け下りてきた

 その手には木製の刀と大き目の木槌が握られている

 そういえば、ここの生徒の子供に聞いたことがある

 コヅチ先生は長刀と鉄槌を使った戦闘を得意としてて、鉄槌で地面を揺らして相手の体制を崩したあとに刀で相手を斬るんだとか

 その生徒ちゃんたちが遠足で山に行ったとき、Aランクの魔物が出たのをコヅチ先生が一瞬で切り伏せたんだって

 Aランクを一撃・・・。つまりコヅチ先生も精霊様たちと同じくらい強いってことなのかな?

 おっと、そんなこと考えてる暇はない

 先生は目前まで迫っていた

「ほい」

 先生の木槌が崖を穿つと、崖が縦に裂けた

「ひっ、崖が」

 それによってキキの結界が解けてしまった

 そこを先生の木刀が思いっきり振りぬかれ、キキの脇腹にあたる

 そのインパクトの瞬間キキはとっさに両腕で防御したみたいだけど、両腕の骨が砕ける音と、キキのあばらが粉砕される音が聞こえてキキは落ちていった

「黄色いのも落ちたようですな。次は青いのか、それとも白か黒か」

「そう簡単にやられるような私たちじゃない!」

 お姉ちゃんが黒を解放したみたい

 コヅチ先生が視界を奪われてる

「ふむ、所詮はこの程度ですな」

 でもあっさり破られてコヅチ先生はまっすぐにお姉ちゃんを狙って走り出した

「危ないです~」

 ソウカが光りを屈折させて先生の目をくらませた

 そっか、こういう使い方もあるのね

「ほぉ、やりますな」

 先生が感心していると

「眷属大召喚!」

 アカネが復帰して昇ってきていた

 その周りにはたくさんの赤い狼が群れを成して走ってきている

「いくっすよおっさん! 大行進、オオカムイ!!」

 赤い狼がさらに召喚された

 どんどん召喚され、やがてそれは一つの牙となって先生に襲い掛かる

「ぐ、おお、これは・・・」

 その牙に飲み込まれ、先生はアカネの拳を叩き込まれた

 アカネはそのボーイッシュな見た目通り、格闘術も得意で、特に拳による連撃は岩をも砕くほど

 そんな攻撃をまともに受けた先生は大丈夫なのかな?

 あ、そんな心配いらなかったみたい

 全く効いてないよこの人

「ほっほっほ、いい攻撃でしたな赤いの。だが、まだまだ精進が必要ですな。とりあえずは及第点といったところですな」

 コヅチ先生は優しく微笑んだ

 こうしてみると気のいいおじいちゃんに見える

「では次へ進むですな」

 コヅチ先生との修行が終わった

 アカネ、大活躍だったね

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