黒の国15

 黒族の国はあの危険な森に突如として出現した

 誰も近づかなかった森が、今ではすっかり世界の注目の的となっている

 一週間ほどたったけど、今ではいろいろなところから様々な種族が来てその技術の高さに驚いている

 まぁ、技術と言ってもそこまで進んでるわけじゃないんだけどね

「では自由に国を見て回ってください。あちらには滑車を利用した遊具などもありますよ」

 ベリウスさんは僕たちを案内した後、他国との同盟協定を結ぶために自分の仕事へ戻って行った

「それじゃぁ行きましょう!」

 クノエちゃんが先頭に立って街を探索

 本当はカンナさんに戻って来いって言われてるけど、本人は完全に無視している

「あ、あれがベリウスさんの言ってた遊具ね!」

 大きな公園、その中央にあったのは巨大観覧車

 それに、ジェットコースターやメリーゴーラウンド、かなり現代的な遊具ばかりだ

 そこは観光客がとても多く、特に子供が溢れていた

 一応身長制限があるみたいで、百二十センチ以下は危険なので乗れない

 僕は百五十センチギリギリあるから大丈夫

「まずあれに乗りましょう!」

 クノエちゃんが指さしたのはコーヒーカップのくるくる回る乗り物だ

 もちろんハンドルを回すとカップ自体も回転する

「ぼ、僕こういうのは苦手だな。吐いちゃうかも」

「精霊様が吐くわけないでしょ? 良いから乗りましょう!」

 う、クノエちゃん知ってたのか

 仕方ない、気持ち悪くならないように祈りながら恐る恐る乗り込んだ

「クノエちゃんあんまりまわさな、キャァアアアア!!」

 いきなりクノエちゃんは大回転させた

 それと共に視界もくるくると回転して、横でカップに乗ってるテュネたちが視界に入ったり出たり

 ものすごい速さで回してるのか、テュネたちが伸びて見える

「ちょっ、クノエちゃん、回しすぎ・・・。ん?あれ? 全然目が回らない」

 あ、そうか、僕ら精霊はエレメント体だから三半規管はないんだ

 そりゃ目も回らないか。これなら安心して乗れるね

「楽しいわねリディちゃん!」

「そうだね」

 確かに楽しい。酔わないのが何よりもうれしい

 僕らは調子に乗ってずっと回転させてた

 そして降りてから異変が起きた

「うぐ、リディちゃんが、五十人くらいに見える。ぎぼじわるい」

 クノエちゃんが真っ青になって今にも吐き出しそうな顔をしている

「と、トイレ! テュネ、お手洗いを探して!」

「はい!」

 辺りを見渡すとすぐにお手洗いが見つかった

 急いでクノエちゃんを運んで事なきを得る

「う、ぶっ、オロロロエロロロロ」

 見せてはいけないものがトイレの便器に出現しているので光でモザイクをかけておこう

「ふぅ、ごめんなさい、もう大丈夫」

 落ち着いたクノエちゃんと次はジェットコースターに乗りに行った。そんなに大きくはないけれどスピードはありそう

 みんな得体のしれない乗り物に警戒しているのか、誰も並んでいない

 よし、ここは僕たちでお手本を見せよう

「皆さん、この乗り物はですね。こういう風に乗るんですよ!」

 僕は今精霊の姿をしているのでみんなが注目してくれた

「精霊様がお手本を見せてくれるそうだよ」

「さすが精霊様、何でも知っておられる」

 クノエちゃんと一緒に先頭に乗り込んで、出発

 コースターは最初の坂をゆっくり上っていく

 この間の恐怖心を楽しむんだと説明した

「いよいよだよクノエちゃん」

「ワクワクするね!」

 クノエちゃん、すごく楽しそうで何より

 そして、僕らの乗ったコースターは頂上に着き、堕ちた

「え? ああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 クノエちゃんの表情は多分ずっと忘れることはないと思う

 顔が死んでたねあれは

 悲鳴と共に固まって、コースターに乗り終わった後はすっかり白くなっていた

「あんなに怖いなんて、聞いてない」

 魂が口から出ているかのようにしゃべってる

 ちょっとかわいそうなことしちゃったかな

「ま、まぁ次はきっと楽しいよ。ほら、あれに乗ろう」

 指さしたのは巨大観覧車

 相当大きいので遠くの方まで景色を楽しめそうだ

「あれは、怖くない?」

 涙目で僕に聞いてくる

「大丈夫だよ。あれは景色を楽しむ乗り物だから」

 観覧車は少し並んで、数分後に乗れた

 僕とクノエちゃん、それにエンシュが乗り込む

 残りの三人は次だね

 僕と一緒にだれが乗るのかじゃんけん戦争が巻き起こったのは言うまでもない

 ちなみに勝利したエンシュはホクホクしてる

「さぁ乗りましょうリディエラ様」

 ガシリと僕の腕を掴んで僕の隣に座り込んだ

 このお姉さん、結構強引である

「ゆっくり上がってるから怖くないでしょ?」

「さっきのもそうだったんだけど? まさか、上に来たら一気に落ちるとか?」

「ないない、これ輪っかになってるんだから、そんなことしたら常時物凄い速さで回ってなくちゃいけなくなるでしょ?」

「そ、そう? じゃぁ大丈夫なのかな?」

 クノエちゃんはさっきのジェットコースターがよっぽどトラウマになってしまったらしい

 悪いことしちゃった

 まぁこれを楽しんでもらおう

 数分経ってようやく頂上に着いた

「ほら、外を見てごらんよ」

 外は夕日が輝いていた

 そしてどこまでも続きそうな地平線と、遠くの方に見える世界樹

 絶景だった

「わぁ、なんてきれいなの・・・」

 クノエちゃんは目を輝かせて窓に張り付いている

 どうやら気に入ってくれたみたい

「すごいですね。空を飛ばなくてもここまでの景色を見られるなんて」

 エンシュも感動しているみたい

 それにしても黒族の人達の技術はすごいなぁ

 観覧車を存分に楽しむと、すでに日は暮れてきていた

 もう辺りは薄暗い

「じゃぁ、宿に帰ろっか」

 宿はベリウスさんたちがとってくれた

 もともと宿はなかったんだけど、使われてなかった集会所を宿としてオープンしたらしい

 しかもかなり大きくて広い

 さらには銭湯も完備!

 美味しいご飯を食べた後は銭湯でお湯にゆっくり浸かって、あったかくてふかふかの高級ベットと布団に包まれて眠った

 ちなみに僕とクノエちゃんが同じ部屋で、二人ずつ分かれて部屋をとってくれてた

 他の部屋は、テュネとエンシュ、アスラムとフーレンだ

 僕と同じ部屋になりたいとまた四大精霊がもめてたけど、クノエちゃんと一緒に寝ると言ったらしょぼんとしてた

 うん、しょぼんとした顔も可愛いな君たち

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