脅威7

 数日後のこと

 王国は帝国に抗議文を出した

 当然のことながら帝国はこれに反発。ちょうどいい口実ができたとばかりに宣戦布告されたよ

 内容もさることながら言ってることも滅茶苦茶で完全にいちゃもんだけど、これで戦争の回避はなくなった

 周辺国とはすでに話が進んでいて、同盟を組むことになってる

「とうとう本当に戦争ににゃるのか・・・」

「怖いよミーニャ」

「大丈夫! あたしの大切な人はあたしが守るにゃ!」

 そうは言ったものの私自身不安がぬぐえない

 数の上では圧倒的に不利で、周辺国との同盟があったとしてもその戦力差は二倍近い

 こちらは冒険者という戦力もあるけど、帝国にだって強いやつは当然いるだろう

 ガララドだって魔人だから普通の冒険者よりははるかに強い

 もしかしたら魔人だってもっといるかもしれないし、不安で胸が押しつぶされそうだよ

 そんな私をお母さんが優しく抱きしめてくれた

「ミーニャ、そんなに気負わないの。あなたは今までずっと私達を助けてくれたわ。だから今度は私があなた達を守る」

 お母さんの今の実力は冒険者の中でも強いと言われるAランクで、確かにそれなりには戦えると思う

 でもそれはあくまで魔物や中規模の盗賊相手になら勝てるってくらい

 いくらハイヒューマンのお母さんでも数百人、数千人の相手まではできないと思う

 どんどん悲観的になって行く私に一つニュースが飛び込んできた

 帝国は一週間後にこちらに攻めて来るそうだ

 大々的にそう宣言するってことは勝てる算段が付いてるんだろう

 一週間後、私は帝国相手に戦えてるんだろうか


 そしてあっという間に一週間が過ぎた

 帝国との国境沿いに連合軍と帝国軍がずらっと並んでいる

 こちらと向こうの戦力差は二倍で、向こうはさらに人間をベースにした魔物までいる

 技術は完成されたのか、たくさんの子供がキメラにされこちらをにらんでいた

 ただ誰もがその目に涙を浮かべている。そうか、やっぱり無理矢理なんだ

 そのキメラ部隊の後ろに見知った顔がある。そう、ガララドだ

 やつはニヤニヤと下品な顔をしているんだけど、その姿が異様だった

 どうやら自分自身にもキメラ技術を流用しているらしく、手は虎獣人、足は狼魔物で、尻尾は巨大蛇で背中には恐らくだけど翼人族の翼が移植されていた

 まさか魔物だけじゃなくて亜人をも犠牲にしていたとは思わなかった

 魔人ゆえなのか奴の体にしっかりと癒着していて拒絶反応もないみたい

 そのガララドは私を見つけるとグワッと顔をゆがめて大笑いし始めた

 遠いから何を言ってるのか聞こえないけど、こちらを指さしてわめいてるみたいだ

「ハァハァ・・・。心臓が痛いほど脈打ってるにゃ」

「ミーニャ、やはりあなたはミナモちゃんと一緒に帰りなさい。このままでは戦えないでしょう?」

 そう言ったのは傍らにいたクリーミアさんだった

 まさか彼女と同じパーティになるとは思わなかった

 彼女にも言われたけど、私は逃げるつもりなんてなかった。覚悟は既に決まってるもの

 グッと足に力を入れて動き出すのを待った

 驚くほど静かな空気が流れて、空を飛ぶトンビの鳴き声が聞こえて、それが開始の合図となった

 一斉に動き出す両軍

 兵たち、冒険者たちは自分達の故郷を守ろうと剣を槍を斧を振り上げて走る

 魔法使いたちは帝国製の魔物に一斉に魔法を放ち、それに続くように弓使い達が矢を放った

 百体ほどの魔物がそれによって死んだのを皮切りに、近接武器による戦闘が始まった

 私の方はと言うと、キメラ化した子供達を気絶させては空間収納のに放り込んでいくのを繰り返す

 皆泣き、痛みで悲鳴を上げ、戦争の恐怖によって失禁しながらも戦わされている子までいた

 そんな子供達をどんどん気絶させていくとガララドの姿が真横に見えた

「しまった!いつの間に!」

 ガララドの虎腕が迫り、私の背中を切り裂いた

「グニャァ!」

 激痛が走って地面に転がる。これは結構ヤバいかも

 背中の傷は深くてどうやら肺にまで達しているみたいだ

 呼吸ができず血が口から込み上げてくる

「ミーニャ!」

 そこにエグズさんが来て私を拾い上げるとお母さんの方に放り投げた

「今回復させるわ!」

 お母さんの回復魔法が私の傷を癒す

 お母さん、こんなに腕上げてたんだ。傷はあっという間に治って私は再び立ち上がると、キメラ化した子供達を気絶させる作業に戻った

 ガララドの姿は既に無い

 多分私が他に集中している隙を狙って攻撃するつもりなんだ

 でも残念。その手はもう通じないよ

 私の睡眠猫パンチによって倒れた子供を収納する瞬間、またガララドが現れて攻撃しようとしたけど、今度は予測できたから逆に爪で切り裂いてやった

「ぐあ! このくそ猫!」

 すぐ頭に血が上るこいつは冷静さを欠いて滅茶苦茶に爪を振り回し始めた

「そんな大振りが当たるわけにゃいのにゃ!」

 ひらりひらりと攻撃をかわし、私の爪攻撃をお見舞いしていくと、ガララドはとうとう私に腕を飛ばされた

「くそくそくそ! 何でだ! 俺は強くなったはずなのに!」

「お前みたいなやつはいくら力を手に入れようと無駄なのにゃ! 今日ここで決着をつけてやるにゃ!」

 ひるんだガララドの胸辺りを切り裂き、ガララドは倒れた

 血がドクドクと流れ出る。感触としては心臓を切り裂いた感触があった

 恐らく即死だろう

 ようやく子供達の敵ガララドを仕留めた私は、全てのキメラ化した子供を無力化することに成功した

 そう、私はやればできる子!

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