脅威6

 その男の顔は忘れもしない

 私の大切なミナモちゃんを斬りつけ瀕死の重傷を負わせ、魔人となった卑怯者の男ガララドだった

 こいつはどうやら前の私との戦いで帝国まで逃げていたのか

 しかもまた子供を痛めつけている

 自分の利益のためなら人を人とも思わない鬼畜。それがこの男だ

 エナちゃんをここに捨てたのは失敗作として廃棄したんだろう

 それに、帝国から送られてくる人間素体の魔物はこいつが移動させていたことになる

 何せ転移魔法を使える者は極端に少ない

 こいつも以前は使えなかったはずだけど、魔人となったことで魔力が覚醒したのかもしれない

 現にあの時逃げられてるしね

「こいつだけは許せにゃいのにゃ」

「ミーニャちゃん?」

 シアさんに心配そうな顔をされたけど、私は冷静だよ

 煮えたぎるような怒りを胸に抑え込んで、こいつをいかにして懲らしめてやろうかを考えてるからね

「犯人が分かったにゃ。でもこいつはもうこの国にはいにゃいにゃ。帝国に戻っちゃったにゃ」

「そっか、こっちからは手出しできない、よね?」

「んにゃ、そんにゃことしたら戦争ににゃるにゃ。まあ帝国の望みはその戦争にゃんだろうけど」

 戦争を起こしてこの国を手に入れようって腹なんだろう

 おおかたこちらにわざと帝国製の魔物を送って、国王が抗議して来たらいちゃもんでもつけて戦争に発展させるつもりだろう

 そうなればこの国の戦力じゃ三十倍以上もの戦力差のある帝国には勝てない

 負けて属国になるか滅ぼされるだろうね

 いくらバステト様やニャフテスの加護があるこの国といえど、戦力差っていうものは馬鹿にはならない

 強い人たちだっていずれ疲弊して数の暴力に押し切られる

 圧倒的に強い人って言うのはこの国に二人しかいない

 どっちもまだ会った事は無いけど、一人は勇星のアステスという名前の男性で、もう一人は閃黒の鬼婦人シエンと呼ばれる女性だ

 勇星のアステスの力はよく知らない。星ってついてるから隕石でも降らせるのかな?って想像くらいしか思い浮かばない

 でも閃黒の鬼婦人の話は聞いたことがあった

 なにせミナモちゃんがファンだからね

 婦人ってついてるけど未婚の女性で、種族は鬼人。美しく長い黒髪に真っ黒な着物を着てるらしい

 常に日傘を差していて、その傘が仕込み刀になってるんだとか

 そしてその攻撃は閃光のようで、黒い線が走っているような見た目らしい

 ファンの数も相当なもので、他国にまで知れ渡っている

 ちなみに勇星のアステスのランクはSランク、シエンの方はSSランク

 二人とも十分強いし、自分たちの育った国の危機とあれば立ち上がるだろうけど、それでも帝国の戦力に潰される可能性は高い

 一人で数万人を一度に倒せるほどの戦力が無ければ勝てないんだ

 これは由々しき問題だね

 とにかくこの事は王様に報告しないと。それにギルドにも報告して何とか戦争回避の手立てを・・・。いやあっちは既に戦争の準備を始めてるんだからそれよりも周辺国に協力を要請する方が堅実か

 とりあえず私一人の判断では難しい

「帰ろっか」

「うにゅ」

 調査を終えて私達は街に戻った

 色々な報告はすでにエグズさんがしてくれてるけど、帝国のことについては詳しく私が話しをした

 その後は公爵の所に行って報告

 王様には公爵が報告してくれるらしい

「それにしてもミーニャ、君のおかげで戦争前に色々と対策がたてれそうだ。帝国の横暴には周辺国も多大な被害を受けている。恐らく連合を組むことになるだろう。そして戦いが始まる。妻や娘、いや国の非戦闘員は非難させて・・・」

 すでに色々と考え始める公爵

「取りあえず報告はしたにゃ。もし戦争になったらあたしも戦うにゃ。個人的に相手をしにゃいといけにゃい奴がいるしにゃ」

「ああ助かるよミーニャ。君の力があれば百人力だ」

 そうは言ってくれるけど公爵はかなり不安なんだと思う

 いつもはしない貧乏ゆすりがあるし、額に汗が浮かんでる

 私の力は世界の最高峰と呼ばれるSSSランクには遠く及ばない。それどころか私の力なんて多分Sランク行けばいい方だと思う

 つまり私一匹で一騎当万とはいかない

 私は普通と比べれば多分強い。それも成長途中で今後もっと強くなれるだろう

 でもそれは今じゃなくてもっと先の話なんだ

 今にも起こりそうな帝国との戦争で私が全てを救うなんてことは絶対にできない

 かといって大切な人達だけを守るというのも違う

 私はわがままだからこの国全てを守りたいんだ

 でもそれにはやっぱり力が足りない

 もどかしかった

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