学園生活6

 フェリバの深緑は何の音もしない寂しい場所だった

 普通の森なら鳥の鳴き声や小動物の動く音がするはずなのに、何の物音もしない

 それに薄暗くてかなり不気味

「うう、あたし幽霊とか苦手にゃんだけどにゃ~」

 でもそうも言ってられない。先生がここに入っていったのは間違いないんだから助けに行かないと

 私は恐々前足の一歩を踏み出した

 入った瞬間分かったよ。ここは魔物すら寄り付かないとんでもない場所だってことが

 瘴気が、尋常じゃないほどの瘴気がこの森に満ち満ちでいる

 こりゃ普通の動物だったら入った瞬間死んでるね

 冒険者がたまに入るらしいけど、瘴気避けのマジックアイテムを持ってはいらないとやっぱり体に異常をきたして、最悪死ぬこともある

 私はなぜか平気で、目に見えるほど瘴気が濃いような場所でも全く何の影響もないみたい

 これも多分バステト様の加護が効いてるんだと思う

「んにゃぁ、何もいないにゃぁ・・・。でも先生の匂いはこっちからしてるし。うー、この奥かぁ・・・。すっごい暗いにゃあ、怖いにゃあ」

 もはや瘴気で何も見えないくらいに暗いけれど、先生の匂いはこの先へとずっと続いていた

 精霊に近しい種族であるエルフ族の先生は瘴気に弱い。にもかかわらずこんなに危ない場所を進んでいるなんて・・・。とにかく急がないと

 どんどん濃くなっていく瘴気の中を走り抜けると大きな社が見えた

 ここが恐らく公爵が言ってた封印の社ね

 かつての魔王が生み出した恐ろしい魔物が封じられた場所

 封印が解けかかっていると聞いたけど、この瘴気の量を見るにもう解けている可能性が高いわ

 先生、どうか無事でいて

 社に入ると奥にある祠の前に男が座り込んでいた 

 その男の前に気を失った先生が倒れている!

「にゃ! 先生ににゃにをしてるんだにゃ!」

「・・・。猫か? お、前、は・・・、あの時の!」

「ダレにゃ? お前みたいにゃのと面識はにゃいにゃ」

「忘れたとは言わせんぞ! あの時お前のせいで俺は!」

 あ、思い出した。こいつ確かニャトラ教団の幹部だった男、名前はガララドだったかな

「お前、教団のガララドかにゃ? あの時と顔が、っていうか姿が違うにゃ」

「ハハハハ! 俺は力を手にいれたんだ! 教団が壊滅するときゼオンの持っていた秘宝の一つを盗んだおかげで俺は使えるべき主に出会えた! 今まではお前を恨んでいたが、むしろこうなって感謝しているぞ! 俺は、魔人となった!」

 魔人? 魔人って何だろう?

「まさかお前が喋れるとは知らなかったが、そんなことはどうでもいい! 今から面白いものを見せてやろう。お前、人が魔物に変わるのを見たことはないだろう?」

「にゃ! まさか!」

 私は慌ててガララドが先生に何かしようとしているのを止めるため走った

「もう遅い!」

 ガララドは先生の胸元になのか黒い宝石のようなものを埋め込んだ

「フハハハハ! これこそ魔王様から賜った宝珠! 魔狂いのオニキスだ!」

 先生の胸元に刺さった宝石はそこから根を張るように食い込んで先生の姿を変えていく

「先生!」

「どうだ!成功したぞ! この土地に封じられていた魔物を取り込んでこのエルフは魔人となる! 魔王様に従順な魔人にな!」

 先生を包んでいた黒い瘴気が晴れると、そこから真っ赤な目をし、角の生えた変わり果てた先生が出てきた

「こいつはいい素体だったからな。嘘を吹き込んでここまで誘い込んだんだ。フハハハ! いいぞ、俺と同等の魔人が誕生した! 魔王様に褒めていただけるだろうよ!」

「あ、ああ、ミーニャ、ちゃん、私を、殺し、て、早く!」

「何だまだ自我があるのか? まったく、自我が強いとこういうことがあると魔王様がおっしゃっていたな。まぁじきにこいつも魔に染まり切るだろう。身も心もな」

「そうはさせにゃいにゃ!」

 私はガララドの腕を大爪で切り落とした

「ぐお! 貴様!! おいお前! こいつを殺せ!」

「あああああぐぅうう! ミーニャちゃん、逃げアアアアアアアア!!」

 先生の目から意思が消えた

 どうしよう、どうすれば先生を救えるの!?

 こちらをにらみ、魔法を放とうと身構えている先生を前に、私はどうすればいいのか分からなくなった

 やがて魔力のたまった先生の手から禍々しい黒い炎が吹きあがって私を襲い始める

「くにゃぁ! あちちち、先生! 正気に戻るにゃ!」

 炎を避けつつ先生に声をかけ続ける

「無駄無駄無駄だよ! こいつはもう元に戻ることはない! 魔王様の忠実な配下としてこれから生きていくんだよ! 全てを滅ぼすためにな!」

 ガララドが私にとって絶望的な言葉を吐き出す

 でも私はまだあきらめていない。きっと何か方法があるはず!

 頭でぐるぐると考えを巡らせているとまたスキルが頭の中に浮かんできた

 これは、この状況を打開するスキルなの!?

 考えていても仕方がないとすぐに手にいれたスキルを最大限に使った

「シャアアアアアア!! “聖なる猫パンチ”!!」

 私はこの聖なる猫パンチと言うスキルで先生のほっぺたをペチーンと猫パンチした

「あがっ!」

 先生は吹っ飛んで地面にたたきつけられる

「な! 魔人を殴り飛ばすだと! 何なんだお前は!」

 ガララドがわめいているけど関係ない。今は先生の安否の方が大切だ

 先生に駆け寄ると、なんと魔人化が解けていた

 角は消え、赤黒くなっていた肌は元の色白美人に。メガネは壊れちゃったけど、いつもの優しい美人な先生の顔に戻っていた

 意識はないけど命に別状はないみたい

「くそ! こんな簡単にやられるとは、失敗作だったか」

 ガララドは逃げようとするけど、怒り心頭の私はすぐにやつの首根っこを大爪で捕まえた

「逃がさにゃいにゃ。魔王について教えるにゃ。その後お前をどうするか考えてやるにゃ」

「ふん、教える訳が無かろう!」

 ガララドは懐から何かを出して砕いた

 とたんに辺り一帯が光りに包まれる

 まともに見てしまったから視界が奪われてしまった

「んにゃ! 眩しいにゃ!!」

「ここは逃げさせてもらう!」

 ガララドの走り去る足音が聞こえた

 ようやく目が慣れた頃にはすでにガララドの姿は無くて、気絶した先生が私の目の前に横たわっているだけだった

 ひとまずは先生を救えたから安心して、先生が起きるのを待ってから連れて帰ろうと思った矢先、私の後ろで邪悪な気配がした

「にゃ! これは・・・」

 私はさっきガララドが言った言葉を思い出す

 確かここに封じられていた魔物を取り込ませた。みたいなことを言っていた

 聖なる猫パンチによってその融合が解けたんだとしたら?

 その魔物の方は・・・

「当然、そこにいるわけだにゃ」

 目の前には巨大な狼型の魔物私を喰らおうと口を大きく開けて唸っていた

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