私は神獣ではないです1

 モンスターパニックを沈めた私はなんと街を納めているオスカー伯爵家に招かれていた

 この人達は人々を思いやれる良領主のようで、しきりに感謝してくれてる

「それにしてもこんなに小さな子猫があれを鎮めるとは…。いやはややはり神獣様で間違いないのではないかね?」

「は、はい、私もそう思いましゅ!」

「ハハハ、そんなに緊張しなくてもいい。気楽に腰かけなさい」

 突然領主様に呼ばれたためかミナモちゃんはものすごーく緊張していて、足はガクガク震えている

 いい人とは言えそりゃ貴族様だもん、平民のミナモちゃんは可愛そうなくらい震えてる

「それで、その子はどこで拾ったんだい?」

「ええええと、街の路上を歩いていまして、そこをほ、保護したんです」

「ふむふむ、では野良だったわけか、いやいや君がこの子を拾ってくれたおかげで町は守られた。そこでだ、君とその子に何か報酬を渡したいのだがいいかね?」

「え!? そ、そんな、それはおこがましいです!」

 えー貰えるなら貰えばいいのに

 でもまぁ私は報酬が欲しくてやったわけじゃないから別にいいんだけどね

「しかしあの成果に報酬を払わない訳にはいかない。ここは私の顔を立てると思ってもらってはくれないかな?」

「あ、うう、はい…」


 その後私とミナモちゃんは一生遊んで暮らせそうな額のお金をもらえたんだけど、それはお母さんの薬代や生活費以外をすべて貯金することにした

 まあ何があるかわからない世の中だからね、備えておくにこしたことはない

 ミナモちゃんはしっかり者な上に堅実だ

「すごいことになったねミーニャ、ミーニャのおかげで私、幸せだよ。このお金のおかげでお母さんも良い癒術師の人に見てもらえそうだし」

「んなお!」

「ふふ、今日は美味しいお魚買って帰ろうね」

「んにゃっ!」

 いいねいいねお魚、前世から大好物だったしね。出来たら煮つけとか食べたいけどそこは贅沢言わない


 家に帰るととんでもない数の白装束の人が家を訪問していて私達は驚いた

「な、なに? 何でこんなに人が!?」

「んーにゃ?」

 分からないと首をかしげて見せるとその人たちが一斉にこちらを向いた

「おお! この猫様がかの神獣ニャフテス様! なんと神々しいお姿か!」

「まことに、それでは我らが元へと来ていただきましょう」

「んにゃっ!?」

 突然ミナモちゃんの手から奪われた私はその人たちにどこかへ連れて行かれそうになった

「待ってください! ミーニャをどうするつもりなんですか!?」

「なんと無礼な、ニャフテス様に名前を付けるなど不届きな! この場で処刑しましょう!」

「え!?」

 突然剣を抜いた男にミナモちゃんは切り付けられて倒れた

 あまりにも突然すぎたので私は反応できず、その光景を目に焼き付けてしまった

「ん、にゃ、にゃにゃ…」

「さぁニャフテス様、行きましょう」

「待て! 貴様らエレア教会非公認のニャトラ教団だな!? その子をどうするつもりだ! それに…、お前たちミナモちゃんを…」

 私が怒り出すより先に白装束たちを止めた人がいた

 それは私が助けた冒険者の一人で、あのモンスターパニック以来よく私に魚を持ってきてくれてた人だ

 名前は確か、セジオさんだったかな? 見た目は顔に傷があっていかつくて、何人か殺してそうだけどこれで猫好きの優しいお兄さんだ

 サングラスのような装備もかけてるから余計にその筋の人に見えるんだよ。でもこの時は本当に助かった。実は結構な実力者で、私を助け出した上にミナモちゃんに回復魔法をかけて一命をとりとめてくれた

「お前らこんなことしてただで済むと思ってんのか?」

「黙れ! 何もわかっていない愚民がそのお方に触れるな! そのガキもだ! もっと深く切りつけて殺しておけばよかった!」

 ミナモちゃんを斬りつけた男はまだわめいている

 私は許せない。何もしていないいたいけな子供であるミナモちゃんを傷つけたことを

 後悔させてやる

 怒りで頭に血が上った私はセジオさんの腕から抜け出すと男の前に立った

「おおやはり分かってくれますか! ささこちらへ!」

「おい嘘だろミーニャ! 愛するミナモちゃんを置いて行…。いや違う、おいお前らとっとと逃げろ!」

「ハッ! 何を言い出すかと思えば逃げろ? まだ何かあるのですか? この通りニャフテス様は我わっ」

 男と私の目が合う

 その次の瞬間男は狂ったように頭を抱えて悶え始めた

「あああああああ!! やめろ! 来るな! 来るなぁあああ!!!」

「ガララド様! どうされたのですか!」

 ガララドと呼ばれた男、ミナモちゃんを斬りつけた男は今私に幻を見せられている

 どういうわけか怒りが頂点に達したときに頭の中に浮かんだスキルと呼ばれるもの、そのうちの一つにあった“幻惑の園”というものだ

 目を見た相手を幻に引きずり込んで永遠に覚めない恐怖を与え続ける

 これは私の大切なミナモちゃんを傷つけた罰

 自分の間違いを認めて悔い改めることが無い限り解除するつもりはない

 まぁこんなやつは絶対自分の行いを悔いるなんてことしないだろうね。永遠に死ぬまで苦しめばいい

「くっ、ひ、引くぞ!」

 ガララドを抱えた部下らしき大男が号令をかけて教団員たちは逃げていった

 私は慌ててミナモちゃんの様子を見る

 セジオさんのおかげで出血は止まっているものの予断を許さない状態…。私は肉球をミナモちゃんの傷口に当てる

 これもそう、たった今頭に浮かんだもので、さっきのスキルとは違って魔法みたい

 回復魔法の最上位、“フルヒール”と言うものらしい

 生きてさえいれば完全回復させるというとんでもないもの。ただの子猫が使えるわけがないと思うんだけど、それはこの際気にする必要なし!

 フルヒールのおかげでミナモちゃんは無事だし、考えない考えない。猫猫、吾輩は猫である!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る