猫になりました3

 とまぁそんな不吉なことは考えるもんじゃないとこの時改めて思った

 兎魔物なんて生易しいものじゃなくて、私達を襲ったのは巨大なトカゲのような魔物だった

 全然気づかなかったのはどうやらこのトカゲ、姿を消せる上に頭がいい。私に臭いを悟られないように風下から近づいて来てたみたい

 ミナモちゃんは驚きすぎてその場に倒れて動けなくなってる。私が守らないと!

 私はあまりにも違う体格差に怯えつつも大事な主を守るためにトカゲの前に立った

「ミーニャ! 駄目!」

「んにゃ!」

 私は大丈夫だとばかりに声をあげてトカゲにとびかかった

 トカゲは私を完全になめてかかっているのでそのまま小さすぎる爪を振り下ろした

 そこで驚くべき結果が生まれる

 私の爪はまるで何かを纏ったかのような状態になり巨大な爪のような力の塊となってトカゲの頭を切り落とした

 な、何これ…。結構力があることは分かってたからちょっとした威嚇くらいになればいいと思って攻撃したけど、これはとんでもない力じゃない…

 恐る恐るミナモちゃんの方を見ると、彼女は涙目になって私をグッと抱き寄せて強く抱きしめた

「良かった…。ミーニャ、ありがとう!」

「んなお!」

 どうやら私を怖がっては無いみたい。怖がらせちゃったかと思ったよ

「もしかしてミーニャって、この国の守り神のニャフテスなんじゃ…」

「んにゃ?」

 ニャフテスって何だろう? 守り神? バステトさんじゃないのかな?

 ミナモちゃんの顔を見ると私の耳の後ろを撫でながら話を聞かせてくれた

 ニャフテスはこの国の守り神である猫神様で、遥かな昔にこの国の人々を魔物の大群から守ってくれたと言われる神獣らしい

 その体色は白く美しく、その力はどんな敵をも薙ぎ払い人々を守ったらしい

 そしてその神獣は何よりも魚が好きで、魚をお供えすると大喜びして飛び跳ねてたという

 何それ可愛いんだけど。神獣にして守り神ニャフテスかあ。会ってみたいよねやっぱり

 あ、私がそうかもしれないんだっけ? でもそんな神聖な感じ私にないよ。多分私って猫型の魔物なんじゃないかな? そう考えれば色々と合点がいくし

 まず魔法があるこの世界においては魔力の流れって言うのを感じれるらしいんだけど、魔物なら大抵できる

 それから今の力。あれは恐らく魔物が使うスキルじゃないかな? スキルを使うって感覚はなかったんだけど、あんなの普通の猫にできるはずないもん

 あとはやっぱり身体能力ね。魔物ならあれくらいできそうだし

 とにかく、私が神獣っていうのはミナモちゃんの勘違いだと思うな

 吾輩は猫魔物である! うん、このスタンスの方がしっくりくるね

 でも魔物なんて飼ってたらミナモちゃんが言われのない非難をあびるかもしれない

 その時は私はおとなしく出て行こう。私を大切にしてくれる二人に迷惑をかけたくないもの

「ミーニャ、帰ろっか。薬草も摘めたし、それに、パンツも変えたいし…」

「んにゃ」

 そりゃあれだけ大きなトカゲがいきなり出てきたんだもん。まだ子供なミナモちゃんが、その、粗相をしても仕方ないと思うんだ、うん


 街に戻ってすぐに家に帰るとミナモちゃんは服を脱いで体を洗ってから着替え始めた

 お母さんが心配するといけないからと今回あった事は話さないつもりみたいね

 まぁもし私が魔物だったらその方がありがたいかも。こんなにいい生活、もとい私を大切にしている人たちと離れたくない

 ミナモちゃんが着替えた後は屋台に花と薬草を並べてから店を始めた

 他の店は既に開店してるけど、やっぱりミナモちゃんは朝に色々と準備なんかをしてるから、どうしても開店はお昼以降になっちゃうみたいね

 仕方ない、ここは私が一肌脱がせていただこうではないか


 翌朝から私は一匹で籠を持って例の薬草群生地に向かっていた

 薬草を私が摘んでおけばその分ミナモちゃんの負担も減るし時間短縮にもなる。何せこの薬草採集が一番時間がかかるからねぇ

 無事薬草採集も終えて私は戻ろうとすると、またしても魔物が襲い掛かって来た

 今度は鶏みたいな魔物で、魔力から察するにトカゲの魔物よりも格下みたい

 簡単に撃破した後はすぐに戻ってまだ眠っているミナモちゃんの横に薬草の入った籠を置いて、ミナモちゃんのお腹の上で丸くなって二度寝した

 そして日が昇るころ、ミナモちゃんは薬草があることに驚いていた

「もしかしてミーニャが取って来てくれたの!?」

「にゃ!」

 肯定するように一鳴きするとミナモちゃんは私をギューッと抱きしめて頭を撫でてくれた

「よしよし、すごいなお前は。ありがとうね!」

 これでミナモちゃんの負担も少しは減るだろうし、危険もなくなるよね

 本当はもっと手伝いたいけど、掃除や洗濯、食器洗いや料理なんて作業はこの前足じゃできないんだよねぇ


 その日から私は薬草採取をまだ日が昇る前にするのが日課になった

 薬草の群生地まで行って薬草を摘んで、たまに出て来る魔物を倒して、家に帰ってミナモちゃんに薬草を渡す

 そんな平和な日々がしばらく続いたある日、私は街で気になる噂を聞いた

「なんか最近魔物多くないか? この前なんか街道にまでゴブリンが出てよ。襲われて危うく死ぬかと思ったぜ。まぁ雇ってた冒険者が倒してくれたから事なきを得たけど、おかげで追加報酬が発生して赤字だぜ」

「そういえばエミナス王国でモンスターパニックが起きたって話だ。こりゃいよいよ魔王が生まれたのかもしれないな」

「魔王!? ホントかよそれ! だってあんなの神話みたいな話で眉唾だぜ?」

「まあ魔王の話なんて童話や絵本くらいにしか出てこないもんな。俺も良く昔母さんに言われてたぜ。悪い子の所には魔王が来て食べられるぞーってな」

「魔王はともかくよ、魔物が増えてるのはマジだ。お前も気をつけろよイエンツ」

「ああ、お互いにな」

 彼らは行商人みたいで、よくこの街に来ているのを見かける

 きっといろんな街や国を回ってるはずだからうわさ話にも信憑性がある。やっぱり薬草採集を私が引き受けて正解だった

 兎魔物くらいしかいなかったはずのあの辺りにあんな大きなトカゲが出たり、変な鶏が出たりってやっぱり異常だもんね

 幸いにも私が勝てない魔物は出てないからまぁ大丈夫って気楽に今は思っておこう

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