第208話止まらない異変の強化
そして更に二週間ほどが経過したある日。今日も俺たちはダンジョンのコアを発見し、破壊するためにダンジョン内を探索していたのだが、どうにも様子がおかしい。
「ねえ、どうすんのこれ。もう二日も探してるけど、全然コアなんて見つかんないんだけど」
「このまま続けますか? 食料的には問題ないですし、衛生面も、一応問題はありませんけど……」
今回は非常事態ということもあって速度重視で行動するために軍用車を借りることができていたのだが、ダンジョン内を法定速度なんて無視して爆走していてもコアが見つからない。
「力の強いモンスターが出るダンジョンってのはそれほど広くないから、もう見つかってもいいと思うんだが……」
モンスターの強さと、ダンジョンの厄介さってのは、反比例する。
複雑で広大なダンジョンほどモンスターは弱く、モンスターが強いほどダンジョンは狭く単純なものになる。
このダンジョンは俺たちに回されてくるだけあって、他の冒険者では対処が難しいようなそこそこ強めのモンスターが出現していた。
なのでもうコアが見つかってもいいはずなのだが、いつもは一日……早い時には半日かからずにコアを見つけることができるにもかかわらず、今回は二日もかけて探しているのに未だにコアを見つけることができていなかった。
こっちには魔力に敏感な安倍がいるわけだし、コアを見つけることができなくても、コアの痕跡というか方向くらいは掴めてもいいはずなんだがな。
ニーナの場合はダンジョンの中に入って全力で魔法を放つだけで小さなダンジョンであれば内部の全てを一撃で焼き尽くすなんて無茶苦茶なこともできるが、俺たちにはそんなことはできない……どうしたものか。
「コアがない?」
俺が運転しながら今後について考えていると、後ろから安倍の声が聞こえてきた。
「コアがないって……そんなことって、あるの?」
「わかんない。でも、今は普通じゃない。ならありえないことがあってもおかしくない、かも?」
普通じゃない、か。まあ確かに今の状況は異常だよな。コアを見つけられない状況が、ではなくてゲートが大量に現れた状況そのものが、だ。
ここでまた新たな異常が出てきても、おかしいと言うほどおかしいことでもない。
「マップを見る限りはおおよその部分は埋まってるんだよな」
「ひとまず外周部は回ったので、おおよその大きさは把握できましたよね」
「地下とかにあるって言われたらお手上げだけどね」
軍用車で走り回っているだけあって、普段の探索に比べてかなり早く探索することができているが、それでも地下までは流石に調べられない。
とは言え、地下にあったとしても何かしらの反応や変化があってもいいはずなんだが、そう言った『何か』を見つけることはできていなかった。
「今日一日探してみて、それでも見つからなかったら一旦戻ろう」
俺の言葉に宮野達四人はそれぞれ了承の言葉を言いながら頷いたのだが、結局その日はコアを見つけることができなかったために、一旦ダンジョンから戻ることとなった。
そして外に出た俺たちだが、宮野達には念のために装備の補充と休憩を取らせ、俺は佐伯さんに電話をして状況説明することにした。
『——そっちでもか』
「そっちでもってことは、他の場所でも?」
『ああ。それほど広い場所じゃないはずなのに、どれだけ探してもコアが見つからないという報告がいくつか上がっているそうだ』
他の場所でも、か。なら、このダンジョンも俺たちの見落としじゃなくて本当にコアがないんだろうな。
……でも、それってまずくないか?
「どうするんですか? コアを破壊できないとなると、このゲートは開きっぱなしと言うことになりますけど」
『まあ、それは仕方ないね。人や物を置いて封鎖するしかない。君たちは戻ってきてくれ』
ゲートが開きっぱなしになると中からモンスターが出てくる可能性があるので危険になるわけだが、コアを見つけることができないんだったらゲートを破壊することができないので、どうすることもできない。
「わかりました。……これは、状況が進んだってことですかね?」
『だろうね。……ゲートの発生だけで終わるとは思っていなかったけど、明らかに状況が変わってきている。気をつけてくれよ』
そんな不吉な気配を感じながら、俺たちは今回のゲートの探索を打ち切って研究所へと戻ることになった。
──◆◇◆◇──
それから更に一ヶ月後。コアが見つからないダンジョンはあったものの、あの一件以来そういったダンジョンに遭遇することもなく、俺たちは順調にゲートを破壊してくることができた。
「はー、やっと見つけたー」
「あとはこれに爆弾をセットして終わりね」
そして今日もダンジョンに潜り、ダンジョンを構築しているコアを発見することができた。
勇者がいるために強めのモンスターが出てくるダンジョンばかり回されるが、その分探索は簡単に済むから俺としては楽でいい。
あとは宮野の言ったように、コア破壊専用の爆弾を取り付けてからゲートの入り口まで戻ればそれでおしまいだ。
「それにしても、爆弾をセット、なんて言葉を使うとは思わなかったわ」
「そりゃあそうでしょ。あたしだって思ってなかったし」
「普通に暮らしてれば当然」
「普通の暮らしかぁ……戻れるのかな?」
車の中に積んだ荷物から爆弾を取り出そうと漁り始めたところで、宮野達のそんな会話を聞いてしまい、俺の手は止まってしまった。
普通の暮らし……もう三ヶ月近く前になるんだよな。いや、むしろまだ三ヶ月経ってないというべきなのか?
まだゲートの発生原因も止める方法もわかっていないが、そのうち元の生活に戻れるようになるんだろうか?
もしかしたら、ずっとこのままゲートを警戒し続ける生活になるんじゃ……。
「「「……」」」
しかし、漠然とした不安を感じたのは俺だけではな勝ったようで、宮野達も黙り込んでしまった。
「あー、ほら。とりあえずさっさと終わらせちゃお!」
そんな暗くなってしまった空気を吹き飛ばすかのように浅田が頭を振りながら声を上げた。
「というわけで、あとお願い」
浅田はそう言うと、なんでもないかのように笑いかけながらいつものようにそう言ってきた。
宮野はその強さでみんなを安心させるが、こいつはムードメーカーっていうのかね。そういう強さ以外のところでみんなを支えている。
もちろん今の浅田はそれだけではなく強さもあるわけだが……ありがたいし、頼りになる存在だよ、ほんと。
そうして一度だけ大きく深呼吸をしてから作業をしようとしたところで、電話が鳴った。
なんだ? ゲートの中では電波なんて届いていないからケータイが鳴るはずないんだが……。
「電話? 誰だ? ……佐伯さん?」
どうして電話なんて、と思ったが、こんな時にこんなところで電話が鳴るんであればそれは異常事態だ。
だから俺は、特に何かを考える前に電話に出ることにした。
「は——」
『良かった、まだ繋がったか!』
「……どう言う意味ですか? それに、どうやってダンジョン内まで電話を?」
電話に出ると何だか慌てたような佐伯さんの声が聞こえてきた。
何だ? 何があった? 今までこの人のこんな慌てたような声、聞いたことがないぞ。
『今ゲートの入り口に人を送ってそこから中継して——って、そんなことよりも! コアを見つけたかっ!?』
「はい。それらしいのはあったので、爆弾を——」
『触ってはいけない! 触ったことによって自壊したコアがある!』
「っ!」
その言葉を言いた瞬間に俺はすぐさまコアへと視線を向けたが、そこには何の異常も見られない至って普通のコアがあるだけだ。
「それは、触った者は……」
『ダンジョンの崩壊と一緒に、どこかへ消えたよ』
コアを破壊するには、自前でやるにしろ爆弾を使うにしろ、コアを直接触らなければならない。
だが、触った瞬間にコアが崩壊するのだとしたら、それは爆弾なんて意味がなくなる。
それに、そんな触っただけで、なんて些細なことで壊れるようであれば、今この瞬間に何かが起きてコアが壊れてしまってもおかしくはないということでもある。
そう思い至ると、俺は無意識のうちに手を握りしめてしまった。
『コアらしきものを見つけたんならそれで十分だ。今すぐに戻ってきてくれ』
「……わかりました」
嫌な予感を感じながら、俺たちはコアの近くに位置を示すビーコンだけを置いて再び車に乗り込み、ゲートへと向かって戻っていった。
──◆◇◆◇──
俺たちがゲートから帰った時にはすでに佐伯さん達はゲートの大量発生があった時のように慌ただしく動いており、ろくに話ができる状況ではなかった。
後で聞いた話では、俺たちは連絡をもらってコアに触る前に撤退することができたが、それができずにコアの破壊と共に起こったゲートの崩壊に巻き込まれて何十、何百組もの冒険者が姿を消したそうだ。
だが、その慌ただしさがあったおかげなのか翌日には全ゲートの封鎖が行なわれ、一週間後には誰も勝手にゲートを破壊することはできなくなった。
しかし、それではただゲートからこちらにやってくるモンスターに殺されるだけになってしまう。
当然ながらそんなことを許すわけにはいかないので、コアを破壊はしないがゲートの中でモンスターだけを狩って何とか状況を維持することになった。
しかし、コアに触っただけでゲートが崩壊するということはそれだけゲートが不安定になっているということで、コアに触らずとも突然ゲートが崩壊する可能性はある。
なので俺たちのようなそれなりに重要なもの達は、ゲートの外に出てきたモンスターだけを駆除することになった。
とはいえ、最初ほどではないにしてもどんどん数を増すゲートを全く破壊しないままではそのうち対処が追いつかなくなる。
そこで、勇者には死んでもらっては困るので使わないが、それなりに実力のある冒険者と生贄を用意して少しづつでもゲートを処理していくことになった。
だが、使う戦力に制限をかけるということはそれだけ危険が増えるということであり、実力があると行っても結局は人間。ゲートの探索中に何人も死ぬこととなった。
自分たちが行けばもっと被害を減らせると分かっていても、行ってはいけないという状況に、宮野達は悔しそうに歯噛みしていた。
それからさらに一ヶ月経った今日、俺たちは佐伯さんに呼び出されていた。
「ああ、来てくれたか。座ってくれ」
佐伯さんに勧められるままに席についた俺たちだが、普段になく真剣な様子だ。
「君たちも気になってるだろうから前置きは省こう」
こんなに急に話を進めるってことはもしかして……
「コアに異常がで始めたのと同時に、複数の地点で魔力の流れに異常が出始めたんだが、それを調べて行った結果、原因……と呼べるかはわからないけど、いくつかゲートと繋がっている場所を見つけることができた。それも、明らかに人の手が入った、ね」
「人の手が入った、ということは……つまり救世者軍の拠点ということですか?」
「おそらくは、そうであってほしいと考えているみたいだね」
そうであって欲しい、か。それらしい感じはするけど、確証はないってことか。
まあ深入りして気づかれてもアレだし、仕方がないのか。
「ならそこを襲撃すれば」
もしかしたらこの異変も終わるかもしれない。
だが、希望が見えてきたわけではあるのだが、同時に不安もある。
「ああ。……だが、これはある意味賭けだ。拠点は世界中にいくつも見つけた。それを完全に壊すとなればそれなりの戦力を用意しなくちゃいけないわけだけど……」
そう。敵を襲撃するなら連絡と対策をされないように全部を同時に仕掛けないといけない。
だが、今はゲートの対処をしているのに精一杯の状況だ。襲撃するような戦力なんて、それもいくつもの場所を同時にだなんてできる余裕があるわけがない。
それでも襲撃をしたいとなるとどっかから無理にでも戦力を持ってこないといけなくなるわけだが、それがどこからかっていうと……
「襲撃している間はゲートの警備が薄くなる?」
「そう。それで完全に潰せればモンスターによって何万人死のうがどうとでもなる。けど、失敗したら……」
佐伯さんはそう言うと大きくため息を吐き出したが、それも仕方がない。襲撃に成功して完全に異変が終わればゲートを放っておいて出た被害も許容できるが、襲撃に失敗してさらにゲートを放っておいた被害まで出たとなったら目も当てられない。
しかしこのままでいたとしてもいずれはジリ貧になっていくだけだ。それがわかっているからこそ、賭けの要素があったとしても、危険だったとしても、どうあってもやらなければならない。
そしてその襲撃には、最低限対処しなくてはならない場所のゲートの守りだけ残して、集められる限りの戦力を集めることになるだろう。
それは当然『勇者』である宮野と、そのチームメンバーである俺たちもその襲撃に参加することになる。
「先日話し合いが行われて決まったことだが、今日から一ヶ月後。その正午に世界各国が同時に見つけた拠点らしき場所へと攻め込むことになった。君たちはその時に『勇者とその一行』として危険の大きな場所へと言ってもらうことになる。だから——」
そうして、俺たちは敵の拠点を襲撃することとなった。
「準備と、覚悟をしておいてくれ」
叶うなら、この戦いが最後であることを願ってるよ。クソったれな神様よぉ。
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