第157話決着の後で
──◆◇◆◇──
「いやー、まさかあそこから逆転されるとは思いもしなかったなー」
結局、俺たちはまたお嬢様のチームに負けた。
あの最後の宮野とお嬢様の戦い。あれ自体は宮野の勝利で終わったのだが、あれはゲームだ。あの二人の戦いだけで勝敗が決まるわけではない。
お嬢様には勝ったが、ルール的には俺たちの負けとなってしまった。
いや、まさかだな。まさか、あんなふうに負けるとは思ってもいなかった。
「あんたのせいじゃん。宝を守りきれなかった責任とってよね」
「デート一回」
「を、四人分で四回ですね」
「え? え? わ、私もデートするの?」
「当然」
「ざけんな! あんなん防げるわけねえだろっ!」
負けた原因は俺にあるんだと浅田達は言っているし、他のメンバー達もなんか言っているが、ふざけんなと言ってやりたい。というか言ってやった。
「防御を用意した地面ごと抉れてたんだぞ? あの場所を見てみろよ。一切合切何にもなくなってんじゃねえか!」
俺たちは宝に何重にも守りを施した上で地面に埋めていたのだが……うん。守りどころか地面ごと吹き飛ばされた。
そのため、俺たちのチームは宝を失うこととなり、残り時間十数秒というところで負けとなった。
本来は相手チームの宝を壊したらいけないので、お嬢様にも責任があるようにも思えるが、あの場合はどっちかってーと宮野が壊した感じだからな。
確かにお嬢様の攻撃も凄かったが、それの効果のほとんどは地上に向けたれていた。
だが宮野の攻撃そうではない。振り下ろされた剣から放たれた雷はお嬢様の魔法とぶつかり、そのまま地面を砕き、吹き飛ばしたのだ。
二人の魔法がぶつかったせいということもできるが、まあ八割方宮野の攻撃のせいだろう。
「まあ、それはやりすぎたかもしれないですけど、ほら、伊上さんが堪えていれば判定で勝ったかもしれないじゃないですか」
「いや待て、あの暴風と衝撃の中でその場に留まって宝を守るのは無理あるだろ。結界張ったのに壊されたんだぞ?」
咄嗟に結界を晴れただけでも褒めてほしい。
「でも結果は結果よ。あーあ、また負けちゃった」
「しがみついて悲鳴をあげてただけのやつは黙っててくんね?」
「むううぅぅ……なによその言い草。仕方ないじゃん。だっていきなり雷がそばに降ってきたら誰だって怖いでしょっ」
「喰らっても死なないんだから気にするなよ」
「それとこれとは別っ!」
そうして救護室で話していると、誰かが部屋の中に入ってきた。
「——あれだけの試合後だというのに、あなた方は元気ですわね」
やってきたのはお嬢様のようだ。
こっちは特級の工藤と戦って負けた安倍と北原以外は、特に重傷ってわけでもないのだがお嬢様は違う。
宮野と戦ったあとは魔力切れと、宮野の剣を受けたことで、地面に倒れていた。
治癒を施したとはいえ、まだ疲れは抜けていないだろうにわざわざここまできたようだ。
「ああお嬢様。勝利おめでとう」
「……うれしくありませんわね」
「なんだ、あれだけ勝ちたがってたってのに、うれしくないってか」
まあでも、その気持ちもわかる。あれは求めていた勝ちとは違っただろうな。
「あのような形で勝ったと言われても、納得できるはずがありませんわ」
お嬢様は不機嫌そうな表情でそう言うと宮野へと視線をむけた。
だがお嬢様は宮野だけではなくどんどんその場にいた他の奴らにも視線を移していき、最後には俺を見て視線を止めると、ゆっくりとため息を吐き出した。
「それにしても、あれほどまでに無様に泥に塗れて戦ったにも関わらず負けてしまうというのは、悔しさを通り越して情けないですわね。こんな怪我までして……かっこ悪い」
その視線の先には肘から先の服が不自然に途切れていた腕があった。
最後の宮野の剣を受ける寸前に腕でガードしたらしいが、腕ごとぶった斬られたらしい。
まあ治癒師もいたしすぐに治療したので、今ではしっかりと腕がくっついているけど。
しかしまあ、その評価はちっとばかし卑下しすぎだ。
少なくとも、俺はカッコ悪いとは思わなかった。
「無様で何が悪い。泥に塗れて何が悪い」
「え」
「どれほど傷がついてようが泥で汚れようが、本当に綺麗なもんは変わらず綺麗なままだし、かっこいいもんだろ。むしろ傷や泥がそいつの歴史を増やして、価値を上げてくれる」
苦労をしていない、傷一つ負ったことのない奴ってのは確かに綺麗なんだろう。
温室で丁寧に育てられた花みたいにな。
綺麗な姿。綺麗な言動。綺麗な心。
それらに価値がないとは言わないさ。だが、そんなもんは底が知れる。
「だから、その泥臭さを誇れよ。その傷はお前の努力の証拠だ。ついた傷の数だけ魅力的になれるってもんだ」
少なくとも個人的には、前みたいななんでも綺麗に、完璧にこなそうとするお嬢様よりも、泥臭くても勝つために必死に足掻く姿の方がよっぽど好ましい。
「勝負そのものに負けたのは悔しいだろうが、情けなく思う必要なんざどこにもねえ。お前は十分かっこいいよ」
それが偽らざる俺の考えだ。もしあの戦いを見てみっともないだとか無様だとかいう奴がいたのなら、そいつは見る目がない。節穴もいいところだ。
「——つ……次こそは、わたくし達が、勝ってみせます……っ!」
「そりゃあ俺じゃなくて宮野に言えや。そもそも試合そのものは今回もお前達の勝ちだろ」
前回に引き続き、今回も勝負に勝って試合に負けたって感じなんだよな。
「でもまあ、あれだ。——期待してるぞ。飛鳥」
今後も宮野達の良きライバルとしていてくれることを。
それと、純粋に成長した姿を見せてくれることを。
だが、俺がそういうと何か気に入らなかったのか、天智はブスッと顔を顰めてそっぽを向いてしまった。
前に名前で呼べって言われたし呼んでみたんだが……やっぱり馴れ馴れしかったみたいだ。
もしくは生意気な言葉が気に入らなかった?
まあどっちにしても、間違えたものは仕方がない。次からは名前呼びも戻して、色々と気をつけよう。
「ほら、お嬢様。自分を敗者だって言うんなら、敗者はさっさと帰って訓練でもしてろ」
「なんですの、その言い草は」
俺が追い払うように言うと、お嬢様は顔だけではなく声まで不機嫌そうにして俺を睨みつけてきた。
「ですが、そうさせていただきますわ。次こそは勝つために」
しばらく俺を睨んでからため息を吐くと、お嬢様はそう言ってから俺たちに背中を向けて歩き出していった。
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