第146話本命との戦いに向けて

 ──◆◇◆◇──


「みんな、お疲れ様!」

「「「お疲れ様!」」」


 戦いが終わった後、俺たちはゲートを出ると祝勝会的なものをするために適当にコンビニでアイスやジュースなんかを買って、近くの公園のベンチに座ってそれぞれを労い、勝利を祝った。


 だが、勝ったと言うにも関わらず、なぜか北原はあまり浮かない表情をしている。

 どうしたんだろうか? 敵が攻めてきたってわけでもないんだから、負傷したりってのはないだろうし、あったとしてもすぐに治せるだろう。


 と思っていると、北原は徐に口を開いた。


「ごめんね。私は役に立てなくて」


 役に立てなくて、か。どうやら北原はさっきの戦いで自分一人だけが離れた場所に残って戦いに参加できなかったことが悔しいらしい。


「いやいや、役に立ってるって!」

「そもそもの話、このルールだと一人は動けないんだからどうしようもないじゃない」


 そうなんだよなぁ。この『その場から動かずに宝を守る』ってルールがある以上、敵を責める場合は誰か一人は宝の守護のために残らなくちゃならない。


 それに、混ぜ前提から間違っている。

 今回は北原が宝の守護役として残ったが、だからといって、それは北原が戦いに参加していないと言うわけではない。

 北原は直接的な戦いには参加していないかもしれないが、戦いその者にはしっかりと参加していたのだ。


「っつーか、そもそもの話で言ったら役に立ってねえって話が間違いだろ。最初に強化かけてもらわねえと、俺はコイツらに置いていかれることになってたぞ?」


 試合が始まってから俺たちが敵の陣地に向かうとき、最初に北原は俺たち全員に身体強化と守りの魔法をかけてくれていた。

 それがなかったら俺は敵の教導官相手にもう少し苦戦したかもしれないし、体力的にも魔力的にも、相手のところに辿り着くまでに少なくない消耗していたと思う。


 疲れることなく、そしてこいつらに置いていかれることなく走っていられたのは、北原が魔法をかけて支援をしてくれたおかげだ。


 俺がそのことを言うと、なぜか北原ではなく浅田が納得したように何度も頷いた。


「あーね。あんた足遅いもんね」


 浅田は、そう言いながら俺を見て少し馬鹿にするように笑ったが、俺から言わせて貰えるなら、お前と一緒にするなと言ってやりたい。


「脳筋ゴリラと比べないでくれませんかねぇ?」

「誰が脳筋だっての?」

「お前だよ。両手持ちの大きなハンマーを片手で軽々と振り回してんだ。力がねえなんて言わせねえぞ」

「むー……」


 俺の言葉に反論できないのか、浅田は少しだけ不機嫌そうに眉を寄せて唇を尖らせ、小さく唸った。


 そんな反論しない浅田の様子を見て、俺はさっき笑われた仕返しとばかりに鼻で笑ってやったが、脛を蹴られた。いたい。


「まあ気にするってんなら、次ん時にがんばりゃあいいんじゃねえの? どうせ、次はいやでも動いてもらう事になるだろうしな」


 浅田のことは放置して、本題である北原へと視線を戻してから言う。


 今回活躍したかしなかったなんてのは、正直なところはどうでもいい。

 いくら俺たちが「お前は活躍してた」って言っても、本人としては素直に認められないだろうから、その辺は自分でケリをつけるしかない。


 だから大事なのはそんな他人にはどうしようもないもう終わったことではなく、もっと違うこと。

 つまり、次の対戦相手——お嬢様達のチームのことだ。


 どうせ、戦いに参加したくないって言ったところで絶対に参加することになるんだから、活躍を気にするんだったらその時に頑張ればいい。


「次? ……あ」

「天智飛鳥」


 北原は俺の言葉を聞いて次の相手が誰なのか気付いたようで、ハッとしたように顔を上げた。

 そして、安倍の言葉を聞いて、北原以外の二人も真剣な表情へと変わった。


「一応トーナメント形式だし、相手が勝たないと当たらないだろうが、まず来るだろ」

「はい、そうですね。そうします」


 試合の形式上、相手と当たるかどうかってのは確実なことではない。

 俺たちが次に戦う相手はお嬢様達だってのはあくまでも予想でしかないが、多分この予想は外れることはないだろう。


「みんな、次は頑張るから」

「ええ。次〝も〟期待してるわね」


 ──◆◇◆◇──


 二回戦を終えてからまた数日が経った。


 今日に至るまで、やっぱりというか、まあやっぱりあの来てほしくない『竜殺しの勇者』様が毎日のように俺たちのところへ来ていた。


 あいつもあいつで予定があるのか実際に毎日訓練に参加してきたわけじゃないけど、一日に一度は顔を見せにきたので、俺としては非常に疲れる日々となっていた。


 まあ、確かに宮野達にとっては良い対戦相手だと思うんだけどな?

 特に浅田なんかは勉強になるだろう。


 何せジークは魔法が使えない。

 あいつは特級だし、『勇者』なんて呼ばれてるが、宮野とは違って身体能力が高いだけだ。


 それでも魔法も使うことのできる他の勇者達と名を並べているくらいなんだから、それはとても凄いことだ。


 そんな魔法の使えない身体能力が高いだけのジークだが、浅田も同じようなもんだ。魔法は使えず、力においてのみ特級に迫るくらいの身体能力を持っているだけ。


 もちろん特級と一級では総合的な力は違うんだが、それでも同じような能力をしている浅田にとっては、ジークの戦いってのは参考にすべきところばかりだろう。


 俺はこいつらに戦いの運び方は教えられても、戦い方そのものを教えることはできないから、勉強になったと思う。


 ……まあ、その代償として俺があいつの話に付き合わなくちゃならんハメになったんだがな。


「さて、今日は第三試合。つまりはお嬢様達との勝負になるわけだが……準備はどうだ?」

「完璧です」


 だがまあ、そんなこんなで、ようやく今日がやってきた。

 ついに因縁の相手とも言えるお嬢様のチームとの勝負だ。今までの訓練が役に立つだろう。


「そうか。なら行くか?」

「そうですね。そろそろ行きましょう」


 宮野の言葉に他のメンバー達も頷くと、俺たちは立ち上がって待合室の外へと出ていった。


「——っと、噂をすれば影ってか」


 だが、部屋を出てゲートに向かおうとしたところで、偶然にも対戦相手であるお嬢様のチームが歩いてるのを見つけてしまった。

 どうやらあっちもこれからゲートに向かうようだ。


「え? ——あ。天智さん」


 俺が立ち止まったことで不思議に思ったのか、宮野は疑問の声を出しながら俺の後ろから顔を覗かせて廊下を見た。


「おはようございます、皆さん」


 お嬢様は宮野の声に反応すると足を止め、こちらへと振り返って挨拶をしてきた。


 そしてお嬢様は宮野だけではなく、その後に部屋から出てきた浅田達全員を見回すと、再び宮野へと視線を戻した。


 宮野とお嬢様は数秒ほど見つめあっただろうか。


 その表情には以前のような侮りも慢心もなく、一切の油断を感じさせない真剣なものだった。


「今日は勝たせていただきますわ」


 お嬢様が徐に口を開くと、それだけ言って再び俺たちに背を向け、仲間達と共に歩き去っていった。


「——言われたな。どうする?」

「どうするも何も、今回は私たちが勝ちます」


 お嬢様に触発されたのか、さっきまではまだ少しばかり緩んだ雰囲気だった宮野の表情は真剣なものへと変わり、浅田達も同じようにその身に纏う雰囲気を変えていた。


 調子としては完璧だな。後はどこまでやれるかだが……


「それじゃあ、行くぞ」

「「「「はい!」」」」


 こいつらなら今度こそ勝てるだろう。

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