第116話必要なものなんです
「必要なのはまず魔力だが……これでいいか」
まず最初に取り出したのは、すぐそばにあった大型の保存容器。その中にあった雨飴だ。
これはクラゲ達の餌になって魔力の補充源となっているが、それは同時に俺たちにも同じことができると言うこと。
まあモンスターと人間とでは魔力の回収効率は変わるが、使えないことはないし、これだけ大量にあるのなら足りるだろう。少し面倒だが、足りなかったら周りから集めればいい。
「次に、水銀と術者の髪と対象の一部——は原因の大元を捕まえるとして……いや? 一応こいつらも入れておくか」
水銀ってのは呪術や呪いの類には定番だ。使用どころか保持するだけで資格がいるものだが、まあ資格は取った。
本来は毒物や劇物の扱い資格の取得はそれなりに難しいものだが、俺の場合は冒険者ってことでごく限られたもので使える資格だから簡単だった。
術者の髪は問題ない。
坊主とかだったら難しいかもしれないけど、俺はそれなりに伸ばしてるからな。ナイフでスパッと切るだけでおしまいだ。
あとは対象について。
一応今ある触手だけでも使えないことはないが、生きたままボスと繋がっている奴を使った方がいい。
これだけ周りにいるんだし、捕まえること事態は難しくないはずだ。使わない手はないだろう。
「浅田。あいつを捕まえてこの容器の中に入れておけ」
そう言って俺は宮野の持ってきた回収容器を示した。
中には雨飴が入っているが、それを出せば檻の代わりになる。
この中で一番余力を残してるのは浅田だろうし、捕まえるのに適してるのもあいつだろう。
だから俺は浅田に頼んで、あいつがクラゲを回収している間に俺は次の準備へと移る。
「あとは術の象徴には……繋げた人形でいいか」
二体の人形——はなかったので、適当な布切れや棒状のものを使ってそれっぽいものを二つ作り、それを紐で繋いだ。
そしてその腹の部分にナイフを突き立てて傷を作ると、ナイフを抜いてもう一体の方の腹へと突き立てたが、今度は抜かずに放置する。
この象徴ってのは曖昧な割に結構重要な役割を果たす。その役割を言葉にはしづらいんだが、なんかこう、イメージの具現というか、明確な形とすることで安定させるというか……まあなんかそんなすごい説明しづらい曖昧な感じだ。
と言うか、そもそも呪いって技術自体が結構曖昧なんだよな。直感というか、感性が大事な術だ。
だからあまり得意ではないんだが、できないわけではないし、やるしかない。
ちなみに、今回のこれが意味してる事は、クラゲ達の繋がりと、多分いるであろう黒幕の繋がり、それから俺との繋がりを示し、一人が傷を負えば繋がっている奴全員が傷を負う、みたいな意味だ。
「それに、処女の——」
そうして準備を進めたのだが、最後の一つになって言葉を止めてしまった。
いや、というか、止めざるを得なかった。
「? ……何?」
やべえ、どうすっか……。なんて考えていると、俺の様子がおかしいことに気づいたのか、クラゲの回収を終えた浅田が俺を見て問いかけてきた。
ちなみに宮野と安倍はクラゲ退治に戻っており、北原は少しでも集中するためか目を閉じて瞑想状態に入っていた。
だが、浅田の声を聞いたからか、他の三人も全員が俺へと視線を向けた。
「…………あー、こんな状況で聞くのもあれだし、聞いたらまずいような気もするが、むしろこの状況だから聞かせてほしいというかなんというか……」
いやあー、これ本当に聞いてもいいのか? まずいだろ、どう考えても。
でも聞くしかないというか、聞かざるを得ないというか……。
聞かなくてもなんとかなるとは思うんだが、それで万が一にでも間違えたら目も当てられないしなー。
……やっべえ、まじでどうする? 言っていいのか? 本当に? 聞くの?
状況が状況だから仕方ないとも思うんだけど……えー?
「どうしたんですか?」
「何よ。さっさと言いなさいってば」
だが、急いでいるはずの状況だというのにいつまで経ってもはっきりしない俺の様子に宮野は不安そうに、浅田は少し苛立ち気味に急かしてきた。
………………仕方ない。いや、うん。仕方ない。言うしかないよな。……はあ。
「じゃあ聞くが………………お前ら、処女か?」
軽く深呼吸をしてからそう問いかけると、瞬間、その場に静寂が訪れた。
相変わらず周りは雨の音やクラゲ達が結界を叩く音でうるさいし、さっきから話しているのもほとんど俺だったので話し声が聞こえなくても状況的には何も変わっていない。
だが確実にその場の空気が凍りつき、結界の中と外で切り離すかのように俺たちの周りだけが静まり返った。
「しょっ!?」
「なっ! あっ、なっ!?」
「ひうっ……」
「おい結界! 結界歪んでるから北原!」
そして俺が言ったことを一拍遅れて理解したのか、宮野と浅田と北原は突然の言葉に驚きを示し、北原なんかは結界の維持に綻びが出てしまっている。
だがそうだろうな。俺みたいなおっさんに突然こんなことを聞かれたら、驚いて当たり前だ。
女子って割と〝そういう話〟をしてるって聞いたことがあるだけに、耐性があってそれなりに驚かないでいてくれるかも、なんてことも期待したがちょっと思った以上に反応されてしまった。
しかしまあ、よく考えれば無理もないのかもしれない。
だってこいつら、誰かと付き合ったことはない、みたいな話を聞いたことがあるから多分生娘だろうし。その手の話もあまりしなかった、もしくは全くしなかったのだろう。
それでも普段のような冗談まじりの会話ならまだ良かったのかもしれないが、命をかけた真剣な時に突然言われたら驚くに決まってる。
……よく考えたら、いやよく考えなくても普段の会話でも年頃の女の子に処女かどうかなんて聞くのはアウトだわな。
どんな状況で聞いても驚かれるに決まってる。
「……ん。そう」
「晴華!?」
だがそんな三人が驚いている中で、唯一安倍だけがなんでもない事のように頷いた。
ああいや、反応が遅れてたし、よく見ると視線を逸らしてるから恥ずかしがってはいるのか。
だがそれでもはっきりと頷いて答えてくれた。
……ありがとう! そういう普通のなんでもないかのような反応をしてくれてマジ感謝だ!
「私たちに恋人がいないのは知ってるはず。なら、予想くらいついてると思う」
「それはっ! ……そう、かも知んないけど……」
浅田は安倍の言葉に動揺して顔を赤くし、何かを言おうとしたのだろうがその言葉尻は段々と小さくなっていった。
「でもそれとこれとは別でしょ!?」
だがそれでも言いたいことはあるのか、なぜか突然立ち上がって叫んだ。
多分動かずにはいられないとか、なんか動いてしまったとかそんな感じだと思うが、まあ気にすることでもないだろう。
「コースケは必要だから聞いた。なら、ここで変に恥ずかしがるのは違うし、迷うだけ対処が遅れる」
「そ、れは……うー……あー……っ!」
浅田は安倍との会話で恥ずかしかったのかあちこちへと視線を向けたが、不意に俺と目が合い、浅田はキッと俺を睨みつけた。
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