第115話クラゲの倒し方

 

「北原だけは結界を維持しつつ、全員集まれ」


 俺は手に刺さったままだった触手を抜き取ると、結界の外に捨てようとして、だが思いとどまってそばに置いた。


「駆除はどうするんですか!?」

「それは続けてくれ。ただし、宮野はこの後すぐに行動できるように余力を考えておいてくれ」


 そうして俺たちは円を組んで集まり、中心に俺の持っていたケータイを置いて話し合いを始めた。


「こいつだ。砂漠にいるモンスター」

「確かにここは一応砂地もあるけど、砂漠じゃないですよね?」

「なんでそんなのがここに?」

「さあな。だが理由はこの際どうでもいい」


 多分誰かが持ち込んだんだろうと思っているが、確証があるわけでもないし、それを今こいつらに話す必要はないだろう。


「最悪なのは、そいつらは魔力を吸って分裂と再生をすることだ。本来は砂漠型のダンジョンっていう魔力の少ないところに出てくるからそれほど脅威じゃないが、今は場所がここだ。まあ見ればわかると思うけどな」

「魔力を吸っての分裂って、どうすんの? あの飴、魔力の塊なんでしょ?」

「可能性としては、これだ」


 そう言って俺はさっき抜いた触手を全員の前に出して見せた。


「触手?」

「さっきあんたが馬鹿なことやってたやつでしょ?」


 馬鹿なことねぇ。あれには理由がちゃんとあるんだが、まあわからないやつから見たら馬鹿なことだろうな。


「ああ。だが、そんな馬鹿なことには理由がある。あいつら、全部繋がってるんだよ」


 俺は触手を見せながらさっき確認したことを話す。


 だが、話を急ぎすぎたせいで言葉が足りなかった。

 そのせいで『繋がってる』なんて聞いても、宮野達は顔を見合わせたり首を傾げているだけだった。


「繋がってる、ですか?」


 急ぎすぎて説明をおざなりにして失敗しても意味がない。

 なので一旦落ち着くために深呼吸をしてから宮野の問いに答えていく。


「そうだ。浅田に探してもらってたが、多分ボスがいる。そいつは全部のクラゲと繋がっていて、子分達の集めた魔力を回収してる」

「だから何? こいつらをいくら駆除しても意味ないってこと?」

「それはまあそうだが、そうじゃない。俺が言いたいのは、ボスを見つけ出してそのボスから子分達へと伸びている繋がりを使えば、全部駆除できるってことだ」

「そんなことができるんですか?」

「できる」


 ボスと子分たちの繋がりは見つけることができたんだ。駆除そのものは失敗することなくできるはずだ。


 その後はどうなるかわからないが、まずは現状を打破することが大事なので、その後のことなんて後になってから考えればいい。


「むしろ、それ以外だとどうしようもない。ダンジョンの奥に進んでダンジョンごと破壊すルコともできなくはないが、ここからだと走ったとしても何日もかかるし、そもそもこいつらをどうにかしないとまともに進めない」


 ダンジョンの核は過去の冒険者達の行動によって場所が判明しているが、それを壊すためには何日も移動しなくてはならない。


 それに、その方法だと核を壊してからダンジョンを抜け出さないといけないわけだが、このクラゲ達はずっとついてくるだろうし、流石にそんなずっとなんて宮野達の魔力も体力も保たない。

 特に北原。攻撃をずっと受け続けながら結界を張り続けるのはそれなりにきついはずだ。


 加えて、そんなことをしている間にこのクラゲ達は対処不可能なくらい数を増やすことになるだろう。


「でもさ、さっきあんたに言われて異常を探してたけど、何にもいなかったじゃない」

「多分場所が悪い」

「場所?」

「俺たちがいるのがこの辺。最初にクラゲを見たのがここで、数が多くなったのがこの辺。更にこの辺は数が増えてるって宮野が言ってたことを考えると——」


 ケータイの画面をいじりながらこのダンジョンの地図を出してそれを指で示す。


「多分敵の分布はこんな感じだ。で——ここ」


 五人で見るには少し画面の大きさが小さいが、全員目は悪くないわけだし十分に見ることができるだろう。


「多分だが、異変の大元はここにいる。敵の数が多くなっている方向だ。円の中央にボスってのは、定番だろ?」


 ボスがいるのはほぼ確定だが、それがどこにいるかってことまでは分からない。

 分かるのは、これまで見てきた敵の分布から多分こっちの方にいるんだろうな、ってくらいだ。


 だが、どこか巣穴にでも引っ込んでいないのなら、子分たちが吸収した魔力を回収するんだったら中心にいるはずだ。

 仮に巣穴に引っ込んでるにしてもクラゲ達はその場所を中心として広がるだろうから、探す方向性としては敵の多い方ってのは間違っていないと思う。


「で、そいつを見つけ出してこのナイフを刺してもらえれば、さっき言った『繋がり』を使って俺がそこに呪いをかける」


 そう言いながら俺はナイフを取り出して宮野達の前においた。


「呪い?」

「そうだ。相手の魔法を暴走させて、相手にかかっている魔法とその術者を呪う」


 呪術は俺の専門ではないが、使えないわけじゃない。簡単なものだが、そのための道具もあるしな。


 以前学校の大会で戦った特級冒険者の工藤にも呪術を使ったことがあるが、今回使うのはそれよりももっと強力なもの。

 専門ではない俺が使えば、その代償として自分にも呪いが襲いかかる。


 人を呪わば穴二つ。

 まさにその通りだ。敵にかけた呪いは俺自身にも牙を剥く。


 しかも今回は工藤に使ったものなんかよりももっと強力な特別製だ。もしかしたら結構ヤバめなことになるかもしれない。


「あー、そういえば、あんた呪術もできるって言ってたっけ」

「できそうなことは一通りできるようにしたからな。ただ、俺は素人なんでな。しかも効果を高めるために正当から外れためちゃくちゃな方法でやるから、これをやると呪いが逆流してしばらくまともに動けなくなる」

「ちょっ!?」

「逆流って、大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃない。が、やるしかないだろ」


 だが、終わった後に何かあると分かっていても、それでも俺はやるしかないのだ。じゃないと俺はこいつらを守れず、このダンジョンから出ることができないのだから。


 だから、自分の呪いにかかってぶっ倒れる程度、受け入れてやろう。

 よく言うだろ? 死ななきゃ安い、って。


 俺の言葉を聞いた宮野達は、全員が表情を歪めながらも、状況は理解できているのか何も言わずに黙ったままだった。


 そんな宮野達の様子を見てフッと小さく笑った俺は、呪いをかけるための準備を始めた。

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