第114話解決策、発見

 

 砂漠のある地域でよく見られる? 日本にはいない?


 その見つけたデータに書かれていたのはこうだ。


 ・対象モンスターの階級は二級。

 ・魔力の乏しいダンジョン——主に砂漠系統で見られる。

 ・触手の先端にある棘で敵を刺し、そこから魔力を吸収する。

 ・周辺の生物の精神に干渉して自分達の方へと引き寄せる。その際に該当モンスターの数が多いほど効果は強力になる。

 ・攻撃性は低いが、自身から離れようとすると攻撃してくる。

 ・魔力を食事として分裂、再生を行うので、魔力の補充さえさせなければ数は増えず、脅威ではない。

 ・過去、安全を確保し、安定した素材の回収をするために発見ダンジョンにて殲滅作戦が行われたが、作戦は失敗。全滅は不可能。


 一通り必要なことを見た限りだとこんなもんだ。

 正直なところ、悪態をつきたくて仕方がない。


 だが、俺がそんなことをすれば宮野達は不安に思うだろう。

 だから表面上は何もないように努める。それでも多少は顔をしかめてしまったが、クラゲ達の対処に集中してる宮野達には見られていないと思う。


 にしても、精神干渉か。

 俺はここに至るまで何度か違和感を感じていた。本当にこっちに進んでいいのか、このままでいいのかって感じのやつだ。

 宮野も違和感を感じていたようだし、多分自分達の方に獲物を引き寄せるって精神干渉の効果のせいだろうか?


 防御用の装備を持っているのにそれを貫通して効果を出したのは、その数に応じて効果が増すからだろうな。流石にこれだけの数がいたらそれも理解できる。

 ここにある情報で想定されてるのは、多分最大でも百、あっても千ってところだろう。


 だが、ここには千どころか万ですら済まないような数のクラゲがいる。


 本来はここまでの数に増えることはなく、そのために二級という判定を受けていたのだろうが……くそっ、甘く見ていた。

 油断なんて言葉じゃ片付けられないほどの失態だ。


 だが、反省は後だ。今はそんな無駄なことをしてる場合じゃない。少しでも速く打開策を考えないと。


「浅田、ボスはいたか? それから敵の状況は?」

「ボスは見つかんない。それとあいつら、飴食べて分裂してる!」


 調べた情報と現実を擦り合わせて考えるために、周囲の確認を頼んでいた浅田に尋ねたのだが——これだ。


 確かに情報は間違っていないし、モンスター自体は弱いのだろう。

 試した感じでは手を抜いた俺の攻撃でもそれなりに削れたしな。普通なら遭遇したとしても問題はない。


 が、それも数が少なければ、だ。


 魔力が乏しい環境ではそれほど数も増えずに危険も少ない。


 だが、ここは一応砂漠地帯も入っているダンジョンではあるが、常に魔力のこもった飴が空から降ってくる場所。あのクラゲ達の餌に限りはない。


 あいつにとっては相性最高。俺たちにとっては相性最悪なダンジョンってわけだ。


 だが、それにしてもまだおかしいと思ってしまう。


 確かにここは砂漠系のダンジョンと言ってもいい。

 あいつらにとって餌となる魔力が豊富にある。


 だが、それだけであいつらは生まれるのか?


 もともといたモンスターと生態系の関連性がないし、いくら回復できるからって雨飴に打たれて体にダメージを負いながら再生と分裂を繰り返すか?

 そんなダンジョンより、もっと普通に魔力の豊富な場所で出るもんじゃないか?


 もちろん砂漠と魔力という条件が揃っていたから発生したとも考えられなくもないが……なんとなく何かがおかしいような、すっきりとしない感覚がある。


 例えるなら、誰かが手を加えたような感覚。


 それっぽく作った人工物を、これは自然のものですって紹介されたような、確かに自然っぽいんだけど、どことなく馴染んでいないような——ああ、迷彩服みたいなもんだろうか?


 良い迷彩服を着たやつってのは、よく見なければ周囲の景色と見分けがつかない。

 だが、なんとも言えない違和感ってものがある。

 何かがおかしいようなおかしくないような、普通じゃないものが紛れ込んでるような、そんな違和感。


 それをこのクラゲからは感じる。


 その理由の一つとして、ボスの存在だ。


 俺の今調べた情報にはボスなんて書かれていない。

 だが、俺の仮説としてはボスがいる。


 この食い違いは単に俺の考え違いだろうか?

 もしくはもっと違う……例えば、イレギュラーの中のイレギュラー——変異種が発生した、とかじゃないだろうか?


 もし仮にその仮説が正しいとするのなら、一応他の異常も説明がつく。


 たとえば、さっき考えたこいつらの攻撃の条件だ。

 俺たちはクラゲのモンスターを置き去りにして進んでいった。

 全体としては危険へと近づいているように思えるが、クラゲのモンスターという『個』から見れば離れていっている。


 だというのにクラゲ達は本来の性質とは違い離れていく俺たちを襲うことなく、代わりにというか、クラゲ達の分布が多い方——おそらくは中心から離れようとした時に攻撃を受けた。


 それは『個から離れる』ではなく、『ボスから離れる』という条件を満たしたから攻撃してきたと考えられる。


 その場合はクラゲはなんらかの手段を持ってして俺たちを監視しているってことになるんだが、まあその方法ってのはクラゲ達とボスはなんらかの方法で繋がっていて、見たものだとか感じたものの感覚を共有してるんだろうな。


 ——で、そんなただでさえ発生した理由に疑問があるってのに、その中でも明らかに異常なクラゲがなんにもなく発生すると思うかって言ったら、そんなことはあり得ないとはっきり言える。


 ほぼ間違いなく誰かが何かをしたんだろう。


 だが、確かにこんな状況を作った犯人がいるならそれはクソッタレなことだが、同時に希望が持てることでもある。


 もしボスがいて、そいつと他のクラゲ達の間に通常はないはずの繋がりがあるのであれば、ボスをどうにかすれば解決できるかもしれない。


 問題はその『どうにかする』って部分をどうするかってことなんだが、少なくとも、一体一体潰していくってよりは希望がある。


 それに、これをどうにかできれば、とも思う。


 このクラゲが本当に人の手が入ったものなら、犯人はこいつを使って何かをしたかったってことだ。

 その場合、なんらかの形でこいつに手を加えたやつに繋がっている可能性がある。

 何せ、自分の狙いが達成できたのか確認する必要があるからな。


 だから、その繋がりを辿って攻撃することができれば、なんとかなるかもしれない。魔法版のハッキングみたいなもんだ。

 まあ、そっちはついでにうまくいったらいいな、程度のもんだけどな。


「……いけるか?」


 不安はある。

 本当に俺の考えがあっているのか。本当にそれで倒せるのかって。


 だが、それでもやってみるしかない。やらないことにはこの状況から抜け出せないというのが現状だ。


 ……調べてみるか。


 そう考えた俺は、結界の端まで移動して手を前に出した。


「伊上さん! 何かわかったんですか!?」


 俺の行動に目聡く反応したのは宮野だった。

 宮野は俺たちのいる結界を壊そうとしているのか集まってくるクラゲを攻撃しながら、僅かにこちらに視線を向けながら問いかけてきた。


 そんな言葉で一瞬だけ俺の手は止まったが、そのまま結界の外に手を突き出した。


「ぐっ!」


 その瞬間、俺の手にクラゲの針が刺さり、そこから魔力を抜かれていく感覚がした。

 一応魔力の制御だけならそれなりに自信があるので、制御を手放さなければ干からびるほど抜かれるってことはないが、それでも多少は吸われてしまう。


 だがそれでいい。


 だって……ああ、やっぱりな。


 ——見つけた。


「ちょっ! 何やってんの!?」


 そんな俺の奇行に反応した浅田が、自身の手を結界の外に出して俺の手に刺さったクラゲの触手をちぎると、俺の手をとって強引に結界の中へと手を引き戻した。


 結界の中に引き戻された俺の手には未だにクラゲの触手が刺さったままだったが、そんなことが気にならないくらいに喜びがあった。


 やっぱり俺の考えは正しかったようで、吸い取られた先に『何か』がいた。

 俺から吸った魔力は、その何かへと送られていた。


 それは今回の件を起こしたかもしれない黒幕なのか、それともこいつらの元締め的なボスなのかはわからない。

 だが確実に中心となっている『何か』がいた。


 繋がっているのがこいつだけってわけがないし、全部が繋がっていると考えるべきだろう。


 なら——やれる。

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