第74話襲撃

「っ! なにっ!?」


 しかし、教師でさえ何も理解していない状況の中にあっても、宮野は俺と同じように殺意に気づいたようで、咄嗟にその場から飛びのいた。


 そしてそれは宮野だけではなく他のメンバー達も同じだ。


「周囲警戒! 敵不明! 近寄るものは全て敵と思え!」


 試合中に場外からの攻撃なんてのは、明らかな異常。

 俺は以前から宮野を狙っている連中の話を佐伯さんから聞いている。


 国としては『勇者』を失いたくないはずで、佐伯さんは国の機関で働く人だ。ならばそこからの情報は間違っていないだろう。


 もしその考えが間違いで、これが宮野達に恥をかかせようだとか恨みを持っての犯行ならそれはそれで構わない。


 だがそうでない場合、これから起こるのは——


「ぐああああ!?」


 そこまで考えたところで、今度は先ほど攻撃が飛んできた方向とは別の場所から悲鳴が聞こえた。


 その声にとっさに振り向くと、生徒が生徒を襲っていた。


 どうやら本当に敵がいて、そいつらは学生も教師も関係なしに学校中に潜入しているようだ。どうせこいつら二人だけってこともないだろうしな。


 そう考えていると、さらに教師の中から宮野を狙う奴が現れ、建物の外からも魔法が放たれてきた。


「救世者軍の襲撃だ!」


 確証はないが、近いうちに日本で動くって話も聞いてたし、多分そうだろう。


 実際に救世者軍なのかは分からないが、間違っていたとしてもとにかく明確に『敵』がいるんだとはっきりさせることが重要だと判断し、俺はその場にいる全員に聞こえるように大きな声で叫んだ。


「教師の中にも紛れ込んでるとは、面倒な……」


 生徒の中に紛れているのはまあ構わないが、教師の中だと話は別だ。

 教師の中から裏切り者が出ると、本来指示を仰ぐはずだったが、それができなくなる。


 誰を信じていいのか、そもそも信じてもいいのか分からない状況だと、まとまりがつかず、ただ狩られていくだけになる。


「学生と教師の中に敵が紛れてる! 全員他のチームから距離をとってチームごとに固まれ! 不用意に近寄るやつは知り合いでも敵だと思え!」


 なので、とりあえずそう叫んでおいた。信じる信じないは別にしても、支持があるのとないのじゃ違うからな。


 少なくとも、俺は俺のことを信じられるので、動いた先の状況について多少は判断しやすくなる。


 この指示にしたがわない奴もいるだろうが、そこまでは面倒を見切れない。


 そうして叫んだ後はケータイを取り出して電話をかける。


『なんだいいが——』

「佐伯さん、学校に襲撃がありました。助けをお願いできますか?」


 かけた先は政府の組織である研究所の佐伯さんだ。下手に警察にかけるよりも知り合いだしスムーズに話が通るだろうからこっちの方がいいと判断してのことだ。


 だが……


『そっちもか! すまないがこっちも襲撃を受けている!』


 電話の先から佐伯さんの焦るような声が聞こえた。


「そちらも? ニー……あいつはどうしたんですか? あいつがいれば多少の損壊はあっても、時間がかかるってことはないでしょう? 少数は取り逃すかもしれませんが、残党狩りなんて——」

『違う! アレは今特級ゲートの処理に出てて日本にいない!』

「いない? ……援軍は、無理そうですか?」


 佐伯さんのいる研究所は国の施設であり、場所が場所だけに相応の防衛能力がある。

 その大半は内のものを外に出さないようにするためのものだが、当然ながら外から内に入らないようにするためのものでもある。

 そんな物騒な場所、普通は襲撃なんてしようとは思わないだろう。


 だが襲撃された。


 本来襲撃されない場所が襲撃されたってことは、かなり周到に用意したってことだ。

 それほどの戦力を相手にするのなら、あいつがいないとなると、時間がかかるだろう。


『すまない。他の近くの施設にも連絡はしてあるし、国にも連絡そのものはいっているはずだからすぐに援軍は来るだろう。けど、多分早くても一時間後だ。だがおそらくは……』

「一時間……」


 しかもそれは他の場所になんの問題もなかった場合での最速だ。

 佐伯さんが言葉を濁したように、もし俺たち以外の場所でも襲撃があればもっと時間がかかる。


 ……最悪の場合、丸一日くらいが〝最低〟だと思っておいた方がいいだろうな。


「わかりました。できる限り早い援軍を待ってます」


 俺はそれだけ言うと相手の返答を聞かずに電源を切ってポケットに戻した。


 そして周囲の状況を確認するために見回してみたのだが、宮野が不安そうに俺の方を見ている。


「これってもしかして……わ、わた——」

「違う。それにしちゃあ様子がおかしい。とりあえず広いところに出るぞ」


 本当に違うかなんてのはわからない。

 ただ、今ここで認めると、こいつの動きに影響が出る。だったら事実とは違っていても否定したほうがいい。


「広いところ? このまま訓練場の中にいるんじゃダメなの?」

「そ、そうだよね。ここは訓練用に丈夫にできてるんだし、ここで守りを固めた方が……」


 俺の言葉に浅田と北原が疑問を投げてきたが、俺はそれに首を振る。


「確かにここは丈夫だが、敵はこっちを殺す気できてる。この建物だって、爆弾なんかを効率的に使えば三級の俺でも壊せるんだ。最悪の場合、この建物ごと壊されて下敷きになるぞ。それよりはまだ外に出た方がマシだ」


 とはいえ、それだけならどちらがマシかと言ったら状況によるとしか言えない。


 だが、今は建物ごとの爆破について以外にも、考えなくちゃいけないことがある。

 先ほどは建物外からの攻撃もあった。つまりここは敵の手の中ってことだ。


 そうなると、ここに留まっていても危険度としては変わらないと思う。


 むしろ、建物ごとの生き埋めを除外できるし、最初から周り全てが敵だ、いつどこから攻撃が来てもおかしくない、と思っておけばそっちの方が安全かも知れないとさえ思える。


「広いところ……集団演習場なんかに出れば敵による襲撃はあるだろうが、不意の崩落に巻き込まれることはなくなる」


 警戒するべき最悪は、建物ごと生き埋めにされることだからな。

 それで死ななかったとしても、短時間でも身動きが取れなかったらやばい。


 だったら外で狙われた方がマシ、そういう判断だ。


 何時間も耐えるんだったら遮蔽物のある場所の方が安全だが、三・四時間程度ならこいつらなら遮蔽物なしの場所でも集中を切らさずに守り切れるだろう。


 それに、宮野と安倍にとっては周りの被害を心配しながら戦うより、遠慮なくぶっ放した方がストレスなく戦えるだろう。


 ちょっと耐えてそれでも援軍が来ないようなら、その時には状況次第で場所を移せばいい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る