第75話迎撃準備
「あ、あの……」
「あん!?」
「ぅあっ……す、すんません!」
だが、さあ行動するぞと言うところでなんともハッキリとしない、そもそも聞いたこともない声に呼ばれ、勢いを止められた俺は若干苛立ちながら返事をして振り返った。
「チッ! なんだ?」
そこには俺よりは若いものの、しっかりとした鎧を身に纏った二十過ぎの男がいた。多分こいつも教導官なんだろう。
「あ……お、俺たちはどうすれば」
……知るか! お前も教導官なら自分たちで対処しろ!
そう言ってやりたいが、こんなところで言い争ったりしている時間はない。
それに使えるのなら一緒に行動したほうが役には立つ。
今の俺の目標は宮野達を無事に守り切ることだ。そのためならば他の奴らが死にそうでも見捨てるつもりだ。どうせ、いろんなものを抱えたところで俺には守りきれないんだから。
だが、大した手間もなく助けることができるのなら、手を差し伸べてもいいと思っている。
……裏切り者の可能性もあるから完全に信用なんてできないけどな。
「……ついてきたいなら好きにしろ」
「じゃあ……」
俺の答えにパッと明るい表情になった教導官の男だが、話はそれで終わらなかった。
「で、でも、ついて行ったって安全な保証なんてどこにもないんだろ!?」
「そ、そうだ! それに、なんであんたに従わないといけないんだ! あんたは三級なんだろ!?」
緊急事態であるにも関わらず、他の生徒や教導官達が文句を言い、それに便乗するかのように他のもの達も騒ぎ出した。
……こいつら、状況がわかってないんだろうか?
はあ、と軽く息を吐き出してから拳銃を取り出し、パンッと一度誰にも当たらないように撃つ。
ここにいる奴の大半はこんなおもちゃを喰らっても大した怪我もなく生きてられるだろうが、それでも突然の大きな音にビクッと反応して動きを止めた。
「言ったろ、好きにしろって。来たくないならこのままここにいればいいし、どこへなりとも行けばいい」
さっきも言ったが、俺は宮野達を守るために行動する。
死んで欲しいと思っているわけではないので、ついでに助けられるようならば他の奴らも助けるが、邪魔になるのならわざわざ時間を割いてまで助けるつもりはない。
「私はついていきますわ」
「あ? ……ああ、お嬢様か」
俺の言葉に黙り込み、困惑し始めた生徒達だが、その中から聞き覚えのある声の主——天智飛鳥が前に出てきた。
「以前の戦いを経て、あなたのことはそれなりに調べました」
「で、俺に任せるのがいいと?」
「ええ」
その答えには迷いはなく、以前のこいつの態度からでは考えられないことだった。
「それが間違ってる判断だとしたら?」
「その場合は自身の手で道を切り開き、仲間を、皆さんを守ります」
「……まあ、さっきも言ったが勝手にしろ」
背後にいたこいつらの教導官であり特級の覚醒者である工藤へと視線を向けたが返ってきたのは笑顔での頷きだけだった。
俺自身にはわだかまりもないし、こいつらがいいと言うのなら一緒に行動しても構わないだろう。戦力になるのは確かだしな。
そうして特級である天智までもが俺の意見に従うとの言葉を聞いて、さっきまで文句を言っていた者達も黙って俺についてくることにしたようだ。
手のひらを返したようなその態度にいささか不安を覚えるが、今は気にしないことにする。とりあえずここを離れて体勢を整えるのが先決だ。
人数が多いとその中にいる裏切り者への警戒に割く力も必要になるんだが、その辺は先の襲撃であらかた退治できただろう。
まだ残っていたとしても、その対処は工藤に言い含めて任せておけばいい。
あいつは怪我をしてて長時間の戦闘はできないらしいが、腐っても特級。ダンジョン内で五年生き延びてきたんだしそれくらいの対処はできるだろう。
そう判断すると、俺は訓練場を出て広さのある演習場へと向かった。
途中でも襲撃はあったが、散発的に襲い掛かられるだけだったので集まっている生徒達だけでなんとかできた。
俺たちが出て行った後に少しすると背後から轟音と倒壊音が聞こえてきたので、やはり生き埋めにする予定だったのだろう。
……生き埋めになんてされたら、動けないところにさらに強力な一撃をもらってただろうな。
そして演習場にたどり着くと、俺はついてきた生徒達に指示を出し始めた。
「土系の魔法使いは高さ一メートル横三メートルのちょっと攻撃を受けても壊れない防壁を作れ」
屋内だと生き埋めの可能性があるから問題だが、遮蔽物があった方がいいってのは間違いない。
盾の役割だけではなく、自分たちの周囲を囲んで範囲を限定することで、動きやすさも変わるしストレスも減るからな。
「水系は目の前にの地面に水を撒いて泥にしろ。ぬかるみが酷ければ酷いほどいい」
攻撃方法としては遠距離か近距離に分かれるが、ぬかるみがあれば近距離は力を発揮しづらいので、遠距離への警戒に力を割ける。
「風は上からの攻撃を防ぐために周囲の風を動かしておけ。できることなら風を動かすパターンは不定期にランダムで変えてほしいが、その分負担も大きくなるからその辺はお前らで話しあって決めろ」
そして、こうしておけば遠距離も一定以上の威力のものでないと到達しない。
速さを重視して制御を甘くしたり透明化に力を割いているようなものだとクリティカルは出ないだろう。
爆発物を投げられたら爆風の被害とかは出るだろうけど、直撃はないはずだ。
「火は敵が来た際のメイン火力で、近接は敵が近寄った際にこの場所を守れ。他の奴らは上空からの攻撃を警戒しろ」
後は風では防げないような強力な遠距離の警戒だが、これはその場にいる全員で一人一つの方向を警戒させておけばいい。
強力な攻撃ってのは準備にそれなりの時間と手間がかかるもんだから、異変を感知した瞬間に攻撃すれば防げるはずだ。
もちろん見逃しもあるだろうから複数人で一方向を担当させるが。
「来たぞ!」
そうして準備をしていると、さっきまでの散発的な襲撃ではなく、遂にまともな襲撃がやってきた。
周囲は開けているのでどこから敵が来るのかすぐにわかるし、それは遠距離からの攻撃も同じだ。
矢は魔法は俺たちに届く前に効果をなくして弾かれ、強い魔法はその初動を見逃さないことで対処する。
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