第63話研究所の紹介
──◆◇◆◇──
「で、どういうこと?」
なんで俺はこんな尋問を受けているんだろうか?
昨日はあの後、特に浅田たちと会話をすることなく迎えの車との待ち合わせ場所に行った。
元々時間を過ぎてたわけだし、余分なことで時間を取られるわけにはいかなかいからな。
……決して問題の先延ばしだとか面倒になったからとかじゃないぞ?
「あんた、恋人はいないって言ってたじゃん」
まあそんなわけでニーナを送り届けた俺だが、ニーナへの言葉を聞かれていたせいで研究所の職員やもっと『上』の奴らから、「なんであんな勝手なことをした」なんて色々聞かれたりした。
『上』の奴らとしては、俺が説教したことでニーナが暴れたらどうしようとでも思ったんだろう。
実際、過去にはニーナの教育係として付けられた人物が説教して殺されてる。
それに、そのことについては俺も同じようなことを考えていた。もしかしたら暴れるかもな、って。
……まあ、それでも実行したわけだが。
とりあえずなんかいい感じの方向に進みそうだってのと、俺をどうこうすればニーナの首輪がなくなるからってのもあってお咎めはなしで解放された。
そして翌日からは普段通りの生活を、と思ってこいつらの訓練のために学校に来たのだが、なぜか浅田たちに遭遇すると捕まり、壁際に追い込まれながら問い詰められているのが今の状況だ。
……カツアゲって、こんな感じでするもんなんだろうか?
「いや、あいつは……」
なんて答えたものかな。
一応あいつのことは機密だ。
こいつらのチームには宮野がいるんだし、話しても構わないと言えば構わないんだが……。
「世界最強」
「え?」
なんて考えていると、徐に安倍がそう口にした。
「違う?」
「知ってたのか」
「これでも魔法使い。白と黒の炎なんて使えば分かる」
それもそうか。あいつがどこにいるとかの状況は秘密だが、あいつの存在自体は知られてることだしな。その能力を使うところだって見た目だって写真に撮られているんだから、安倍が知っていてもおかしくはないか。
……まあ、どうせいつか『勇者』である宮野とその仲間には話す時が来るんだし、それが今でも構わないか。
「なら、次の休みの日に連れて行ってやる」
それにこいつらはあいつと歳が近い。
無理だとは思う。思うんだが……それでも、できることなら話し相手くらいにはなれるようになってくれるといいなと思う。
——宮野 瑞樹——
佳奈が浩介を問い詰めた日から二日後、瑞樹たちは大きな建物のあるいやに警備の厳重な場所——浩介のいうところの研究所に来ていた。
今回もいつものように建物の入り口で佐伯が待っていたが、瑞樹たちが来るとわかっていたからかタバコは吸っていなかった。
「佐伯さん、今日はよろしくお願いします」
「ああ」
佐伯は頷くと、浩介の後ろについてきていた瑞樹たちに視線を向けた。
瑞樹たちはこんな警備の厳重な場所へと連れてこられ、ここはなんなんだ? などと思いながらあからさまにならないように周囲に視線を巡らせていたのだが、佐伯が自分たちのことを見ているのに気がつくとすぐに意識をそちらへと向けた。
「初めまして。僕は佐伯浩史。ここの責任者だ」
そんな佐伯の自己紹介が終わると、瑞樹たちも簡単な自己紹介を行ない、面通しを終わらせる。
「うん。それじゃあ行こうか。ああ、くれぐれも逸れないようにしてくれよ? じゃないと迷子になるからね」
言い終えると瑞樹たちの返事を待つことなく振り返った佐伯は、そのまま後ろを確認することなく建物の中へと進み始め、浩介と瑞樹たちはその後を追って建物の中に入っていった。
「……ねえ。ここ、なんでこんな面倒な造りになってんの?」
何度も何度も曲がるというかなり複雑な造りをしていることに疑問を持った佳奈は、前を進む康介にそう問いかけた。
「その辺の話も後でな。今はとりあえずついてこい」
だが、浩介から返ってきたのはそっけない返事だけだった。
いつもならば軽口混じりだったりはするがちゃんと教えてくれるのに、今回ばかりは違うその様子に問い掛けた佳奈だけではなく他のメンバーたちも困惑している。
佳奈に至っては「なんなのよ……」などと呟いているが、それでも一行は進んでいく。
そして十分ほど歩いてからようやく目的の場所に辿り着いたのだろう。前を進んでいた浩介たちの足が止まった。
「佐伯さん。後の案内とかは任せても構いませんか?」
「ああもちろん。そのための用意はしてあるからね。君はアレのところに行くといい」
「では、そいつらをお願いします」
浩介は佐伯と簡単に話を終わらせると、瑞樹たちの方へと振り返った。
「詳しい事情やここについてはその人が教えてくれる。一応言っておくが、失礼のないようにな」
そしてそれだけ言うと、浩介は佳奈達から視線を外して歩き出した。
「あ、ちょっ!」
「なんだ?」
が、慌てて止めようとする佳奈の声に反応して、浩介は足を止めて再び佳奈達の方へと振り返った。
「伊上さんは、一緒にいないんですか?」
「ああ。俺はちょっと別の用事があってな」
瑞樹の問いに簡単に答えた浩介は、今度こそ瑞樹たちに背を向けて近くにあった階段を降りてどこぞへと歩いて行った。
「それじゃあ君たちはこっちだ。おいで」
佐伯がそう言いながら目の前の扉を潜ると、瑞樹たちは一度顔を見合わせてから佐伯の後を追って部屋の中へと入っていった。
まず目に入ったのはさまざまな機材だ。片付けてあるのだろうがそれでも普通の部屋には置かれていないような大型のものも置かれており、どうしても目を引く。
そしてそれらを目にした後に気になるものは、一面のガラスだ。
四方を壁に囲まれた部屋の中で、一面だけがそのほとんどをガラスで覆われていた。
「どうぞ。かけると良い」
佐伯が勧めた先には、二組のソファがテーブルを挟んで置かれていた。
とてつもなく気を引くガラスの先にある光景を見たいとも思うが、リーダーであるからか瑞樹はそんな誘惑を振り切って率先して勧められた席へ座った。
他の三人も瑞樹に続くように座ると、ここの職員だろう人物がそれぞれの前に飲み物が置いた。
それを見た佐伯は、瑞樹たちの気を楽にするためか少し戯けたような口ぶりで話し始めた。
「やー、それにしてもこんな早く『天雷の勇者』に会えるとは、まさかだねー。ああ、これ僕の名刺ね」
そうして佐伯は瑞樹達に名刺を差し出していく。
佐伯の言う『天雷の勇者』というのは瑞樹に与えられた勇者としての称号だ。
本人はそんな二つ名を与えられ、なおかつその名を呼ばれることを恥ずかしがっているのだが、世間にはそれで通ってしまっているし、今後の活動ではそう呼ばれるのでもうどうしようもない。
瑞樹はそんな自身に与えられた二つ名を呼ばれた恥ずかしさを誤魔化すためか、自身の前に置かれたカップに手を伸ばして飲んだ。
「——ところで、ここはどんな所なのでしょうか?」
そしてカップを置くと、視線を佐伯に向けて問いかけた。
「ここは覚醒者、およびゲートに関しての研究をしている場所だ。それと——罪を犯した覚醒者の隔離だね」
たったそれだけの簡単な説明だったが、簡単だったからこそ明確に表されたその言葉に、瑞樹たちは目を見開いた。
だがそれも当然だ。今の佐伯の言葉をわかりやすく言い換えれば、つまるところ、ここは監獄なのだから。
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