第58話気配の察知
「宮野、お前は勇者だ。だが、さっきも言ったがお前達はまだまだ未熟だ。相手が一級であっても、もしかしたら三級であっても倒される可能性がある」
俺は三級だが、正直なところ俺がこいつらを殺そうと思ったら割と簡単に殺せる。
それは俺がこいつらと割と親しくしているからではなく、純粋な技量の問題だ。
「わ、私はそんなことしないわ!」
「ああそうだな。まだまだ力の制御が甘いし、性格的にやらないだろうが、そんなのは外からじゃ分からないし、できるってこと自体は変わらない」
いつだって上の奴らは個人の思いや性格なんて勘定に入れず、文字だけでそいつを知った気になって判断するもんだ。
だから、重要なのは『やる』かどうかではなく、『できる』かどうかだ。
もしそれが『できる』のであれば、相手は『やる』ものとして判断するだろう。
そうなれば、『自国にとっての脅威』の完成だ。命を狙われる理由としては十分すぎる。
「だから、もし〝万が一〟が起きた時に生き残るために、危機を察知する力が必要なんだ」
そしてそれは勇者だけではなく、それと共に行動するチームメンバー達にも必要なことだ。
「それを踏まえた上で、今後の方針について何か異論がある奴はいるか?」
そう問いかけるが、宮野達は誰一人として言葉を発することなく、話しを始めた時よりも暗い顔をしていた。
「いないみたいだな」
「でも、危機を察知する力なんて、どうやって鍛えんのよ。あたし達戦士系は魔法を使えないんだけど?」
「戦士系っつーか、この場合魔法を使えないのはお前だけだけどな」
一応宮野も戦士系として登録してあるが、勇者として選ばれるほどの規格外の能力のおかげで魔法も使える。
「まあでも、戦士だろうが魔法使いだろうが同じ方法だから安心しろ」
そして一度軽く宮野達を見回してから俺はその方法について話始めた。
「お前達には二つの訓練をやってもらうが、まず一つは殺気を感じ取ってもらう」
俺がそう言った瞬間に、わずかだがその場の空気が緩んだ。
こいつら、何いってんだこいつ、とでも思ってるな?
「馬鹿みたいだとか思うかもしれんが、実際にそう言うのを感じ取ることはできる。こんな世界になって魔法なんてものができるようになったから、魔法使いにしか魔力がないと思ってるかもしれんが、それは間違いだ」
魔力を自由に扱うのは魔法使いしかできないが、魔力そのものは誰にだって、何にだって宿っている。
「生き物である以上は、誰にだって、何にだって魔力がある。殺気や鬼気や怒気、そう言った『気』ってのは無意識の魔力の発現だと言われてる。感情によって指向性を与えられた魔法になる前の魔力、それが殺気だとか視線だとかそう言うもんだ。それを感じ取れるようになってもらう」
だが、俺がそう説明してもピンと来ないようで、わずかに困惑しているのがわかる。
まあ、こいつらは実際に殺気なんて受けたことはないだろうし、仕方がないと言え仕方がない。
「……まあ、言ってもわからないんで実演するとだな……」
俺は言葉と同時に、殺してやる、という気持ちを込めて宮野達を睨みつけた。
「「「「っ!!」」」」
その瞬間、宮野達はビクリと反応をしたが、それだけだ。
一応宮野と浅田は身構えてはいるが、武器を手にすることも、後退することもしていない。それじゃあだめだ。
「……こんな感じだ、絶対に相手を殺す。そう思って、それだけを思っていればできないこともない」
普段は魔力の無駄になるのでそんなことはしないように制御しているが、やろうと思えばできる。威嚇として使えないこともないしな。
「そもそも、今まで『気配を消す』なんてことをやらせてきたんだ。お前らはもう『気』ってもんを知ってるんだよ。それを今度は他人の気配を察知するだけだ」
「……殺気についてはわかりました。ならもう一つは?」
「簡単に言えば経験だな」
殺気を受けて強ばった体をほぐすように、宮野は息を吐き出してから問いかけてきた。
「違和感を感じ取れ」
「違和感……?」
「ああ。違和感を感じるってのは、自分が今まで見聞きしてきたことと認識にズレがあるから起こることだ。何も知らないで初見なら違和感なんて起こりようもない」
「つまり、違和感を感じ取れるように——何かあった時に異常を察知できるようにいろんな経験をしろってことですか?」
「正解だ。だがまあ、経験を積むなんてのはどう頑張っても時間がかかる。だから、俺がお前達を襲う。訓練中も、ダンジョンに潜ってる最中も、学校での生活でも。俺はお前達を殺すつもりで攻撃する」
最初のうちはダンジョン内ではあまりやるつもりはない。死んだら元も子もないしな。
まあ、余裕がありそうだったらやるけど。
「とは言っても、殺すつもりって言ったが当然ながら実際に殺したりはしない。だが、実戦と同じように避けろ」
真剣な表情で言った俺の本気度が伝わったのか、四人も同じように真剣な表情で聞いている。
「まあ具体的にやる事を説明すると、だ。俺が殺気や敵意を放ち、それから十秒後に攻撃するから気付いて対策をしろ」
相手の殺気や悪意なんかを感じ取ることができるようになれば、こいつらが生き残る率が格段に上がるだろう。
「そして危ない状況、起こりうる危険を記憶しろ。それがお前達を生き残らせる力になる」
「「「「はい!」」」」
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