第57話『勇者』の危険性

 

 ──◆◇◆◇──


 そして正月を終え、学校が再開するといつも通りの日常へと戻った。


「よーし、じゃあお前達のこれからについてだが……お前達はこれから危険な目に遭うかもしれない。そう言うわけで、一応今までもそうだったが、これからやる訓練は危機察知能力の向上を重点的にやる」

「ちょ、ちょっと待った! 何がそう言うわけよ! 危険な目ってどう言うこと? あんたがわざわざそう言うってことは、ダンジョン以外のなんかがあるってことでしょ?」


 俺は以前佐伯さんにも言われたようにこいつらの危機回避能力を鍛えようと思ったのだが、浅田がそういって突っかかってきた。


 今までも鍛えてきたわけだし、俺がこのことを言い出すのはそんなにおかしなことだろうか?


 俺の言葉の些細な違いに気づいたんだとしたら、よく見ている、とでも言えばいいのか?

 まあなんでもいい。


「……お前らは、『勇者』って称号の意味をどれくらいわかってる?」


 元々説明するつもりだったので、俺は浅田達——特に宮野へと視線を向けて問いかけた。


「え? 意味?」

「えっと、特級の中でも上位の力を持ってる者、ですか?」


 宮野が答えると、他の三人も頷いているが、それ以上の言葉は出てこない。


「それだけか?」


 俺が改めて問うと、他に理由があるのか? と言う態度で四人は顔を見合わせた。


「人間的に優れてる人?」


 少し間を置いてから安倍が軽く首を傾げながらそういった。


 確かに武力的な強さも人間的な強さも必要だが、それは勇者になる条件ってだけで、勇者という称号の『重さ』とは別のものだ。


「それも間違いじゃないが……勇者ってのはな、お前らが思ってるより、ずっと重いものなんだよ」


 俺がそう言っても宮野達は今ひとつ理解しきれていないようで、眉を寄せている。


「今の世の中では、冒険者によるゲートの破壊より新たなゲートの出現の方が多いのに、その数が拮抗している。その理由は、『世界最強』なんて規格外が拮抗から超過した分を壊してきたからだ。だが、そのままだとそいつが何かあった時にやばいことになる」


 ここ数年になって『世界最強』なんて存在が活動し始めたから拮抗することができているが、もし事故や病気で死んだら、大変だ。


「数年前まで、ゲートの数が増えていってる、なんてテレビでやってたが、それがもう一度起こるようになるんだよ。ゲートの数は増え続け、でも冒険者の数は足りていない。そんな状況になる」


 減る量よりも増える量の方が多ければ、当然ながらいつかは今の生活は破綻する。


 テレビでは一般人を不安にさせないためなのか本当に安全だと思っているからなのかわからないが、ゲートによる危険性はあまり報道しない。


 だが、今のこの世界はそう楽観できるほど甘い状況ではないのだ。


「そのために、単独でゲートをどうにかできる『勇者』の存在は重要になってくる。世界最強がいなくなったとしても自分たちが生き残れるように、ってな」


 だから、強くなってゲートを壊そうって考えていたあの天智お嬢様の考えは、それ自体は間違っていないのだ。まあ、それを他人にまで押し付けんなとは思うが。


「……だが、それを邪魔に思う奴だっている。地球の存亡なんて知ったことか。ゲートで世界を覆い尽くそう。なんて考えてる奴らがな」


 具体的に言えば、以前テレビでもやっていた救世者軍の奴らだ。あいつらはゲートを壊そうとする者達へのテロ活動をやっている。

 当然ながら冒険者は狙われるし、勇者なんてのはかっこうの標的だ。


「だがそいつらはまだマシだ。何せ明確な悪としていてくれるんだから、警察やら何やらを使って駆除しやすい。だから、本当に厄介なのは別の奴らだ」

「……どんな奴よ、それ」

「一つの国が勢力を増やすことが気に入らない奴ら、だな」


 そう。テロ活動に勤しんでるバカどもは、脅威ではあるが対応は簡単だ。向かってきたらぶっ飛ばす。それだけでいいんだからな。


 だが、今俺の言った奴らはそうはいかない。


「日本には十人の勇者がいるが、世界に存在している勇者級の割合から考えると、日本の面積で十人ってのは多いんだ」


 勇者は世界でも百人もいないことを考えれば、日本に十人ってのはどう考えても多いだろう。


「もしこのまま日本の勇者の数だけが増えていったら、外国としては危機感を抱くだろうな。何せ、極まった勇者なら一人だったとしても一級を千人相手にしても勝つことのできる強者なんだから。能力とやり方次第では、一人で国を落とせる。……宮野、お前だってそうだ」

「でも、勇者って言っても私、国を落とすだなんてできな——」

「できるさ」


 宮野は困惑したような様子で首を振ったが、俺はそれを最後まで言い切らせることなくはっきりと否定した。


「できるんだよ。国を落とすってのは、何も直接的な破壊力だけじゃないんだ」


 俺によって自身の言葉を否定された宮野の瞳には、最初よりも真剣味と、そしてわずかな怯えが混ざっていた。


「お前の力は雷だ。今の社会で、電気を遮断されたらどうなる? 電気を介して電化製品を全て爆発させたら、どうなる? 今はできないかもしれないが、将来的にできないかって言うと、そうじゃないかもしれない」


 むしろ、宮野の力は今の世界としては炎なんかのわかりやすい危機よりもよっぽど怖いだろうな。


 何せ、ただ電気を発生させるだけじゃなくてその先、電子信号まで操れるようになったら、世界中の機械を乗っ取ることができるんだから。


 そこまでできるかわからないが、『上』の奴らはできると考えるはずだ。

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