第51話アドバイス

 

「まだ数回しか来てねえが、やっぱ短期とは違って伸び伸びやってんなぁ〜」


 今日は教導官同伴の授業があるので、俺は学校に来ていた。


「んで、相変わらず三十以上の教導官は俺だけ、か。みんな若いねぇ」


 歳いってても二十……八ってところか?


 なんとなしに周りを見回していたのだが、見事なまでに若者しかいない。


 十二歳以上の覚醒は遅く、才能面でのディスアドがあるって言われてるからな。若い奴ばっかになるのもわかるけど……。


「若すぎねえかなぁ、なんて思うんだけどな。二十歳だと冒険者として活動してから二年しか経ってねえってことだろうし、教師役としてはどうなんだろうな?」

「あんた、休んでないで動きなさいよ!」

「あ?」


 周囲にいた他の教導官を見ながらそんなことをボヤいていると、突如最近ではもはや聴き慣れた声が横から聞こえてきた。この声は浅田だな。


「あんたは教導官なんだから、戦わないにしてもしっかりとあたし達のことを見るくらいはしてもいいんじゃないの?」

「……おっさんがマジマジと女子高生の体操着姿を見てたら、それはそれでやべーだろうが」


 俺は学校に来ていると言ったが、何も校舎の中でお勉強ってわけじゃない。


 今いるのは複数のチームが同時に動いても問題ない広さのある演習場で、やっている授業は他のチームとの模擬戦だ。


 一応俺は外部の者だから身につけているものも簡易的な冒険者としての装備だが、生徒は多少安全のための細工は施されているものの、着ているもの自体はは体操着だ。


 体操着といってもブルマではなく短パンだが、どっちにしてもまじまじと見るわけにはいかない。


 なので俺は後ろで魔法補助用の杖に寄りかかって他のチームなんかを眺めているだけだったけど、どうやら今の試合は終わったようだ。


 こいつらと対戦相手へと視線を向けてみるが、様子からしてこいつらが勝ったみたいだな。まあ順当だろう。


 正直俺が何もしなくてもこいつらは勝てるだろうし、俺が手出しして勝つよりも、手出ししないで負けた方がこいつらの成長になるだろうから個人的にはあまり手を出したくないと思っている。


 それに、ぶっちゃけ戦うのがめんどくさい。

 いや、戦うために雇われたといえばその通りなんだけど、できることなら面倒なので戦いたくない。


 ……ただまあ、一応教えるためにここにいるんだし、助言も何もなしってのはあれだな。適当に何か言って誤魔化すか。


 そう考えると俺は杖に寄りかかっていた状態から姿勢を正し、目の前に集まっていた宮野達へと視線を向けて俺の感じたことを伝えた。


「安倍は敵の阻害を中心に考えろ。初撃での広範囲に効果の出る魔法は良いが、乱戦においては範囲に効果の出る魔法はむしろ邪魔になる。敵が味方に接近した状態でのお前の役割は、敵の後衛が魔法を使い始めたらそれを止めること。それから味方の前衛のために敵の前衛に隙を作ること。下手にダメージを与える必要はない。目か喉を狙え。そうすれば、どれほどダメージがなくても敵は怯む」


 繊細な操作ができるのなら味方が接近戦中の魔法攻撃も構わないが、安倍はあまり繊細な操作を得意とはしていない。

 できないわけじゃないが集中も時間も使う。だったらその分を他に回した方が効率的だ。


 安倍の使う魔法の系統は炎だし、視界の端で発生させただけでも気が散る。

 そしてそんなものが顔面目掛けて飛んできたら嫌でも意識しないわけにはいかない。

 たとえそれがそれほど威力のこもっていない虚仮威しだったとしてもな。


「北原。お前の役割は敵の注意を引くことと、敵の注意から外れることだ。怪我をしても回復される治癒師ってのは、戦う相手からすると邪魔に思うもんだ。だから治癒師が真っ先に狙われるわけだが、それを利用して敵の注意を惹きつけ、意識を逸らせ。ただし、実際に狙われたらやられるから前に出過ぎないようにしろ。難しいが、お前が一歩動くだけで味方の役に立てることがある。気をつけないと味方の隙を作ることにもなりかねんから戦場をよく見て、味方と敵の状況や地形なんかをしっかりと把握することに努めろ」


 北原は回復特化型だから、基本的に誰かが傷つかないと目立ってやることがないんだよな。


 ただまあ、それでも何もできないってわけじゃない。


 今言ったように、敵の気を引くことはできるし、治癒師は生き残ることそれ自体が援護になると言える。


 それに、周囲の警戒をすることもできる。乱戦中に他の敵が更に乱入なんてことにならないようにするためにも、警戒役は必要だ。


 攻撃という点では何もすることはないが、細々としたことならできることは結構ある。


「宮野は下手に魔法を使おうとすんな。安倍にも言ったが、微細なコントロールができない魔法は邪魔にしかならん。見せ札として使うのなら十分だし、光と音が出るから囮として注意を集めることはできる。が、直接的な攻撃力にはならん。使いたかったら安定した威力とコントロールで連続百回電気を出せるようになってから使え」


 宮野はなぁ……能力的にもバランスがいいし、勤勉だから基本的には言うことがない。


 だが、最近は特級モンスターにぶっ放した一撃が忘れられないのか、魔法を使おうとしすぎているように感じる。

 以前だったら剣で切りかかってた場面でも、魔法を使って肩をつけようとする場面がそれなりにある。


 確かにあれだけの威力を出せるんだから、使いこなせれば魔法を混じえての戦いってのはすごく力になるが、今の状態では戦力の低下になってる。


 魔法を使っての戦闘をするのなら、まずは戦闘ではなく普通の訓練で制御がしっかりとできるようになってからにするべきだろう。


「んで浅田、お前はもっと突っ込め」

「はあ!? そんなことしたらすぐにやられるでしょうが!」


 普通なら戦士に突っ込めなんて言わないが、こいつの場合は別だ。


「平気だ。お前の後始末はお前の仲間がやってくれる。お前の持ち味はどう足掻いても注意を惹きつけるほどのその一撃だ。お前の攻撃は生半可な防御じゃ防げない。だからお前の攻撃は避けるしかないんだが、お前が暴れれば暴れるほど敵はお前へと目を向ける。ともすれば、勇者よりもな」


 こいつは大槌というそれなりにリーチがあって一撃の威力が高いものをぶん回してる。

 仲間と連携をして小綺麗にまとまった動きで乱戦をするよりも、同士討ちを気にしないで存分に暴れさせて他がこいつのサポートに回った方が効果的だ。


「勇者の名前は確かに強大だ。人の目を惹きつけるには十分だろう。だが実戦になってしまえば、ろくに勇者としての力を使えていない剣技だけの奴よりも、全力で対処しないとヤバい一撃をお手軽に放ってくる明確な脅威の方が敵を惹きつける。現時点でのこのチームの主役は、お前だよ」

「しゅ、しゅやく……? 瑞樹じゃなくってあたしが?」


 浅田は俺が何を言っているのかわからないのか不思議そうにしているが、正直攻撃力という一点において、こいつは特級に迫る力を持っている。


 まあその分機動力とか耐久力とかは他の一級の平均よりも下くらいになってるけど、チームとして戦うのならその攻撃力を好きなように振るわせたほうが強い。


「もちろん主役って言っても状況に応じて変わるし、これから先は分からん。宮野が力を使いこなせるようになったら、宮野の方が敵の目を引くかもしれん。だが、今の状態のこのチームでの戦いは、お前が主役だ」

「……ふ、ふーん? そこまで言うならやってやろうじゃない!」


 俺が煽てると、浅田は真剣そうな表情をしながらも満更でもなさそうに口元をにやけさせながら頷いた。


「ってわけで、お前達は補助な。基本的な作戦としては、乱戦になる前は魔法でドーンとやって、接近したら宮野が斬りかかる。で、『勇者』に気を取られてるところで浅田が突っ込んで暴れる。あとは宮野が補助に回って浅田が崩した陣形の隙を確実に仕留めていく。安倍は接敵後は敵の邪魔だな。北原は、敵全体の俯瞰と、指示だし……は、無理だとしても、敵が何かしそうだと思ったら注意を促せ」

「「「「はい!」」」」


 宮野達は俺の言葉に対して元気に返事をすると、次のチームと戦うべく空いているチームを探し始めた。


「……ん? ……って騙されそうになったけどあんたも闘いなさいよ!」


 が、俺から離れていこうと数歩ほど歩いたところで、浅田がこっちに振り返ってそんなふうに叫んできた。


 チッ。忘れてなかったか。


「この程度で手助けが必要になるようなら、素直に負けといた方がお前らのためだ。敵の教導官は脅威になるかもしれんが、それに対処するのもまた経験だ」


 命がかかってるわけでもないんだし、負けたとしてもそれもいい経験だ。少なくとも、負けたことがない奴よりは強くなれると思う。


「……ってわけで、頑張れ」


 俺はそう言うとポケットから棒付きの飴を取り出して口に入れると、我関せずとばかりに浅田から視線を逸らした。

 ここでタバコとか出せるとかっこいいんだが、冒険者でタバコ吸ってる奴って少ないんだよな。心肺機能の低下って真面目に命に関わるし。

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